POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /20 -


ハコニワノベル

 振り返った先にいたのは、ヘラヘラと笑う男だった。Tシャツにハーフパンツ、それからサンダルを履いているという、どこをどう見てもパーティに参加する者の格好ではない。ただこのラフ過ぎる格好の男こそが、この陽碧の館に入るときに現れた見知らぬ背中の持ち主だ。そのTシャツだけは見間違うことはない。無地の白いTシャツで、背中に手書きであろう文字で”うしろ”と書いてあるのだから。

「私の連れだと偽って中に入ったのはお前やな」
「ん?」
「はぁ、このやり取り何回繰り返したら気が済むねん」
「あ!」
「なんやねん、急におっきい声出すなや」
「あのさー」
「……なんや」
「君は、誰?」
「お前頭の中壊れてんのとちゃうか?」
「そうじゃなくてさ、君の名前は何?」
「なんで答えなあかんねん」
「なんで? さっき僕は名乗ったよ?」
「あのな、そっちが名乗ったからってこっちが名乗る義務はないやろ?」
「んー、そっか。ならいいや」
「いいんかい! だったら最初から聞くなや」
「さてと、早くパーティの会場に行こうよ」
「ちょい待った」
「ん?」
「なんでうちがお前みたいなやつと一緒に行かなあかんねん」
「僕は君と一緒に行きたいよ?」
「いやいや、お前の気持ちなんて関係ないやろ」
「そうなんだ。でも僕は君と行きたいな」
「お断りや、お断り。そもそもそんな格好でパーティに参加したらええ笑いもんやで。うちも一緒に笑われるんがオチやし」
「なら着替えてきたらいいんだよね?」
「そんな時間ない……っておらへんし」

 今さっきまで目の前にいた男が姿を消し、ため息を吐き出す間もなくまた姿を表した。もう驚くのも面倒になってきている。「これでいい?」と聞いてきている男の格好は、Yシャツとブラックスーツのパンツなのに、靴だけはさっきと同じサンダルのままだった。そして嬉しそうにヘラヘラ笑ってこっちを見ている。

「べ、別に着替えたら一緒に行くとは言ってへんからな。それにその服、勝手に持ってきてええんか?」
「え?」
「いや、その服勝手に持ってきたんやろ? ほら、エントランスの階段下から勝手に……」
「決めた!」
「はぇ?」
「僕さー、君と一緒にパーティ参加する。いや、パーティだけじゃなくて一生一緒にいることにする」
「ちょ、なんでやねん。なんでそんな話になんね……」
「僕さ、君のこと好き」
「はぁっ! ?」
「さ、行こうよ」
「待て待て待て。落ち着け、いいから落ち着け」
「ん?」
「お前がどこの誰かも知らないのに、なんで一緒に行かなあかんのか理解に苦しむわ」
「えーと、僕は爽太だよ」
「さっきも聞いたわ!」
「だから、オマエじゃないよ。僕は爽太」
「はいはい、分かったからあんたは勝手に行けばええやろ? うちは一人で行くから」
「無理だよ」
「なにがやねん!」
「だって立てないでしょ?」
「別にそんなことあんたに関係ないやろ。ほら、さっさと行った行った。今行けば、さっきしでかしたことは大目にみたるから」
「さっきしでかしたこと? やっぱりさ、僕は君に何かをしたの?」
「あーもうええって! その話終り。んー、せやな。うん。あのさ、悪いんだけど飲み物買ってきてくれへん? うち喉乾いたんよ」
「いいよ」

 そう言ってヘラヘラ笑いながら爽太とか名乗る男は廊下を曲がって行った。
 今のうちに大広間へ移動してしまおう。どこの誰かも分からない、かつ私に”見えない”やつの相手をする意味はない。さっきの着替はあの男が戻ってきてから、追いかけるように見えた未来だ。いや、未来というには追いつけていないので、いうなればリプレイと言ったところか。
 ようやく感覚を戻してきた身体を動かして、ふらつきながらもなんとか立ち上がった。廊下を曲がりエントランスへ向かおうとすると「お待たせ」という声が後ろから聞こえる。その声に振り向くと、そこに開けたてのラムネ瓶を二本もった爽太とか名乗る男が立っていた。

「いつからそこにおったんや」
「ん?」
「……」
「君が立ち上がろうとしてるときからだよ」
「お前、やっぱり変や」
「よく言われるよ」
「お前何者やねん! ?」
「僕は爽太だよ」
「三回も聞いたわ。そういう意味ちゃ……」

 立ち上がったばかりで大声を出そうとしたので立ちくらみがした。しばらくして身体が上下に揺れているのい気が付いた。またこれだ、爽太とか名乗る男の腕の上でお姫様抱っこ状態になっている。

「おい」
「ん?」
「どこ行こうとしてんねん」
「パーティ会場だよ」
「ちょっと降ろして」
「なんで?」
「ええから」
「いいよ」

 今度はゆっくり足から降ろされたらしく、なんとかそのまま立つことができた。爽太とか名乗る男は相変わらずヘラヘラと笑っている。このままじっとしていてもどこにも行ってくれそうにもない。

「悪いんやけど、もう一回飲み物買ってきてくれへん? お茶系のペットボトルのがええねんけど」
「分かったー」

 大きなため息を出してから、一番近い窓へ近づいた。外を見てみるともう参加者が入ってくる様子はない。そのほとんどはもう大広間へと移動し終えているみたいだ。

「お待たせー」

 音もなく、気配もなく、爽太とか名乗る男が戻ってきた。声のする方に振り返ると、ラムネを片手に一本ずつもってヘラヘラと笑っている。とりあえず殴っておいてから「お茶や、ペットボトルの!」と声を出したら目の前にペットボトルに入った紅茶が差し出された。

「あるんやったら最初から出しいや」
「それ飲んだらさー、パーティの会場に行こうよ」
「はぁ、そのラムネもこの紅茶も厨房から勝手に持ってきてるし、れっきとした窃盗やで自分」
「そうなんだ!」
「なんやねん、その自分がしたことを今知ったかのような反応は」
「決まりだな」
「なにがやねん」
「僕、君と一生一緒にいる」
「いや、だからな」
「決めた! 決めた!」
「いや、あのな」
「よっしゃ! 決めちゃったぞー!」
「いや……」
「ん?」
「……あーもぅ! もうええ、あしらうん諦める。ほらさっさと会場に入るで」
「はーい」

