POSITISM

適度に適当に。

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PICO - 第0010話 -


ハコニワノベル

「すいません、藤山です。いつもの検診なんですが…願いします」

 受付でそう言うと「はーい。それじゃぁいつも通り三階ね」とだけ言われた。エレベータが混んでいたので階段で三階を目指す。一段上るごとに憂鬱が肩に乗りかかるようにずしりと重たくなる気がする。
 三階に到着すると行きたくない自分と、さっさと検診を終わらせて帰りたい自分が心の中でぶつかりあっていた。うだうだと嫌がっても仕方がない。私は覚悟を決めるように第三処置室のドアへ向かった。
 ドアをノックすると「入りたまえ」と聞こえた。上目線なものの言い方にカチンときたが、その怒りをぶつける先がないので大人しく中に入った。

「やぁ、ご機嫌いかがかな恵君」

 痩せていてひょろ高い男がそこにいた。佐々木だ。佐々木正弘。この病院の副院長でいつも私の検診を担当している。ただ、いつもと違ったのは佐々木が白衣ではなく、緑色の手術着を着ていたこと。

「ちょっと緊急のオペでね」

 何も聞いていないのに佐々木はそう答えると含み笑いをした。そして私はそばにいた看護士に促されて着替え、診察台の上で横になると、心電図を取るような機械を取り付けられた。心電図の機械と違うのは両手の中指に洗濯バサミのようなクリップを付けられることぐらい。まぁ、これもいつものことだ。

「どう?まだ触られたりしても気が付かなかったりする?」

「そうですね、今日も友達に頬を掴まれましたけど、気付きませんでした」

「ふぅん、そうか」

 佐々木は興味なさそうにカルテに書き込むと、おもむろに太股の上に手を置いてきた。妙に嬉しそうにそのまま撫でてくる。持ち前の鈍感のおかげで触られている感覚がないのがせめてもの救いだ。あぁ、早く終わらないかな。
 視線を私からモニターへと移しながら佐々木の話が続く。

「脳波も問題ないし、OKだね」

「はぁ、そうですか。ありがとうございました」

 看護士が装置をテキパキと外してくれる。私は制服に着替えなおし、再度「ありがとうございました」と言ってドアに手をかけた。「あぁ、そうそう…」という佐々木の声に振り向く。

「おじい様は元気?」

「元気だと思いますよ。一人暮らしを始めてからあまり会っていませんが…。佐々木先生のほうが祖父と会う機会が多いと思うんですけど?」

「いやいや、私は私で忙しいからね」

「そうなんですか…。では失礼します」

 そう言って再度ドアに向き直ると「何度も言ってるけど、恵君を助けたのはこの私。そのことをちゃんとおじい様にも伝えておいて下さいね」と言われた。気持ちが悪くなって、私は第三処置室から逃げるように離れた。ほんの数十分の検診だと言うのに何時間も閉じ込められていたかのような気分になった。
 私の家族が事故にあってこの病院に運ばれた時、既に私の両親は他界していて、私だけが昏睡状態だったらしい。そしてその昏睡状態から回復させてくれたのは、悲しいかなあの佐々木が行った処置のおかげなのだと言う。当時一般的な地位にいた佐々木は、院長の孫娘を救ったとして、祖父に取り入ることに成功し、つい数年前に副院長にまで上り詰めた。「おじい様にも伝えておいて下さいね」という佐々木の言葉が頭によぎった。次は院長の座を狙っているのだろう。佐々木の目は貪欲に力を欲しがっているのがありありと解る。でもその裏で何を考えているのか解らないというのが怖い。なにより生理的に受け付けない。今頃になって太股に鳥肌が立った。振り払うように足早に病院を出た。
 気が付けば新年も一ヶ月が過ぎ去ろうとしている。晴れてはいるが日が陰りだしたので刺すように寒い。吐く息も白々としている。

「よっ、お疲れ。」

 背後から声をかけられて少し驚いた。振り向くと自転車を押す男の子がいた。

「なんだ、有栖川栄一か。」

「なんだとはなんだ、相変わらず失礼なやつだな」

 そんな軽口を交わしながら歩き出す。栄一とは記憶もないほど幼い頃から一緒にいる。正真正銘の幼馴染。成績は下の下、運動はそこそこ出来るぐらいのやつだったのに、最近は何を勘違いしてるのか必死に勉強しているらしい。これも受験シーズンの到来によるのかもしれない。

「栄一はこれから塾?」

「そー、やっぱり今のうちにやっとかないとさー」

「やっぱり…受験?」

「おう、俺さ、恵みたいに頭良くないからさ、早めに必死にならないといけないわけよ」

「ほんと頭良くないよねぇ、もしかして大学にでも進学する気?」

「もちろん!」

 そう言いながら栄一の目は輝いていた。私は知っている、二学期の期末テストで栄一は私よりも良い成績だった。栄一とは別のクラスなので授業中の栄一はどうか知らないけれど、今日みたいに塾へ通っていたり、家で人知れず勉強をしていることを知っている。ちょっと前まで「数学は人生に必要ないということを悟った」とか言ってたやつなのに。それほどまでに努力できる目標を持った幼馴染の横顔が少しだけ遠くに感じた。

「恵は進路、どうすんの?」

「うーん、とりあえず進学かなぁ」

「ははは、頭の良いやつは、とりあえずで進学できていいな」

 嫌味を言うでもなく、栄一がそう笑った。だけど栄一ごめん。私、いつの間にか栄一に追い抜かれちゃってるんだよね。だからきっととりあえずでなんて進学できっこない。少しだけ前を進む栄一が、また遠くに感じた。次第にその距離が離れていくみたいだ。両手が痺れてる気がする。栄一が押している自転車がぐにゃぐにゃと曲がって見える。遠く、遠くなっていく。

「おい!恵!恵!大丈夫か?おい!しっかりしろ!」

 気が付くと、私は栄一に抱きかかえられていた。




≪第0001話へ
第0011話へ≫

COMMENT

●るどさん

成長期の中で一緒にいる異性は
特別に意識しちゃったりしますからね。


●黒さん

そうなんだぜ。
2進表記なんだぜ。


●RUTYさん

0002~0009まで探させてしまって申し訳ありません!
話数に関してはブロろ~ぐ側に解説を付けてますので
興味あれば確認下さいませ。


●まるりーんさん

ほんと粘着質ですよね。この佐々木って人。
んもーそりゃ酷い粘着ですよ。まったく。
(書いたの誰だよ)

一瞬、更新されたのかどうか、わからなかったのですが、
拝見しにきてよかったです~
粘着質な佐々木先生が、これからどんな診察をされるのか、どきどきしています。

次回は第****話になるのかも、楽しみです!
(二進表記の意味がわかっていません、ごめんなさい)

0002話~0009話、どこかにあるのかと探してしまったわ(笑)
黒さんのコメントを見て、二進表記・・・なるほどーって。
(実は二進法と二進表記の違いもわかってないけど^^;)
内容はもちろん、こういう細かいところも、エンディングへの伏線になってたりするのかなぁと
今後の展開にワクワクしています

話数は2進表記なのか(笑)
  • 2008.02.05[火]

いろんな意味での「成長期」の男子はどきっとするのよねぇ。。シミジミ

まぁ同世代のとき限定なんやけどw

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