POSITISM

適度に適当に。

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PICO - 第1111話 -


ハコニワノベル

「ほら、恵、起きろー朝だぞ、朝」

 ゆっくりと目を開けると目の前に栄一の顔があった。驚くこともなく、自然と両手で栄一を抱きしめる。

「ちょ!恵、待て待て待て!」

 栄一が焦っているのを見るのはいつぶりだろう。なぜか嬉しくて笑顔がこぼれてしまう。栄一は「ヒドイ!これじゃ私、お嫁に行けない!」とか言いながら自分のベッドに戻ってる。

「なんか、嬉しかったよ。ありがとね、栄一」

「…ぉーぅ」

 目を合わせずに栄一が右手をあげながら答えるのを見てから、立ち上がる。

「あれ?今日退院だっけ?」

「ううん、ちょっとおじいちゃんのとこ」

「そっか」

「じゃ、行って来ます」

「行ってらっしゃーい」

 今日は雪じゃなくて雨が降っている。少し積もった雪を洗い流すようにサァサァと降っている。湿度が高くて心地よい気がした。廊下を進みエレベータに乗り込んで、二階にある院長室へ向かった。
 コンコンと響くノックの音、しばらくして「どうぞ」という声が聞こえてから重たいドアを開いた。

「恵か…どうした?」

「うん…決めたよ」

「そうか。単刀直入に聞くが、…どっちにするんだ?」

「私…やっぱり元に戻りたい。生かされてるんじゃなくて生きたいよ」

「そうか………解った」

「おじいちゃん、ごめんね?…もしかしたらさ、二度と話せないかもしれないから…。私を育ててくれてありがとう」

「謝らんでいいし、感謝もせんでいい。お前は私の孫だ。当たり前じゃないか…」

「うん。解ってる。だけど言っておきたかったんだもん」

「処置は…今夜行うが、大丈夫か?」

「今夜かぁ、急なんだね」

「ワシが処置できて処置室が使えるタイミングがあまりないんだよ。嫌なら一、二ヶ月ほどずらしたっていい」

「…ううん、今日がいい。あまり長引かせると決心鈍っちゃいそうだし」

「そうか…そう…か…」

 祖父は泣いていた。泣きながら私を抱きしめた。まるで子供をあやす様な気持ちで私は祖父を抱き返した。今こうしてここにいる私は、祖父が決断したから存在している。それをまた祖父自らの手で失おうとしている。私には想像できないほど重く、そして辛い決断だと思う。
 祖父が泣き止んでから病室に戻ると栄一は居なかった。きっとリハビリなんだろう。ベッドに腰掛けると一昨日売店で買った便箋に目が行った。まるりんや友ちゃんに手紙を書こうと思って買った便箋。それを手に取ると何の気なしにペンを走らせた。

   ◇

 有栖川 栄一 様
 
 あまり上手く書けないけれど、ちゃんと書いておこうと思います。
 栄一と出会ったのは物心付く前の頃で、それからずっと一緒にいるよね。
 私、鈍感だから気付いてなかったと思うけど
 栄一にずっと守ってもらってたんだなぁって、やっと気が付いたよ。
 
 私が辛くて泣きそうな時、私が落ち込んだ時、私が助けて欲しい時
 そんな時にどこからともなく現れてくれる栄一は、私にとってヒーローです。
 どんなに「ありがとう」を言っても足りないぐらいに
 栄一に助けてもらいました。
 
 いつか、栄一を助けてあげられるようになって
 今までのお礼をしたいよ。せめて夢の中でだけでも…。
 
 約束、ちゃんと守ってよ?
 私が眠って、目が覚めた時に傍にいて下さい。
 
 
 
 ほんとは怖い。
 何十年も眠って、今までのことが何も無かったことになったらどうしよう。
 もしかしたら二度と誰とも会えなくなるかもしれない。
 私だけ、このまま、消えちゃうのかな?
 
 だけど、栄一が起こしてくれるらしいから
 安心して眠ってくるね。
 
 おやすみ。栄一。

   ◇

 栄一への手紙があまりにダメダメだ。こんなの貰ったら栄一が困ってしまうじゃないか。書き直そう。そう思って手紙を破こうとした時、「お?戻ってたか」と栄一が病室に帰ってきてしまった。慌てて手紙を布団の中に隠しながら「さ、さっき帰ってきたとこ」と答えた。
 夕方頃にカヨリさんが来てくれて、また豪勢な晩御飯になった。これが最後の晩餐かもしれないと思った私は、また沢山食べた。談笑をしているとあっという間に時間は過ぎて、夜になると私は看護士に言われて第一処置室へと向かった。祖父から話を聞いているのか、カヨリさんも付いてきてくれて、処置室へ入る前にきつく抱きしめられた。

「…カヨリさんは、知ってるんだね?」

「そうね、知ってる。だけど信じてるわ」

「ありがとう」

 ゆっくりと処置室の扉を開ける。二重扉の向こうで祖父が資料を見るのを辞めて、私の方を見ながら頷いた。二重扉に手をかけると、思った以上に重たくて動かなかった。少しだけ扉を開くのに手間取っていると後ろから「恵!」と呼びながら栄一が息を切らせて片足で走ってきた。手には捨てるはずだった手紙を握り締めている。

「なんでそれ持ってるの?」

「病室に落ちてた。俺宛だから読んだぞ」

「そっか、出来たら処置前に会いたくなかったよ…せ、せっ…かく…吹っ切れた…のにぃ…」

「バーカ。安心して眠ってこい!」

「…へっ?」

「ちゃんと起こしてやるから」

「…」

「今から言うことは、眠ったら忘れてもいいけどさ」

「…?」

「俺が勉強し出したのは…医者になりたいからなんだ。俺が医者になったら、お前の検診俺がしてやる。そしたら病院に行くのも少しは気が楽だろ?なんなら俺がお前の家に行ってもいいしさ。…だからその、なんだ、一生、俺がずっと傍にいてやるよ」

「……」

「…なんか言えよ。せっかくこっちが恥ずかしい思いまでして言ってんのにさ」

「…栄一のバカ、バーカ!絶対忘れてあげないもん!絶対…絶対…」

「恵は鈍感だからなー、すぐに忘れるんじゃない?」

「絶対忘れないもん!絶対…忘れない…よ…」

「とにかく、安心して眠ってこいよ。しばらく起きれなくたって、俺が絶対に起こしてやるからさ」

「…ぁ…ありがとぅ……」

 もう一度、二重扉に手をかける。あんなに重たく感じていたのに、今度は不思議と軽い気がした。振り返らないで中に入る。診察台に到着すると、後ろでガチャンという音と共に扉が閉じた。そして祖父の処置が始まり、暗く落ちるようにではなく、明るく浮き上がるように私は眠りについた。




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COMMENT

●まごすけさん

キーワードは全部使う派、しのめんです。(なんじゃそりゃ)
いや、使いやすいキーワードをどうもありがとうごじゃーました!


●志津さん

(T^T)ヾ(^^ )

うー(T^T)

キター!キーワードキター!!

…あ、すいません。取り乱しました(汗

いよいよクライマックスですね。良い場面で書いて頂いてありがとうございます。これからがまた楽しみです!

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