 前を歩くYシャツの背中に”うしろ”という文字が透けて見える変な男と、私は一緒にパーティに参加することにした。



≪/19へ
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スラッシュ\パーティ - /21 -


ハコニワノベル

「なぁ」
「……」
「おーい」
「……」
「聞こえてるやろ?」
「……」
「……爽太」
「なに?」
「なんで名前で呼ばなあかんねん」
「ねぇ、君」
「は?」
「君の名前は?」
「うちが名乗る義務はない言うてるや……」
「ずっと君って呼ぶけどいいの?」
「……」
「ねぇ、君? ねぇねぇ、君?」
「はぁ……」
「どうしたの、君? ねぇ、どうしたの、君?」
「……静香や」
「静香、いい名前だね。全然静かにしてないけど。ふふふ」
「ふふふちゃうわ! それにうちが静かやなくてもええやないか」
「あ! ねぇ、静香。もう会場みたいだよ」
「いや、軽くスルーすんなや」

 スナップを効かせて爽太の後頭部を叩いた。
 エントランスの階段を上ると、大広間の入り口が見えた。スタッフであろうと思われる黒いスーツの男が二人立っている。こちらに気付いたそのスーツの男に促されるようにして、入り口から大広間の中へと入る。
 鳳華中学の体育館よりも広い空間が目の前に広がり、白いテーブルクロスの円卓に八つ椅子が整えられ、それが綺麗に並べられている。ざっと見ただけで正確な数ではないけど、300人ぐらいはいるだろうか。着飾った参加者達が円卓に着席して談笑している。

「お? 七ノ宮ちゃん発見。おーい!」

 入り口から一番近い円卓から呼ぶ声に反応すると、若草色のドレスにクリーム色のスカーフで着飾った島崎先輩がいた。

「ここ二席空いてるから座っちゃいなよ」
「本当に空いてるから座ってしまうといい」

 隣には青地にピンクで刺繍が施されたチャイナドレスを着た王子先輩が座っている。スラッとした王子先輩にはよく似合っている。他には何度も顔の汗を拭くのが忙しそうな三十二、三ぐらいの太った男、その男を異常に心配している和服姿の女。スーツを着崩し、だらしなく座る浅黒い肌の男。身体のラインがはっきりでる黄色いドレスを着たケバイ女が座っている。
 別の席を探そうかと思ったものの、爽太が既に座ってしまったので仕方なく席についた。

「ねぇねぇ、七ノ宮ちゃん。その人は誰なのかなー? もしかして、いや、もしかしなくても……」
「トモ、野暮なことを聞くなよ。私は七ノ宮さんと同じ弓道部の、王子雛。こっちは島崎朋笑。あなたは?」
「僕は爽太だよ」
「ねぇねぇ、爽太さん。七ノ宮ちゃんとはどういう関係?」
「ん?」
「いや、だからほら、もしかして七ノ宮ちゃんの彼氏とか?」
「ん?」
「あれ? そういうんじゃないの? じゃぁ、兄弟とか? 親戚?」
「島崎先輩、こいつのことはいいじゃないですか」
「いや、よくないよ! 彼氏でしょ? ねぇ!」
「はぁ……、トモ!」
「げっ! 雛が怒った……」
「爽太さん、ごめんなさい。トモ、いつもこんな調子なんです。ほら、トモも謝りなよ」
「えー」
「トーモ?」
「あ、ヤバい! ご、ごめんなさい。許してネ!」
「はぁ、もう少しちゃんと謝ってくれよ」
「いいじゃない、ほら! 爽太さんだってニコニコして許してくれてるみたいだしさ!」
「あのー」
「あ、あれ? やっぱり怒ってる? え、えっとぉ、なんですか?」
「七ノ宮って誰ですか?」
『へ?』

 ゴンという音がした。久しぶりに人をグーで殴ったからだ。円卓にうつ伏せになるように爽太が屈んでいる。

「本当にこいつ変な奴なんで、気にしないで下さい」
「痛い」
「爽太さんは黙ってて下さいね」
「ね、ねぇ雛。七ノ宮ちゃんが怖いよ?」
「しつこく聞き過ぎたトモが悪い」
「私? 私は別に悪いことなんてしてないよ!」
「……あのー」
「なんですか? というより頭、大丈夫ですか?」
「もしかして、七ノ宮っていうのは、静香のこと?」
「そりゃぁ、それ以外ないですよ」
「そっか!」

 爽太がガバッと起き上がると島崎先輩の方を勢いよく向いた。

「な、なに?」
「静香とはね、一生一緒にいる関係だよ」
「え、それって……」

 ゴンという、いやガンという音だったかもしれない。爽太は再び円卓でうつ伏せになっている。

「ふっふっふー。そういうご関係でしたかー。七ノ宮ちゃんったら照れちゃって、ねー」
「流石に婚約者とは思わなかったな。驚いた」
「いや、ちょっ、違うんですよ」
「いいって、あからさまに誤魔化さなくて大丈夫だから」
「誤魔化すとかじゃなくて」
「この年齢で婚約者とは、いろいろ苦労もあるだろうし、他言はするなよトモ」
「はいはーい」
「他言は、するなよ?」
「は、はーい」
「お前なぁ……」
「い、言わなきゃいいんでしょ! か、簡単だよそれぐらい!」

 うつ伏せのまま微動だにしない爽太の耳元で「あんま、いらんこと言わんといて」とささやくと、小さくそのまま頷いて応えてくれた。なんだ、意外に素直な奴じゃないか。あとは島崎先輩の口止めをしないとだけど、多分無理だろう。王子先輩に出来る限り防いでもらうしかなさそうだ。

「ブフフ、ねぇママ。ボクさ、あのチャイナドレスの子、気に入っちゃったよ」
「あら、秀(すぐる)ちゃん。あんな子ダメよ、秀ちゃんに相応しいのはママぐらい素敵な女性なのよぉ?」
「だけど、あの子いいよ。気に入っちゃったんだもん。ブフフ」
「んまー、仕方ない子ねぇ。ちょっと、そこのチャイナドレスのあなた」
「私ですか?」
「あなた以外にチャイナドレスを着た人が近くにいますか? あのね、うちの秀ちゃんがあなたを気に入ったらしいのよ。あなたうちの秀ちゃんとお付き合いしなさい」
「なに言ってんのおばさ……」
「トモ、待て」
「だって」
「いいから」
「ほら、返事はどうしたのかしら? 佐渡(さわたり)家の御曹司が気に入ってくれたんですよ? もちろん返事は、はい。ですわよね?」
「あなたがどこの誰かは存じ上げませんが、私はそちらの方とお付き合いはできません」
「んまー! あなた秀ちゃんが佐渡家の御曹司だと知らなかったばかりか、秀ちゃんの交際申込みを断るなんていい度胸ね」
「はっ、ババアが何言ってんだよ! うるせぇから黙ってろ」

