POSITISM

適度に適当に。

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世界の終わりを変えるモノ - 第二話 -


ハコニワノベル

「んもー! 夜更かしはダメって言ったのに! 仕方ないなぁ、ケイは」

 そう言いながら、ひなちゃんは私が出しっぱなしにしていたティーカップを洗っている。テキパキと洗い物を終えると「じゃ、十五時に図書館まで迎えに行くから待っててね」と言って出かけて行った。たぶんバイトだろう。ひなちゃんは喫茶店でウェイトレスのバイトをしている。ちょっとお洒落な喫茶店なので、ひなちゃんがそこで働いているのがあまり想像できない。こんなことを言ったらきっと怒られちゃうだろうけど。
 開けたままだった窓を閉めて立ち上がる。読書したまま眠ってしまったので、首が少し痛かった。軽く伸びをしてからシャワーを浴びる。一応合コンらしいので、少しだけお洒落をしてみることにした。と言っても普段着ている服に薄手で黒地のチェック柄のコート、まだ春先で肌寒いのでパステルホワイトのストールを巻いただけ。それから透明感のあるオレンジ色のマニキュアを手にとってみたけど、流石にすべての指に塗るには時間が足りなかったので左手の小指にだけ塗った。
 昼前に家を出て図書館に向かう。青色を増した空に白い雲、名前も知らない街路樹の木々が葉を伸ばしはじめている。肩に下げたバッグに図書館で借りた三冊の本と「太陽と月の姫」が入っている。軽くランチを食べて、図書館で借りた本の返却処理を済ませても、きっと十五時まで時間があるだろうから、そのまま図書館で「太陽と月の姫」を読むつもりだ。まだ上手く訳せていない部分も、図書館にある辞書を使えばもっと上手く訳せるかもしれない。
 交差点を渡り、商店街の入り口を通り過ぎてすぐの所にあるお惣菜屋さんで、コロッケサンドとペットボトルのミルクティーを買った。ここのコロッケサンドは特に出来たてが美味しい。最寄り駅の近くにある小さな公園のベンチに座って、コロッケサンドを美味しく平らげた。少し休憩してから駅まで移動して、図書館が併設されている四駅先の駅まで向かう。
 土曜日のお昼時なのでそこそこの乗客がいたけれど、運良く角に座ることができた。目的の駅までほんの少し時間があるのでバッグから「太陽と月の姫」を取り出して、深い紫色のハードカバーを開いた。



   ◇



 神王には双子の娘がいた。
 明るく、活発で、時には戦場にも自ら出陣し、男達よりも勇ましく闘う双子の姉、ソル。
 物静かで、大人しく、いつも書庫で本を読み、引っ込み思案な双子の妹、タンクル。

 神王は双子が生まれたとき、終わりの予言が起こらないように、また世界を昼夜見守るようにと、ソルには太陽、タンクルには月の加護を受けさせた。双子はそれぞれ太陽の姫、月の姫と呼ばれるようになった。

「お父様、私もこの度の闘いに参加させて下さい」

「おぉ、我が自慢の娘ソル。お前が出陣してくれるならば、我らの勝利は確実なものとなろう」

「ご期待にお応えできるよう、死力を尽くします」

 ソルは太陽のように橙に輝く甲冑を身に纏い、闘いの準備をはじめた。ソルの目に迷いは微塵にもない。穂先が真紅に輝くルビーで拵えた槍を手にしようとしたとき、部屋の角から何者かが伺うような視線を投げかけていた。

「タンクル。大丈夫よ、心配しないで」

「あの……うん、解ってるんだけど」

「本当に大丈夫よ、これまで私が負けたことがあった?」

「なかった。だけど……」

「あなたがあの弓を持って闘ってくれるなら、もっと安心なのだけどね」

「……ごめんなさい」

「いいのよ、あなたに闘いは向かないわ。それにどんなに危険だとしても、お父様が窮地に立たれたとき、お救いできるのは私しかいないの。だから、解って頂戴ね」

「うん、解ってる。……だからこれを」

「これは、腕輪?」

「うん、悪しきモノを祓うペリドットの腕輪」

「タンクル、あなたの錬金術も相当な腕前になったわね」

「そんなこと……ない」

「ありがとう。これがあれば絶対に負けることはないわ」

 ソルは腕輪を身につけてから、笑顔を零すとルビーの槍を携えて部屋を出て行った。

「お姉様。どうかご無事で」



   ◇



 キィーという電車のブレーキ音とともに、電車が小さく揺れる。扉が開くと何人かが降りて、また何人かが乗車してきた。携帯電話の画面とにらめっこしている人、友達と楽しそうに会話を続けている人、本を一生懸命読んでいる人。様々な人がいる。そんな中で扉の横に少しもたれ掛かりながらイヤホンで音楽を聴いているであろう男の人が目に入ってきた。

(あの人だ……)

