POSITISM

適度に適当に。

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PICO - 第1001話 -


ハコニワノベル

 薄暗い部屋、切られた身体に傷はなく、空けられた穴もすでに消えてしまった。自分で自分という存在が信じられなくなってきた。おかしいな、受験シーズンに悩むようなごく普通の高校生をしていたはずなのに。

「人体が傷を負うと、普通であれば出血する。そして時間の経過と共に血管が縮み出血は止まる。それはなぜか?出血を続けると人は死ぬからだ。なら、傷を負った瞬間に血管を縮ませ出血を止める。その後の再生までのプロセスを、通常の何万倍もの早さで行うとどうなると思う?」

 佐々木は私の回答も待たずに続ける。

「外傷による死が限りなくゼロになるのだよ」

 佐々木はモニターに写るレントゲンのようなものを拡大させた。

「これが君の血管の中にいる【P-ライジン】だ。こいつのおかげで君は怪我をしても出血しないし、あっという間に治る。しかも痛覚神経を遮断してくれるから痛みもない。つまり常に麻酔を受けてるようなものだな、ひっひっひ。…こいつをあの事故の後、昏睡状態だった君に私が入れたおかげで、君は今、こうして、生きている。私は君の命の恩人ということになるねぇ」

 見せ付けられたレントゲンのようなものには、小学校の理科で習ったミジンコのようなものが写っていた。細かい足のよなものが沢山生えている。

「気持ち悪い…」

「ふん、気持ち悪がってもかまわんが、君の中には数億という数が入っているのだよ。まぁ【P-ライジン】一つの大きさは一兆分の一センチだから、ミジンコよりもずっと小さいがね」

 佐々木はモニターに向き直り、別の資料を見ながら口を開く。

「【P-ライジン】はその活動スピードは抜群なんだが…、充電が必要なんだよ。一週間に一度程度。だから君は毎週検診という名の充電をしていたわけだ」

「…」

「そうそう、実感したことがあるだろう?今日と、それから以前検診を二度しなかった時と」

「そんな…、じゃぁいつも検診の時に両手が痺れてるのは…」

「そうだ。両手に付けた電極から【P-ライジン】の動力源であるイオンを血管中に散布している。そうすると【P-ライジン】はそれを受け取り充電を完了する。しかし…君に入れた【P-ライジン】は、私が作ったオリジナルのものから更に進化しているのだよ」

 気が付いたら全裸でいることにも、チューブが両手両足に突き刺さっていることもなんとも思わなくなってきていた。鈍感もここまで来るとスゴイとさえ思う。いや、鈍感と言うよりも投げやりになったのかもしれない。

「君、どんなに走っても疲れないだろう?」

「…それが何か?」

「疲労と言うのはね、乳酸が生成される過程で生じる水素イオン、または乳酸そのものが放出する水素イオンにより、筋肉内のpHが酸性に傾くから溜まっていく。しかしね、君の【P-ライジン】は体内で発生した水素イオンを積極的に分解しているみたいだ。だから疲労が溜まらない。またその水素イオンの分解時に発生する陽イオンを使って微弱ながら自己充電している!……これは素晴らしい。ひっひっひ」

「…」

「また赤血球が酸素を身体中に運ぶ際に、【P-ライジン】はこれを助長して、肺から得た酸素をほぼそのまま身体中に回すことが出来る。だから運動能力が常に一定のまま動き続けられるわけだ…。またウィルスが進入してくると【P-ライジン】がすべてこの進入を遮断する。つまり…風邪もひかない。益々…素晴らしいねぇ…ひっひっひ」

 佐々木は震えながら笑っている。

「まさに私がイメージしている不老不死に最も近い!それが…あの鈴木の娘だとは…ひっひっひ」

「いったい何が目的なの?院長になりたいの?」

「!!!…ひっひっひ!ひゃっはっは!院長?そんなもの、今この目の前にある不老不死という可能性の前じゃ、まったくなんの価値も見出せんよ!」

「………私を…どうする気?」

 知りたかったけれど、聞いてしまうと絶望しそうな気がして聞けなかったことをついに口にしてしまった。重たい雰囲気が部屋の中に広がっていく。けれど佐々木は軽々しく口を開いた。

「君なんかどうもしないさ、ただ、私が貸した【P-ライジン】を返してもらうだけ。あとは陰イオンの摂取、自己充電の確立をさせるためにバージョンアップさせるのだよ。まぁ、君は元の植物人間に戻るだろうけどね」

 レンタルショップに借りたDVDを返すぐらいの感覚で佐々木は言った。再び恐怖が身体中を駆け巡った。この人は、ただそのためだけに、研究の成果を得るためだけに、私の身体を使っているだけなんだ。

「こいつを打ち込むと、【P-ライジン】は体内から出口を求めて逃げ惑う。安心したまえ、人体にはまったく影響はない。何もせずに打ち込むと身体を突き破ってしまうから危険だが…、君の両手両足にはすでに【P-ライジン】の出口が作られているからね。ひっひっひ」

 手足を確認しようと動かすと再び鈍痛がした。そのためのチューブだったのか。あの注射を打ち込まれたら、私は植物人間に戻ってしまうらしい。すでに自分で自分の身体に違和感のある私は、植物人間に戻されることさえ他人事のように感じた。「そうそう最後に…」と足を止めながら佐々木が言った。

「【P-ライジン】は完全ではない点が二点ある。一つは充電しなければならないこと。もう一つは興奮すると上手く動作しない点だ。それは必要以上に血液が体内を流れることによる【P-ライジン】のオーバーワークが原因だねぇ。もしそれを私の中に入れてから誤作動してもらっては困るのだよ。さぁ、最後の検診といこうじゃないか。我を忘れるほどに興奮して見せてくれたまえ」

「…結局、自分が不老不死になりたいだけで、そんなことのために私は治されて、そして壊されるの?」

「そんなこと?…ふん、まだ生意気を言えるか…ひっひっひ。別に興奮じゃなくても、我を忘れるほどに怒ったりすればいい。ほら、怒れ!私が憎いだろ!さぁ!…さぁ!」

「嫌!あなたに協力なんてしたくない!私は元々植物人間だったんだから。さっさと終わらせて…もぅ、嫌…」

「ほう…諦めたか。ひっひっひ…でも、こんな昔話を聞いても諦められるか?」

「?」

「ひっひっひ…十三年前の事故が偶然起きた事故でなかったらどうする?」




≪第1000話へ
第1010話へ≫

COMMENT

●るどさん

ほんと憎いやつなのですよ。うん。
誰か佐々木を懲らしめて!

佐々木めっっっ!!!

なんて憎らしいやつなんだぁぁぁぁぁぁぁぁ
(我を忘れています)

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