 浅黒いホストみたいな男が話に入ったところで、会場の照明がスーっと落とされた。

「ご静粛に願います。これより、十枚グループの主催によるスラッシュ\パーティを開始いたします。皆様、会場前方のステージ及びモニターを御覧ください」



≪/20へ
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スラッシュ\パーティ - /22 -


ハコニワノベル

 座っている場所は会場の一番後ろになっているので、前方にあるというステージをはっきりと見ることは出来なかった。ステージ横に取り付けられている巨大モニターに、照明を当てられたステージ上の映像が映し出されている。そのモニター内にマイクを手にした進行役のスタッフが映っている。

「まずは、主催であります十枚グループの代表者からご挨拶がございます」

 進行役のスタッフがステージ横へはけると、まるでアイドルのコンサートのように、ステージの下から何人かの人影がせり上がってくる。いらない演出だなと思いながらモニターを見ていると、その人影の中に知っている人物がいるのを確認した。一人は紫ノ宮泉のパートナーかつ、十人の十枚の一人でもある塗紙一だ。ということは、今登場してきたのは全員十人の十枚ということだろうか。左から男、女、少し間が開いて女、次に塗紙一、男、男、女、女、一番右が男。もう一度数え直してみたけれど、全部で九人しかいない。

「あいつは……」
「七ノ宮ちゃんどうしたの? 誰かと知り合い?」
「そういうわけじゃ……」

 一番右の男の容姿にも見覚えがある。ストライプのスーツ、ポケットには真っ赤なハンカチ。そしてメガネをかけている。間違いない。二回も廊下で通せんぼしてきたあの変な男だ。

「あの一番右の人さー、静香を通せんぼしてた人だね」
「せやな……ってなんであんたが知ってんねん」
「ん? そりゃ、ずっと見てたから」
「そうなんや。って、ずっと見てたとか怖いわ! ストーカーか!」
「これからもずっと見てるよ」
「怖っ」

 爽太とのまともな会話を諦めて、モニターに向き直ると、進行役のスタッフからマイクを受け取った一番左の男が映し出されている。深緑の和服が似合っていて、落ち着いた雰囲気。年齢は三十代中ごろか、もう少し若いかもしれない。細い切れ目をしているせいか、表情からは何を考えているのか読みづらそうだ。

「どうも。序列一枚目、檻紙一族トップの檻紙兜(おりがみ かぶと)です。本日は、有意義なパーティになることを祈っております」
「霧紙一族の霧紙千鶴(きりがみ ちづる)です。沢山の方に参加して頂いて嬉しく思っております。気楽に楽しんで頂ければ幸いです」
「えーっとぉ、序列三枚目の尻紙さんはぁ、まだ来られていませんのでぇ、序列四枚目のワタクシがぁ、挨拶をさせて頂きますぅ。塵紙一族のぉ、塵紙はな(ちりがみ はな)と申しますぅ。皆さんとぉ、少しでもぉ親睦を深められたらいいなぁっと思ってますぅ」
「塗紙一と申します。こうして今この場に立たせて頂いてますが、気持ちとしては参加者として楽しみたいと思っています。本日はどうぞ、気兼ねなく接して頂きたいなと。あとでゲストの紹介もさせて頂きますので、お楽しみに」
「貼紙一族の貼紙武(はりがみ たける)です。んー、あとは特に言うことないな。ほらよ守紙、パス!」
「守紙真(もりがみ まこと)だ」
「マコちゃんそれだけー? ウケルー! アタイは槍紙舞子(やりがみ まいこ)。舞ちんって呼んでネ!」
「璃紙真理絵(るりがみ まりえ)です。お見知りおきを」
「割紙、譲(わりがみ ゆずる)」

 二番目に挨拶した女は裾にいくほど青色が濃くなるグラデーションのノースリーブドレスを着ていて、終始笑顔なのがどことなく怖い。三番目、実際は四枚目ということらしい頭の緩そうな女は、真っ白なドレスを着ていて、それが照明のせいかチカチカして見える。その次が塗紙一で、その次は金髪を逆立てオレンジ色のバンダナを巻いた、オーバーオールを着た男だ。その次はタキシードを着てはいるものの、妙にガタイの大きな男。その隣にいるのは十代にしか見えない、チャラチャラした女だ。服装がかなりきわどいドレスで、いやもう布切れと言う方が近い。その隣にいるのは、和服におかっぱ頭の小さい女。あれは多分、座敷わらしだ。
 ステージの一番右に、ストライプのスーツ、ポケットには真っ赤なハンカチ。そしてメガネのあの男がいた。名前は割紙譲、並びから言えば序列の十枚目。少なくともこれで、あの男が十枚だということは分かった。
 会場全体の照明が徐々に明るさを取り戻すと、スタッフがそれぞれの円卓に何かを運び始めた。ガチャガチャと慌しく、あちこちの円卓で準備が進められる。どうやらアフタヌーンティーセットみたいだ。

「まずは皆さん、本日はパーティですので紅茶でも飲んで頂こうと思います。合わせまして、先程少しだけお話させて頂いたゲストのご紹介もさせて頂きます」

 ステージ上で塗紙一がエスコートして連れてきた二人がモニターに映る。一人は桜色と藤色のスーツのような、どこかしらサイケなデザインの服を着ていて、もう一人は黄色いビキニに透明なシャボン玉のようなものが要所要所にくっついている、なんとも言いがたいデザインの服を着ている。

「今、絶賛売り出し中のアイドルユニット、ミウ★マヤのお二人です」

 塗紙一がそう紹介すると「よろしくお願いします」と二人同時に頭を下げた。

「どうも初めまして。ミウ★マヤのミウこと宇佐木美雨(うさぎ みう)です」
「おなじくミウ★マヤのマヤこと栗澤麻耶(くりざわ まや)です。今日はこんな素敵なパーティに呼んで頂いて光栄です」
「せっかくですから、お二人に一曲歌って頂きましょう。それではミウ★マヤのお二人、お願いします」

 再び照明が落とされ、ステージ上の二人にスポットライトが照らされる。



 やっと週末だなんて 思っていたはずなのに
 気が付いたらもう 日曜が終わっちゃう

 退屈な平日 ノリ気になんない月曜
 天気予報は雨マークばかり
 だけど、君に会えるのは
 ちょっと嬉しい かな?

 六月の雨はちょっとセンチだけど
 こっそりお揃いにしたんだよ
 君と一緒の青い傘

 やっと挨拶できちゃったって 嬉しかったはずなのに
 なんでだろうもう それだけじゃ物足りない

 退屈な授業 頭に入ってこない公式
 空模様はどんより雲ばかり
 だけど、君と話せるのは
 もっともっと嬉しい よね!

