POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /23 -


ハコニワノベル

 強烈なフラッシュバック。自分に振りかかる火の粉は、見たくなくても必ず見える。
 ステージ上の二人に対する拍手の中で、目の前の紅茶を飲むフリだけして、持っていたペットボトルへ移した。

「この紅茶、飲んだらあかん!」
「ん?」

 となりで紅茶を一気に飲み干した爽太を「あほんだら!」と言いながらグーで殴った。いい加減手が痛い。

「七ノ宮ちゃん、どうしたの?」
「この紅茶、別に悪いものでもないようだが?」
「そういう意味違う。飲んでしまったらあかんねん」
「別に美味しいよ? ねぇ、雛」
「そうだな。かなり高級な茶葉だと思う」
「美味しかったー。おかわり!」
「あんたはもう飲まんでええわ!」
「でも静香も飲み終わってるよ?」
「うちは、ええねん! うちは!」
「あれ? そういえばさ、七ノ宮ちゃんって関西弁だったっけ?」
「んー、違ったと思う」
「あぁ、もう! 今はしゃべり方なんてどうでもええって、とにかく飲んだらあかん!」

 必死に訴えかけてみたものの、抑止力にはならなかった。そもそも、もっと早くに見えていれば対策もできたというのに、見えるのが直前になっているのがおかしい。
 横目で爽太を見る。こいつに付きまとわれるようになってから未来が見えなくなった気がする。と考えてしまった。しかし今はそんなことを考えていても仕方がない。とにかく、これ以上この紅茶を参加者に飲ませるわけにはいかない。
 ――ブツン。
 三度、照明が落とされた。ただ今度のは徐々に暗くなったのではなく突然落ちた。視界がその変化についていけず、ほぼ視界を奪われてしまっている。若干のノイズを鳴らしながら、モニターがつけられた。荒い映像。その中に何者かが映し出されている。

「ミナサン、ドウモ、コンニチワ。ワタシハ、ジョレツサンマイメ、シリガミイチゾクノトップデス」

 明らかに電子的に作られた音声でしゃべるその人物は、男なのか女なのかも判別出来ない。更に白いフード付きのパーカーを着ていて、そのフードを深くかぶっているので表情すら見えない。序列三枚目、尻紙一族のトップと名乗ってはいるものの、この映像に写っている人物が、本当に十枚の尻紙一族であるという確証にもならない。まったくもって謎のままだ。

「パーティノカイシニ、マニアワナカッタノデ、タノシイ、ヨキョウヲ、ジュンビシマシタ」

 突然、何者かに左腕を引っ張られた。反射的に腕を引くと、あっけなく腕を離された。引っ張っていたのは、紅茶を出したスタッフらしかったけど、暗くてよく分からなかった。引っ張られていた左腕には腕時計のようなものが勝手に取り付けられている。薄い蛍光グリーンの文字盤に、デジタル表記で4320という数字が表示されている。それを確認してすぐ、再度フラッシュバック。遅い、間違いなく見えるのが遅くなっている。下唇を噛んだ。

「ミナサンニ、ツケテイタダイタノハ、ミナサンノジュミョウヲ、ヒョウジスルトケイデス。ソノスウジガ、ゼロニナッタトキ、ミナサンハ、シンデシマウコトデショウ」

 会場内が微妙にどよめいた。その言葉の真偽を確認する術がない以上、本気にすることも、冗談と捉えることも難しい。

「ブヒィ! ね、ねぇママ。ボクさ、こういう演出好きじゃないんだよね」
「秀ちゃん、ママも、そそ、そう思うわぁ」
「じゃぁさ、帰ろうよ。こういう下品なジョークでしか、参加者を楽しませることが出来ないなら、十枚なんていうのも大したことなさそうだし」
「そうね、そうね! 秀ちゃんの言う通り。佐渡家は世界有数の資産家ですから、別に十枚と付き合いがなくても問題ないわねぇ」
「でしょ? それに見たところ大して綺麗な女の子もいないしさ、そこの子もどうやら世間知らずみたいだし、ボクとは釣り合わなさそうだよ」
「そうねぇ、ここに集まった人の中には、秀ちゃんに相応しい女性、ママみたいに素晴らしい女性はいないみたいだしねぇ」
「だからもう帰ろう。な、なんか変な余興始まるみたいだし、ボクそういうの面倒だよ」
「そうね、そうしましょう」
「ブフフ! こんなオカルトな余興に付き合う暇は、ボクにはないんだよね」
「ちょっとどいて下さる? 私達は、もう帰らせて頂きます」

 同じ円卓に座っていた太った男と、和服姿の女が乱暴に立ち上がるのが分かる。そのままブツブツ言いながら二人が会場から出て行った。入り口の扉から光が入り込んで、またすぐ暗闇に包まれた。

「マダ、ヨキョウノルールヲ、セツメイシテイマセンガ、ムヤミニイドウシナイホウガイイデスヨ。ククク。オヤオヤ? ドウヤラ、ルールモキカズニ、ニゲダシタ、オロカナヒトガイルヨウデス」

 モニターの映像が陽碧の館の中庭に切り替わった。門に向かって慌てるように歩いている二人。さっきまでこの円卓に座っていた二人だ。その映像を見ているとまたフラッシュバックした。

「最悪や……」
「どうしたの? 静香」
「……」
「そんな怖い顔しない方がいいよー。笑った顔、可愛いしさー」
「……」

 モニターに映る二人が徐々に門へと近付いていく。今から走っても間に合わないだろう。だからと言って目の前にいる人を救えない自分に虫酸が走る。ただ、尻紙一族とかいう映像内の人物が、むやみに移動しない方がいいとわざわざ言っているのだから、無策に移動するわけにもいかない。
 あぁ、もうすぐ実際に見てしまうことになる。見たくはない、見たくはないけど、見えていたのに救うことが出来なかった戒めだ。目を背けないようにすると、自然と右手を強く握りこんでいた。

「あれ? 僕さー、静香に殴られるようなことしたっけ?」

 隣で、握りこんだ拳を見ながら爽太が聞いてきたので、軽くげんこつを落としておいた。

 ――ドン!
 衝撃音、会場内の空気もビリビリと揺れている。弁明しておくと、私のげんこつによる音ではない。会場内のどよめきを切り裂くように「キャーッ!」という女性の悲鳴。それに促されるようにモニターを確認する。
 そこには立ち上る二つの黒煙と、上半身の無い二つの焦げた下半身らしきものが映し出されていた。

「コレデ、オワカリ、イタダケマシタカ? コノヨキョウガ、ジョウダンナドデハナイ、トイウコトガ。モチロン、ジュウマイノミナサンニモ、ヒトシクサンカシテモライマスヨ。タノシンデ、イコウジャナイデスカ。ソレコソ、イノチガケデネ! ククク」

 荒い映像に戻されたモニターを、誰もが黙って見続けている。



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