POSITISM

適度に適当に。

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PICO - 第1110話 -


ハコニワノベル

 翌日の日曜日、祖父から軽い検診を受けると「異常なし」と言われた。これで完全に入院する理由がなくなってしまった。栄一にも「お前もう元気なんだから、ちゃんと学校行けよ」とか言われたし。ただ祖父は少し顔を曇らせるように続けた。

「恵、その、なんだ、退院しても今までと同じで検診をな…」

「充電?」

「うむ…まぁ、そうだ」

「面倒なんだよねぇ。毎週毎週」

「しかしだな、きちんと充電してやらんと、恵の身体は…その…」

「植物人間に戻ってしまう。でしょ?」

「……そうか、そこまで知ってるのか。うむ…その通りだ」

 祖父は佐々木の残した研究資料からほぼすべてを知り得ていた。驚いたことに佐々木は医療機器の開発によって数千万人の人々を救っていたという事実だった。祖父の話によると佐々木はそれらを「副産物」と呼んでいたらしい。

「……おじいちゃん、例えば…なんだけどさ」

「どうした?」

「……例えば、私の身体の中から【P-ライジン】を全て出してしまっても、死んでしまうわけじゃないんでしょ?」

「それは…断言は出来ん。死んでしまうかもしれないし、目覚めるかもしれない。それがすぐになのか十年後なのかは解らん」

「…そっか」

 祖父は立ち上がると窓の外を見ている。小さかった頃はとにかく大きくて頼れた背中も、今では少し小さくなってしまったように見える。だらしなく羽織っただけの白衣と首に下げている聴診器が少しだけ揺れていた。

「恵は…どうしたい?」

「え?」

「いや、いずれはな、充電出来なくなってしまう状況も多々出てくるだろう。そうなった時に何度も命の危険に怯えて暮らすより、きちんと回復してそれからの人生を生きていく方が幸せだ…と、じいちゃんは思う」

 気にしないでいようといたことを言われた。急に糸が切れるように、私は一週間の眠りから覚めてからずっと頭の中にあった、誰にも言えずにいた言葉を吐き出していた。

「私だって、戻れるなら戻りたいよ!だけど、植物人間に戻れるかどうかも解らないじゃない…。それに、植物人間に戻れたとして、そこから私が目覚めるのは何年も先の話でしょ?目覚めた時の私はどうなってるの?あの事故から今日までの記憶は?体験や経験してきたことは?それはどうなるの?消えちゃうの?なくなっちゃうの?私は長い夢をみてただけになるの?ねぇ!私は誰なの?本当は…本当は……あの事故の時に私なんて…し」

 祖父の右手が鋭く私の頬を張った。

「いいか恵。お前が助かった経緯にはワシにも責任がある。けどな、お前の命を救ったのは義人と由紀子…お前の両親だ。あの事故の中で、お前だけは無傷だったんだから」

「…そんな…ウソよ!」

「あの事故は……反対車線のトラックが暴走し、恵達の乗った車にほぼ正面衝突して起きた…」

 佐々木に捕らえられ注射を打たれた後に見た夢のようなものを思い出した。

「義人はトラックとの衝突を避けられないと判断して、後部座席にいた由紀子とお前を車の左側へ突き飛ばしたらしい。それから由紀子はお前に覆いかぶさった。そしてトラックが衝突して由紀子とお前は車の外へ投げ出され、義人は車に取り残された」

 ──グシャグシャになった車からのぞく父親の左腕。

「由紀子は車から投げ出される時に窓ガラスを突き破っていて、投げ出された時にはすでに絶命していた。だけど救急隊員が到着しても、恵を離さなかった。由紀子がお前の身体を覆っていたから、お前は奇跡的に無傷だった」

 ──頭から血を流しながら自分を抱きしめる母親。

 言いながら祖父は涙を流していた。何度も警察と連絡を取り、事故の詳細をこと細かく聞いていたらしい。外傷はないものの脳への衝撃が強く、私は昏睡状態になった。その後、半年経過しても回復の兆しが見えないため、「永続的植物状態」と診断されてしまったらしい。
 その数日後、佐々木が祖父の前に現れて言ったそうだ。「私が作った最新の医療機器なら治せますけどね」と。このまま生きているが意識がないままの孫を見ていられなくなった祖父は、佐々木の提案を受け入れたそうだ。佐々木の医療機器(という名目の人体実験)は驚くほどの成果があり、医療機器投入の翌日に私は目を覚ましたと言う。
 ケガをしても出血しない。走っても疲れない。切り刻まれても、貫かれても痛くもなく瞬時に治ってしまう。その代わり、週に一度は充電を行う必要があるし、充電が切れかけると身体が思うように動かせなくなる。放置すればそのまま植物状態…。思い返してみても、自分で自分の身体だと認識できないでいる。

「これからどうやって生きるかは、恵が決めなさい。そのためにお前を一人暮らしさせたりしているんだ。自分で自分の人生と向き合う為にだ」

 戻れるなら戻りたい。普通の人として生きたい。パパとママが救ってくれた命。どう生きるのが親孝行になるんだろう。こんな無理やり生かされる方法を望んだだろうか。
 目を閉じて考える。人体実験のおかげで今日まで生活して出来た思い出、出来事を思い返す。これらは生かされていたから得たこと?それとも、生きていたから得たこと?

「別に今すぐ決める必要はないんだぞ?そのまま生きるのだって可能なんだ」

「……うん。解ってる。でも…ちゃんと考えるよ。」

 悩みながら、考えながら、ゆっくりと病室に戻った。栄一は勉強らしきものをしていたけれど、私が入るとそれらをサッと片付けてしまった。まだ片足がギブスのままになっている栄一を引きずるように連れ出し、私は屋上に向かった。屋上に出ると灰色の厚い雲が空に広がっていた。

「あのな、これでも俺、怪我人なんだぞ?」

「あぁ…うん…ごめん」

「なんだ、元気ないなー。なんかあったか?」

「ううん…別に。ちょっと気分転換」

「そっか」

 栄一は何も聞かずにいてくれた。ずっとそうだった気がする。私が事故にあったことも、佐々木に捕まっていた日のことも、栄一は何も聞かずにいてくれた。いつも私の近くにいて、励ましてくれてたんだ。気が付くと涙が溢れていた。

「お、おい…恵?どうした?どこか痛いのか?」

「ううん、違う。違うよ」

「……俺に出来ることあるか?何でも言っていいぞ?」

「…私が眠って……」

「眠って?」

「目が覚めた時に、栄一に会えるかな?」

「なんだ、起こして欲しいのか?恵って朝弱かったっけ?まぁ、いいけどさ」

「ふふ。じゃぁよろしくね」

 冷え切った空から雪が降る。あの日から今日まで、沢山の思い出がある。すべてが夢になっちゃうかもしれないけれど、眠ることは怖くない。だって幼馴染が私を起こしてくれるらしいから。




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COMMENT

●るどさん

やっと終盤です。
個人的な目標はなんとか達成予定。

安心できることって幸せですよね。


●ariesさん

よし、なんだ、その、アレだ
最終話前に1つネタバレされてるなんて言えない。
口が裂けても言えない!

いいな♪いいな♪
全てが1になって
また1つ増えたとき
出来事は処理されて
また0000に戻る。
のかなぁ。
ワクワク♪

いよいよ終盤ですなぁ

起こしてくれる栄一がいるなら
安心して眠れるね。。

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