 雨降りなのにちょっと不謹慎だけど
 こっそりお願いしたんだよ
 君と一緒に相合傘

 お揃いの傘を忘れたフリして
 君が帰るのを待ってみたりしてみようかな

 六月の雨はちょっとセンチだけど
 こっそりお揃いにしたんだよ
 君と一緒の青い傘

 君と一緒に相合傘

 君と一緒の青い 相合傘



 バンチョが勝手に設定した着信音はこの二人組の曲だったらしい。
 照明が戻されると、スタッフから紅茶が振舞われていた。



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/23へ≫

スラッシュ\パーティ - /23 -


ハコニワノベル

 強烈なフラッシュバック。自分に振りかかる火の粉は、見たくなくても必ず見える。
 ステージ上の二人に対する拍手の中で、目の前の紅茶を飲むフリだけして、持っていたペットボトルへ移した。

「この紅茶、飲んだらあかん!」
「ん?」

 となりで紅茶を一気に飲み干した爽太を「あほんだら!」と言いながらグーで殴った。いい加減手が痛い。

「七ノ宮ちゃん、どうしたの?」
「この紅茶、別に悪いものでもないようだが?」
「そういう意味違う。飲んでしまったらあかんねん」
「別に美味しいよ? ねぇ、雛」
「そうだな。かなり高級な茶葉だと思う」
「美味しかったー。おかわり!」
「あんたはもう飲まんでええわ!」
「でも静香も飲み終わってるよ?」
「うちは、ええねん! うちは!」
「あれ? そういえばさ、七ノ宮ちゃんって関西弁だったっけ?」
「んー、違ったと思う」
「あぁ、もう! 今はしゃべり方なんてどうでもええって、とにかく飲んだらあかん!」

 必死に訴えかけてみたものの、抑止力にはならなかった。そもそも、もっと早くに見えていれば対策もできたというのに、見えるのが直前になっているのがおかしい。
 横目で爽太を見る。こいつに付きまとわれるようになってから未来が見えなくなった気がする。と考えてしまった。しかし今はそんなことを考えていても仕方がない。とにかく、これ以上この紅茶を参加者に飲ませるわけにはいかない。
 ――ブツン。
 三度、照明が落とされた。ただ今度のは徐々に暗くなったのではなく突然落ちた。視界がその変化についていけず、ほぼ視界を奪われてしまっている。若干のノイズを鳴らしながら、モニターがつけられた。荒い映像。その中に何者かが映し出されている。

「ミナサン、ドウモ、コンニチワ。ワタシハ、ジョレツサンマイメ、シリガミイチゾクノトップデス」

 明らかに電子的に作られた音声でしゃべるその人物は、男なのか女なのかも判別出来ない。更に白いフード付きのパーカーを着ていて、そのフードを深くかぶっているので表情すら見えない。序列三枚目、尻紙一族のトップと名乗ってはいるものの、この映像に写っている人物が、本当に十枚の尻紙一族であるという確証にもならない。まったくもって謎のままだ。

「パーティノカイシニ、マニアワナカッタノデ、タノシイ、ヨキョウヲ、ジュンビシマシタ」

 突然、何者かに左腕を引っ張られた。反射的に腕を引くと、あっけなく腕を離された。引っ張っていたのは、紅茶を出したスタッフらしかったけど、暗くてよく分からなかった。引っ張られていた左腕には腕時計のようなものが勝手に取り付けられている。薄い蛍光グリーンの文字盤に、デジタル表記で4320という数字が表示されている。それを確認してすぐ、再度フラッシュバック。遅い、間違いなく見えるのが遅くなっている。下唇を噛んだ。

「ミナサンニ、ツケテイタダイタノハ、ミナサンノジュミョウヲ、ヒョウジスルトケイデス。ソノスウジガ、ゼロニナッタトキ、ミナサンハ、シンデシマウコトデショウ」

 会場内が微妙にどよめいた。その言葉の真偽を確認する術がない以上、本気にすることも、冗談と捉えることも難しい。

「ブヒィ! ね、ねぇママ。ボクさ、こういう演出好きじゃないんだよね」
「秀ちゃん、ママも、そそ、そう思うわぁ」
「じゃぁさ、帰ろうよ。こういう下品なジョークでしか、参加者を楽しませることが出来ないなら、十枚なんていうのも大したことなさそうだし」
「そうね、そうね! 秀ちゃんの言う通り。佐渡家は世界有数の資産家ですから、別に十枚と付き合いがなくても問題ないわねぇ」
「でしょ? それに見たところ大して綺麗な女の子もいないしさ、そこの子もどうやら世間知らずみたいだし、ボクとは釣り合わなさそうだよ」
「そうねぇ、ここに集まった人の中には、秀ちゃんに相応しい女性、ママみたいに素晴らしい女性はいないみたいだしねぇ」
「だからもう帰ろう。な、なんか変な余興始まるみたいだし、ボクそういうの面倒だよ」
「そうね、そうしましょう」
「ブフフ! こんなオカルトな余興に付き合う暇は、ボクにはないんだよね」
「ちょっとどいて下さる? 私達は、もう帰らせて頂きます」

 同じ円卓に座っていた太った男と、和服姿の女が乱暴に立ち上がるのが分かる。そのままブツブツ言いながら二人が会場から出て行った。入り口の扉から光が入り込んで、またすぐ暗闇に包まれた。

「マダ、ヨキョウノルールヲ、セツメイシテイマセンガ、ムヤミニイドウシナイホウガイイデスヨ。ククク。オヤオヤ? ドウヤラ、ルールモキカズニ、ニゲダシタ、オロカナヒトガイルヨウデス」

 モニターの映像が陽碧の館の中庭に切り替わった。門に向かって慌てるように歩いている二人。さっきまでこの円卓に座っていた二人だ。その映像を見ているとまたフラッシュバックした。

「最悪や……」
「どうしたの? 静香」
「……」
「そんな怖い顔しない方がいいよー。笑った顔、可愛いしさー」
「……」

 モニターに映る二人が徐々に門へと近付いていく。今から走っても間に合わないだろう。だからと言って目の前にいる人を救えない自分に虫酸が走る。ただ、尻紙一族とかいう映像内の人物が、むやみに移動しない方がいいとわざわざ言っているのだから、無策に移動するわけにもいかない。
 あぁ、もうすぐ実際に見てしまうことになる。見たくはない、見たくはないけど、見えていたのに救うことが出来なかった戒めだ。目を背けないようにすると、自然と右手を強く握りこんでいた。