 それはたまに図書館で見かける人で、いつも一人で静かに図書館の窓際の指定席に座って本を読んでいる。読んでいるのは様々な物語ばかりということを、彼の読む本の表紙などで知っていた。ふと、読み終えた物語の感想を聞いてみたいと思いながら彼を見ていると、急に彼が顔を上げたので慌てて顔を伏せた。恐る恐る顔を上げて確認してみると、どうやら窓の外を見ているらしい。なんだろう? 大きく首をかしげている。
 これ以上見ていてまた目が合いそうになると恥ずかしいので、そそくさと本の世界に戻った。



   ◇



「神王さま! 妖精軍はじりじりと後退を始めました!」

「これを逃す手はない、前線に伝えよ、攻勢を強めよ! とな」

「ははっ!」

 出陣した神の国の軍は、隣接している妖精の国へと攻め込んだ。圧倒的な武力を持つ神の国の軍ではあったが、妖精の国の深く、複雑な森での戦いになかなか成果を出せずにいた。


 ──最前線

「神王からの命令をお伝えします! 攻勢を強めよ! 攻勢を強めよ!」

 オォー! という勇ましい雄たけびをあげ、神の国の軍は森の奥へと進んでいく。ソルもその中にいた。

(非力ではあるが知力と錬金術に長けた妖精族が、こうも簡単に退くだろうか)

 頭に浮かんだ疑問を反復しながら前へと進む。そこら中で巻き上がる黒煙と深い霧によって視界はほぼ無くなっていた。

「ウォォォ……」

 自分よりも前を進んでいた兵の断末魔が聞こえたかと思うと、鋭い刀身が黒煙と霧を切り裂きながら振り下ろされてきた。ガチンという低い衝突音を鳴らしつつ槍で防いだ。

(くっ……早い)

 次第に視界が晴れてくると自分より前を進んでいた兵はすべて息絶えていた。その中心に先ほど自分を襲ってきた鋭い刀身の剣を構えた男が立っている。

「まさか、君は女か?」

「女であって何が悪い、邪魔立てするなら容赦はせん!」

「悪いことは言わない、今すぐここから立ち去れ!」

「我を侮辱するか。覚悟しろ!」

「……ちっ、仕方ない」

 自分が神の国の中で神王に次いで強いということを、ソルは理解していた。兵隊長などと手合わせをしても負けることなど一度も無かった。それは慢心でも、油断でもなく、確固たる答えとして理解していた。自分よりも強いのは父である神王だけである──と。
 薄い霧に火花が散る。その度にガチンと金属音が響いた。この男、強い。剣と槍という扱っている武器の差で、遠距離からの攻撃に分があるはずなのに、容易く避けられ弾かれる。このままでは決着が付かない。

「貴様、強いな」

「今頃気付いたのか?」

「名を聞こう、我が名はソル。神王の娘、太陽のソル!」

「君が太陽の姫か……。確かに間違いなさそうだ」

「貴様、相手に名乗らせておいて自分は名乗らぬとは、未だ我を侮辱する気か!」

「俺の名は、シュバルツァ。影のシュバルツァ!」

「シュバルツァ。しかと心得た」

 ──ブォーンという角笛の音とともに、森が揺れる。

「ちっ、もうか。時間が無い。急いでここから立ち去れ!」

「ここまできて、更に侮辱するとは。その行為、万死に値する!」

 今までの遠距離からの攻撃を捨て、槍を目の前の男へと向ける。全体重をその穂先へ乗せるように、全速力で駆け出した。

「仕方がない。少しだけ本気を出させてもらう」

「減らず口は、これを凌いでから言ってもらおうか!」

 全身全霊をかけて放ったその一撃は真っ直ぐに男へと伸びた。しかし穂先が男に届いたかどうかの瞬間に、男は目の前から忽然と消えた。

「なっ? 消えた?」

「別に消えちゃいないさ」

 背後からだった。完璧に後ろを取られている。剣の刀身を後頭部に感じる。何が起きた?

「さ、早くここから立ち去れ」

 背後で剣を鞘に納める音が聞こえた。

「情けをかける気か? 我は戦場で死ねるのなら本望だ! 無駄な情けをかけられる覚えはない!」

 鋭く振り返り、槍を突き出した。が、目の前の男はその槍を片手で掴むとそれを強く引いた。槍に引き摺られるように男のほうへ体制が崩れた瞬間、甲冑の隙間から腹部に男の拳がめり込んでいた。

「すまないが時間がない。せめて毒ガスの少ないところへ」

 ソルは薄れいく意識の中で、妖精軍の毒ガスが森全体に蔓延しつつあることに気付いた。そしてそのまま男の手の中で眠るように意識を失った。



   ◇



 小さく電車が揺れる。扉が開くと何人かが降りて、また何人かが乗車してきた。駅名を確認すると目的の駅だったので、私は慌てて電車を降りて大きく息を吐いた。改札へと向かう階段の方へ目をやると、いつも図書館で目にするあの男の人の後ろ姿が見えた。




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