「あれ? 僕さー、静香に殴られるようなことしたっけ?」

 隣で、握りこんだ拳を見ながら爽太が聞いてきたので、軽くげんこつを落としておいた。

 ――ドン!
 衝撃音、会場内の空気もビリビリと揺れている。弁明しておくと、私のげんこつによる音ではない。会場内のどよめきを切り裂くように「キャーッ!」という女性の悲鳴。それに促されるようにモニターを確認する。
 そこには立ち上る二つの黒煙と、上半身の無い二つの焦げた下半身らしきものが映し出されていた。

「コレデ、オワカリ、イタダケマシタカ? コノヨキョウガ、ジョウダンナドデハナイ、トイウコトガ。モチロン、ジュウマイノミナサンニモ、ヒトシクサンカシテモライマスヨ。タノシンデ、イコウジャナイデスカ。ソレコソ、イノチガケデネ! ククク」

 荒い映像に戻されたモニターを、誰もが黙って見続けている。



≪/22へ
/24へ≫

スラッシュ\パーティ - /24 -


ハコニワノベル

「ヨキョウノルールハ、タンジュンメイカイ。ミナサンノウデニ、トリツケラレタ、トケイノジュミョウヲ、ゼロニシナイヨウニシテ、コノヤカタノドコカニアル、トケイヲトリハズス、”キー”ヲ、ミツケダシテイタダクダケノ、カンタンナルールデス。ミナサン、ソレゾレ、”キー”ハ、チガウノデ、チュウイシテ、クダサイ」

 映像の中の人物は機械的に話し続けている。
 腕時計を確認してみると、何の材質で出来ているのか、どういう構造なのかは分からないけれど、無理やり取り外すことは出来なさそうで、まるで腕に吸着するかのように私の腕にフィットしている。

「ミナサンノ、ジュミョウハ、4320プン。ツマリ、72ジカン、3ッカカンデス。3ッカカンノアイダニ、コノヤカタノドコカニアル、”キー”ヲサガシダシ、トケイヲ、トリハズスコトガデキレバ、コノヨキョウヲ、クリアスルコトガデキマス」

 モニターの映像がクリアな館の見取り図に変わった。

「ヤカタノナカハ、ジユウニ、イドウシテイタダイテ、ケッコウデス。ガ、イドウノサイハ、イドウコストニ、ゴチュウイクダサイ。タトエバ、ミナサンガイマイル、オオヒロマニ、ハイッテキタイリグチハ、コストが20プンデス。ソノイリグチカラソトヘデルト、ジュミョウガ、20プンヘリマス」

 振り返って入り口を確認すると、入り口の扉にはいつの間にか取り付けられたデジタル時計のようなものに、20と表示されている。

「イドウコストデ、ジュミョウガ、ゼロニナッタバアイモ、シンデシマウノデ、オキヲツケクダサイ。ソレト、アトフタツ、ジュミョウガ、ヘルパターンガ、アリマス」

 会場内は静まり返っていて、モニターから発せられる機械的な音声だけが鳴り響いている。古いラジオで聞いているかのような音声だ。

「ヒトツハ、パートナート、15メートルイジョウハナレタバアイ。1プンガ、1ビョウデ、ナクナリマス。モチロン、パートナーフタリトモ、ヘッテイキマスヨ。サイゴノヒトツハ、ワタシガ、ジユウニ、ミナサンノジュミョウヲ、アヤツルコトガ、デキルトイウコトデス。ヘラスノモ、フヤスノモ、ワタシノ、ジユウジザイ。メッタナコトデハ、ゾウゲンサセタリ、シマセンガ、ルールヲ、ヤブッタリ、コノヨキョウヲ、ダイナシニシテ、シマウヨウナヒトガイレバ、モンドウムヨウデ、ジミョウヲ、ゼロニシテアゲマス」

 つまり、この映像内の中の人物に、ここにいるすべての参加者は命を握られてしまったということらしい。この余興を終わらせるには、この館のどこかにある”キー”を見つけて、この妙な腕時計を取り外さなければならないらしい。

「”キー”ハ、コノヨウナ、カードタイプデス。ミツケタ”キー”ヲ、ウデニツケタ、トケイノモジバンデ、スキャンシテクダサイ。ミゴト、ジブンノトケイト、ツイニナル、”キー”ダッタバアイ、ソノトケイハ、ウデカラハズレ、ヨキョウヲ、オエルコトガ、デキルデショウ。ヒトツ、ザンネンナコトハ、コノ”キー”、ゼンブデ、53マイシカ、ジュンビシテイマセン」
「おい! ここにいる人数はどう数えても数百人はいるぞ? どうなってるんだ」

 叫んだのは塗紙一だった。ステージ上から、モニターに向かって叫んでいる。

「我々、十枚に相談なしで、こんな余興を始めるとは、どういうことか分かってるのか?」
「ククク。ヌリガミサン、アナタ、ジョレツノ、ゴマイメデショウ? ワタシハ、サンマイメ。アナタヨリモ、ニマイ、ウエナンデスヨ?」
「そういう問題じゃない。我々はやっとあの支配下から脱したところだというのに、身内で争っている場合じゃないだろう」
「ソウカッカセズニ、コノヨキョウヲ、タノシミマショウヨ、ヌリガミサン。ソレトモ、ジュミョウヲ、ヘラサレタインデスカ?」
「……ちっ」
「アァ、ハナシノ、トチュウデシタネ。ドウシヨウカナ、”キー”ガ、ミナサンノ、ニンズウブン、タリマセン。ンー、ア! ソウダ、ソウダ。ソウシヨウ。ドウスレバイイカ、オモイツキマシタ」


 フラッシュバック、フラッシュバック、フラッシュバック。
 見たくない。見たくない。見たくない。
 止められない、助けられない、救えない。



 思わず、眼を閉じて下を向いた。



「コウスレバ、イインデス」

 映像の中の人物が、パチンと指を鳴らした。



 ――ドン! ドン! ドン!



 リズミカルに、空気を震わせながら、爆発音が鳴り響く。
 恐る恐る目を開く、何かが焦げた臭いが充満していくのを感じる。
 恐る恐る顔を上げると、照明が再び灯された会場のあちらこちらで、黒煙が立ち上っているのが見える。その黒煙を立ち上らせている場所には、参加者の下半身だけが焦げた状態で残されている。
 黒煙のせいなのか、視界が狭い。とにかく見える範囲で会場内を確認すると、尋常じゃない数の黒煙が立ち上っているのが分かる。何十、いや百は越えているだろう。

「53マイノ”キー”ニ、ガイトウシナイ、トケイヲツケテイタヒトヲ、ヘラシマシタ。コレデ、モンダイハ、カイケツデス。タダシ……」

 映像の中の人物が楽しそうに笑ったように見えた。その映像を見た瞬間、全身に鳥肌が立った。見えたのではなく、聞こえたからだ。今からこの映像の中の人物が言う言葉が。

「イマ、ノコッテイルノハ、106ニン。”キー”ヲ、ミツケテモ、フタリニヒトリハ、タスカラナイケドネ。ククク。ジャ、ヨキョウヲ、タノシミマショウ!」

 映像が無造作に切られた。
 やり場のない怒りなのか、悲しみなのか、体温が熱くなっていく気がする。この黒煙を発生させる張本人を見付け出して、その罪を償わせてやる。ペチコパンツの上から、仕込んだ弓矢を握りしめた。

「大丈夫だよー。静香」

 そう言われて、初めて自分がずっと抱きしめられていたことに気が付いた。無言のまま慌てて爽太の腕を振り払って周りを確認する。嫌な予感が収まらない。爽太は無事、浅黒いホストみたいな男と、ケバイ女も無事。そこまで確認してから、爽太が邪魔で見えなかった島崎先輩と王子先輩の座っていた席を、爽太を押しのけるようにして覗き込んだ。



 そこには黒煙を立ち上らせた、二つの下半身が無造作に転がっていた。



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スラッシュ\パーティ - /25 -


ハコニワノベル

 若草色のドレスと思われる衣服を着たままの下半身と、かろうじて青地のチャイナドレスと分かる衣服を着た下半身が、目の前に転がっている。
 さっきまでそこに座っていたはずの、島崎先輩と王子先輩がいない。何かの間違いだ。きっとそうだ。今、目の前に転がっているのは、誰か別の参加者に違いない。祈るように、爆発によるものと思われる、歪な形になってしまった円卓の下を覗き込んでみたものの、そこには誰もいない。右を見ても、左を見ても島崎先輩と王子先輩がいない。

「嘘や……」
「静香」
「嘘や! こんなん嘘や!」
「少し落ち着こうよ」
「落ち着けるわけないやろ! こんなのは見えてへんかった!」
「見えてなかった?」
「……お前と一緒に行動するようになってからや、急に見えるのが遅くなった! お前、何者やねん! ?」
「僕は爽太だよ」
「そういうことを聞いとんのとちゃう!」
「それにしてもさー、これは何の騒ぎなの?」
「お前、いったいぜんたい何者や……うっ! ?」

 そこで言葉を失った。
 会場内をキョロキョロと見渡している爽太の背中がむき出しになっていて、傷だらけになっている。円卓や椅子の破片がそこら中に突き刺さっていて、Yシャツから透けて見えていた”うしろ”という文字も、今は傷や火傷によって見えない。あまりに生々しい傷で正視に耐えられず目を背けた。

「あんた、それ……」
「ん?」
「いや、その、背中……」
「あ、そうだ。静香、怪我はない?」
「うちは大丈夫やけど、あんたのその背中は……」
「そっか! 静香は怪我してないのか。よかった。よかった」
「いや、よくないやろ……」
「なんで?」
「……あんたは」
「ん?」
「……爽太は、大丈夫なん?」
「頭?」
「いや、背中やろ!」
「大丈夫なんじゃないかなー。だって、ほら、生きてるし」
「そうかもしれんけど、なんでそんなことに……」

 またリプレイ再生のように映像が見える。ドン! ドン! ドン!という爆発音、その爆発が起こるよりも早く、私は爽太に抱きしめられていたらしい。そしてこの円卓で起こった爆発による衝撃と私の間で、爽太がそのすべてを背中に受けている。

「あんた……」
「ん?」
「あんた、どうやって反応したんや? もしかしてあんたも、見えるんか?」
「見える? 何が? 視力はニ.〇だよ」
「いや、ええわ。今のは忘れといて……」
「ねぇ」
「なんや?」
「背中が痛いんだけど、何かなってる?」
「気付いてなかったんかい! あんた背中、大怪我してんねんで?」
「怪我? なんで怪我したんだろう?」
「知らんの? あんた、うちをかばって爆発から守ってくれたんやん!」
「そうなんだ!」
「……いや、うん。そうや」
「へぇ」
「いや、だからなんで自分でやったことなのに、今初めて知ったようなリアクションやねん」
「初めて知ったからだよ」
「は?」
「まぁ、今までは自分が何をやったかなんて知ることは出来なかったけどね」
「あんたそれ、どういう意味や……」
「それにしても酷い臭いだね。ちょっと外出て……」
「あかん」
「なんで?」
「あんたに勝手に動かれたら、うちらも爆発するらしいで」
「そうなの?」
「あんた、さっきの説明まったく聞いてなかったやろ」
「うん」
「うん。ちゃうわ。……はぁ。あんた、うちから十五メートル以上離れんといてよ」
「いいけど、なんで?」
「この時計に表示されてるのが、うちらの寿命らしいねん。ちなみに分表示や。だから今でいうと、残り4318分。これが十五メートル以上パートナーと離れると一秒で一ずつ減っていくらしいんよ」
「よく分かんないけど、分かった」
「あと、扉とかに書いてある数字が移動時に引かれるらしいから、勝手な行動はせんといて。じゃないと、うちが死んでまうから」
「それはダメだよ。静香は死んじゃダメ」
「なんやねんそれ。まぁええわ、とにかく勝手な行動は謹んでな」
「分かった」

 少しだけ冷静になっている自分に気がついた。黒煙が大量に立ち上るのは見えていたけれど、知り合いが犠牲になるのは見えていなかった。だからとはいえ少し取り乱しすぎた。目の前に転がっている島崎先輩と王子先輩の下半身に、少しだけ手を合わせてから席を立つ。隣で爽太も同じようにしていた。
 まずは現時点での状況を正しく把握することが優先だ。携帯電話の履歴から電話をかける。祈るように目を閉じながら応答を待った。

「しーちゃん?」
「バンチョ! 無事なん?」
「うん。無事……とは、ちょっと言えないかなー」
「どっか怪我でもしたん?」
「いや、そうじゃなくて千紗がちょっとね……。まぁ、一応二人とも大丈夫だよ。しーちゃんは?」
「うちも大丈夫や。ただ、同じ席に座ってた弓道部の先輩がな……」
「そっか。いいよ、それ以上言わなくて。しーちゃんは今どこら辺にいるの?」
「入り口に近いところにおるよ」
「私らは、会場の一番右側の真ん中あたり」
「分かった。今からそっち行くわ」
「了解」

 座っていた一番後ろの席から会場の右端へ移動し、円卓を一つずつ確認するようにしてバンチョ達を探した。
 どこの円卓でも爆発が起こったらしく、円卓が元の丸い形を保っているものは見受けられない。そこら中に円卓や椅子の破片、それから上半身を失った下半身が黒煙を立ち上らせながら転がっている。よく見ると、頭や腕などは転がっていない。どの被害者も、まるで上半身だけ消されたかのように上半身の痕跡は残っていない。それほど強烈な爆発だったのか。そうだとすると何か引っかかる気がしてならない。爆発の原因はアレだったはずだし――。

「しーちゃん!」
「バンチョ!」
「無事そうでなによりだよー」
「バンチョこそ。えーと、小早川さんは?」
「うん。あそこだよ」

 少し悲しそうな顔を見せながらバンチョが指さした先に、壁を背もたれにして膝を抱えて座り込んでいる小早川さんがいた。



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スラッシュ\パーティ - /26 -


ハコニワノベル

 顔面蒼白。少し唇を震えさせていて、目はギロギロと落ち着かずに動いている。その視線に捕らえられると「……しーちゃん?」というか細い声が聞こえた。軽く頷いてその声に応えると、小早川さんは突然勢い良く立ち上がって、フラフラした足取りでこちらに飛び付いてきた。両肩をがっちり掴まれている。

「小早川さん?」
「……」
「どないしたん? 大丈夫?」
「……でしょ?」
「え?」
「分かってたんでしょ?」
「分かってた? 何の話?」
「こうなること、分かってたんでしょ!」
「こうなることって……」
「沢山の人が爆発するってこと! ねぇ、分かってたんでしょ! ?」
「いや、それは……」
「しーちゃん、予言」
「予言? あぁ、それはただの偶然やろ」
「ううん、違う。だってしーちゃん言ったこと外れたことないもん」
「せやから、それは偶然で」
「違う! しーちゃん、見えてるんでしょ?」
「な……、なんの話や?」
「しーちゃんには、みら……」
「あのさ、僕の静香を独り占めするの、辞めてくれる?」

 どうやって入ったのか、私と小早川さんの間に突然爽太が現れた。それに驚いて小早川さんは手を離した。「しーちゃん、この人誰?」同じく止めに来たバンチョが口を開いた。

「あぁー、こいつは、えーっとな」
「僕は爽太だよ」
「だからそういうことを聞かれとんのとちゃうわ!」
「へぇー。しーちゃんの彼氏? それともベタなとこで親戚? 友達にしてはちょっと違うかなー。あ、もしかして婚約者とか?」
「どれも違うわ!」
「静香と一生一緒にいる人だよ」
「あんたもややこしい説明すなや! ただのパートナーや、パートナー」
「ふぅん。まぁ、いいけどね。で、何歳ですか?」
「僕? 十八だよ」
「ふむふむ。しーちゃんは年上が好みなんだね」
「だから違うわ!」

 ひとしきりバンチョにからかわれ終わると、それまで無言だった小早川さんが近づいてきた。神妙な顔つきをしているので微妙に構えてしまったけれど、間にバンチョと爽太が入っているので、さっきのようにはならないだろう。それよりも今は「分かってたんでしょ?」と言われた言葉が胸にチクリと刺さる。

「しーちゃん、さっきはごめんなさい」

 深々と頭を下げられて少し面食らった。突然の事態に混乱したのと、目の前にいた人の命が簡単に奪われてしまったことで、正気じゃいられなくなったらしい。そりゃそうだろう。私だって取り乱していたのだから。そう考えると、バンチョが落ち着いていることの方が変に思える。普段落ち着きがないだけ余計に。小早川さんに「ええよ、こんな状況やし仕方ない」とだけ言ってから、バンチョに近づく。

「なぁ、バンチョ」
「なに?」
「バンチョは大丈夫なん?」
「へ? なにが?」
「いや、小早川さん相当ショック受けてるみたいやし、バンチョは大丈夫かなと思って」
「うん。いやー、ショックはショックだよ。だけどさー、千紗がああなっちゃったから、私はそれを支えてあげないとなーと思ったら、ちょっと落ち着けたんだよね」
「そうなんや」
「大人でしょ?」
「すごく意外やけどね」
「うふふー。やるときはやるんだよ、私」
「せやね。やけど無理はしたらあかんで? 吐き出したいときは吐き出してええねんから」
「しーちゃんもね」

 お互いに頷き合ってから、四人でこれからどうするかを話し合う。

「キーを見付けないことには、何も始まらへんな」
「この館の中にあるんでしょ? そのキーっていうのはさ」
「だけど移動するのにコストだっけ? それをこの時計の数字から減らされるから、無闇に移動は出来ないね」
「お腹すいたなー」
「とりあえず、この会場内にもキーがあるかもしれへんから、まずはこの会場内を探そか」
「そうだね、無駄に移動して寿命減らしちゃうのもなんだしねー」
「だけどさ、半分の人はキーがないんだよね? だ、大丈夫かな?」
「何か食べ物ないかなー」
「小早川さん、そこは心配しても始まらへんよ」
「そうだよ千紗、やれることやってみなきゃだよー」
「う、うん。そうだよね。二人ともありがとう……って、あれ?」
「どうしたん?」
「千紗?」
「ね、ねぇ、しーちゃんの腕時計の数字、すごく少なくない?」
「え?」

 腕時計を確認すると、みるみるうちに数字が減っていく。4200を切っても止まらない。その理由に気がついて顔を上げて辺りを探してみたものの、見える範囲には居ない。そうこうしているうちに4100を切った。このままでいくなら残された時間は一時間と八分程度だ。

「ちょ、これヤバくない? しーちゃん! あ、ど、どど、どーしよう」
「なんで? 私とバンチョのはまだ4285って表示されてるのに」
「あんの、どアホ! あれだけ言っといたのに……」

 今ここでイラついても仕方がない。とにかくあいつを見つけなければ、私も上半身のない下半身の仲間入りしてしまう。まずは落ち着いて、それから探そう。
 頬に米粒を付けている。両手に大量の食べ物を持っているのは、この会場を出て階段を下り、また勝手に厨房に入って持ってきたもののようだ。
 腕時計の数字が4061で止まった。

「みんなも食べる?」

 後ろから聞こえた声に反応して振り向くと、頬に米粒を付け、両手におにぎりと唐揚げ、大量の焼きそば、それからパンを持っている爽太がいた。ペットボトルの飲み物まで何本か持っている。

「あんたなぁ! うちから十五メートル以上離れんなや! 見てみ、うちの寿命こんなに減ってもうたやんか」
「え?」
「え? ちゃうやろ! さっき説明したやんか!」
「焼きそばに紅しょうが付けるの忘れてた」
「いや、今はそんな話してへんやろ!」
「これでも食べて、少し落ち着こうよ」
「落ち着けるわけないやろ! 大体今はそんなことしてる暇なんて……」

 爽太の腕時計に3951と表示されている。明らかに私よりも少ない。いや、会場の入り口が20分、厨房にも移動コストがあったのだろうから減っていて仕方がないか。ほんの数分移動しただけでここまで減るということは、キーを探し出すのは不可能かもしれない。
 そのまま焼きそばを美味しそうに食べている爽太を見ていると「おにぎり?」と聞いてきたので、強めに耳を捻っておいた。



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スラッシュ\パーティ - /27 -


ハコニワノベル

「あのー」
「なんや?」
「痛いんですけど」
「せやろな」
「静香も焼きそば食べたかったの?」
「ちゃうわ! 勝手に行動すんなって言ってたやろ?」
「うん」
「だったらなんで勝手に行動してんねん」
「お腹すいてたんだよね」
「お腹すいてたんだよね、ちゃうわ!」
「いや、でもさー。この食べ物はどこで手に入れたんだろうね」
「あのな、それはあんたが勝手にここに入ってきた入り口から出て、階段を降りて、一階のエントランス奥にある厨房から持ってきたもんや」
「そうなんだ!」
「あぁ、もうええ。とにかく次勝手な行動したらシバくで?」
「うん。それは楽しみだなー」
「いや、楽しみにすな」

 駄目だ、こいつとまともに会話しようとしても無理がある。なんというか思考するより先に行動をしてしまっている気がする。まるで小さい子供のように自由気ままで制御不可能。首輪とリードでも付けないとどうにもなりそうにない。
 とりあえずおにぎりを一つ奪いとって食べた。どっちにしろそんなに簡単にこの場所から解放されることはないのだろうから、エネルギー補給は必要だ。

「私もちょっと貰おうかな。千紗はどうする?」
「ごめん、私はちょっと食べられそうにないや。それより、そのペットボトルのはお水ですか?」
「これー? うん、水みたいだね」
「持ってきた本人が何か知らんとか、どないやねん」
「それ一本貰えます?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう。ずっと何も飲んでなかったから、助かります」
「小早川さん、今なんて?」
「え? いや助かりますって」
「そうやなくて、何も飲んでなかったって?」
「うん、そうだけど?」
「さっきの紅茶も飲んでない?」
「飲んでないよ」
「なんで?」
「だってほら、それは……」
「ん?」
「ううん、ええとね……、私、ちょっと紅茶苦手なんだ」
「そうなんや。良かった」
「良かった?」
「いや、気にせんといて」

 少しだけ如何わしそうにこちらを見つめつつ首をかしげてから、小早川さんはペットボトルの水を一口飲んだ。

「あ、あー。会場内の皆さん」

 マイクから音声が発せられたので、自然とステージ側を確認する。そこに塗紙一が立っていた。

「先程、ありましたようにナンセンスな余興が始まってしまいました。この館内に隠されたカードキーを探し、寿命を表すというこの腕時計を外さなければ、今こうして生き残っている我々も同じように命を奪われてしまうようです」
「他人事みたいに言うな! これは元々十枚が企画していたものなんだろ?」

 どこからか野次が飛ぶ。それを片手を上げることで静めると、塗紙一が再び口を開いた。

「我々十枚がこのような余興を企画したという事実は一切御座いません。我々は純粋に皆さん方との交流を目的として、今回のパーティを主催するに至りました。等しく我々十枚もこの余興に強制的に参加させられてしまいましたので、皆さんと同じ状況です。ただ、皆さんと同じだからといって、このまま何もしないというわけにはいきません。主催者側として、一人でも多くの方をお救いするのが勤めだと考えております」
「じゃぁ、どうするって言うんだ! ? そこまで言うなら何かしら考えがあるんだろうな!」
「もちろんです。ええと、我々十枚のメンバーでこの会場内を捜索した結果ですね、カードキーを四枚発見致しました。既にこの会場から出てしまっている方もいらっしゃいますが、まずは皆さんお一人ずつこのカードキーで腕時計が外せないかをお試しください。我々十枚のメンバーがカードキーを発見した場合は、皆さんにお知らせし全員に腕時計が外れないか確認して頂きます」

 会場内が少しだけざわついたかと思うと、我先にとステージに向かって参加者達が押しかけ始めた。転がっている下半身や、円卓だったものを乱雑にどかしながら、他の参加者を押しのけながら群がっていく。その騒ぎの中で会場の中央付近で円卓だったものが倒された。もう円形ではなく、扇を二つくっつけたような形になってしまっている。今度は後方にあった円卓だったものが倒された。こっちは三日月のような形になっているのが見えた。

 ――ちょっと待て。
 すぐに近くの円卓だったものを片っ端から確認する。三日月、扇、半円、足だけになっているものもある。ついでに転がっている下半身の数も数えていく。二つ、四つ、六つ、八つ。残っている椅子の数も数えてみる。これはどうやら間違いなさそうだ。

「しーちゃんどうしたの? 急に」
「いや、ちょっと気になっただけやでバンチョ。あんまり大したことじゃないけどな、……うん、間違いない」
「うー? まぁいいか。でさー、あのステージ上の人が持ってるカードキーだっけ? あれ確認しに行かないの?」
「もう少し待って、人ごみが捌けてからがええと思う」
「そうだね、慌てても仕方ないし」
「ふー、食べた食べた」
「あんたはまだ食ってたんかい! マイペース過ぎるやろ!」
「あ、そうだ。さっきから言ってるさ、カードキーってこれのこと?」

 爽太がそう言いながら背中が破けてしまっているYシャツの胸ポケットから、無造作にカードキーを三枚出した。

「ちょっとあんた! これどうしたんや?」
「うーん、どうしたんだろうね?」
「いや、聞いてんのこっちやろ……」

 見えた。厨房の中で食料を確保しながら、調理台の下から一枚、シンクの中から一枚、冷蔵庫の中から一枚を見つけては胸ポケットに入れる爽太の姿が。

「なるほどな……。厨房で見つけて持ってきたわけや」
「そうなんだ!」
「とりあえず、四人の腕時計でこのカードキーを試してみよか」
「千紗ー、最初に試しなよ」
「……う、うん」

 時計の文字盤にカードキーをかざす。少し長くピーという音がするだけで、腕時計は外れなかった。二枚目も三枚目も結果は同じで、そこから順番に全員三枚とも確認してみたものの、誰の腕時計も外れることはなかった。あからさまに落胆してしまった小早川さんを、バンチョと私で支えるようにしながら、ステージ上にいる塗紙一にこの三枚のカードキーを渡すために移動した。



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