POSITISM

適度に適当に。

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リレーは完走になったようです


エッセイ

やっと家族全員が元気になった模様。ってここに書いたら本文に何を書けばいいんだろう。な話。

アデノウィルスだったけれど


 あーさんは高熱が出て大変だったんですが、ちぃさんは比較的熱は出ずに回復に向かいました。ただ、あーさんはアデノウィルスで発熱したあとに、手足口病っぽい症状が出てました。あーさんからバトンを受け取ったちぃさんは、どうもアデノウィルスではなく、手足口病のバトンを受け取ったみたいです。口内炎や、手足の発疹が辛そうでした。



アンカー


 ちぃさんが発熱してほどなくして、同じく発熱した嫁。手足が痛み、口内炎に苦しみつつ発熱もあったので、嫁はアデノウィルスと手足口病両方のバトンを受け取っていた可能性が。ともかく、嫁も回復しやっと平穏な生活に戻りました。
 真のアンカーが私にならないように、しっかり自己管理していこうと思います。



あーさん、ちぃさん、嫁が回復して
良かった、良かった。
皆さんも体調管理気を付けて!
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テーマ:日々のつぶやき
ジャンル:育児

仕分け作業


エッセイ

ちょっと前までテレビやネットで毎日お目にかかったアレではなく、自分のやることを整理整頓する。そんな仕分け作業の話。

4つに仕分けてみる


 普段生活しているとアレやコレやとやることが増えていきます。アレやコレやが少ないときはそんなに悩むこともないのですが、それが増えてくると「アレがしたい」「コッチもしたい」「だけど、アレをやっておかなきゃならない」といった状態になってしまって、気がつくと何から手を出していいのかすら分らなくなってしまうことが多いです。(私自身が)
 今まではやることに優先順位を着けて優先度の高いものから手を付けるようにしていたんですが、やることが増えすぎると単純に順位を着けられないことも多々あって困ってたりしてました。先日、会社の上司との話の中で、何をやるか、何をすべきかをまず仕分けるといい。みたいな話を聞きまして、おお、これはちょっといいかもしれない。と感じました。


 その仕分ける項目は次の4つ。

 1:やりたいこと
 2:やりたくないこと
 3:やらなくてはならないこと
 4:やってはならないこと

 これを図にするとこんな感じに。

 自分がやることを、この図のように仕分けると、視覚的にやることが見えてくるわけです。



仕分けた後で分かること


 上の図のようにやることを仕分けすると、ほっといてもいい部分が発生します。図で言うと「A」「B」「D」の部分です。

「A」は【やりたくて、やらなくてはならないこと】なので、ほっといても自分でやるでしょう。
「B」は【やりたいけど、やってはいけないこと】なので、実施しなくて問題ないです。
「D」は【やりたくなくて、やってはいけないこと】なので、ほっといても自分がやることはないです。

 で、結局何が問題になってくるのかというと、「C」の部分に入ってくる【やりたくなくて、やらなくてはならないこと】だけです。結局は、この「C」に入ってくるものを、どう処理するかだけを考えればいいんです。できるだけこの「C」に分類される物事を先に処理してしまえば、後はそんなに意識することなく自分で処理できる事柄が多いわけです。つまりこの「C」に入るものから優先度を高く付けて処理するのが、一番スムーズにやることを処理できるというわけです。
 全部が全部この分類に収まるわけじゃないので、何でもかんでもこの方法で仕分けるべきだとは思いませんが、この仕分け作業で「C」に分類されたものを、できるだけ「A」に分類できるように努力すれば、それだけこれからの生活が有意義になるってことなんですよね。




「B」のものをやってしまわないように
大人は頑張っているわけですよね。
ほ、ほんとにね。(誘惑に負けそうになりながら)

テーマ:コレ、すごいよ!
ジャンル:ライフ

第10回ハコニワノベルのキーワード募集!


ハコニワノベル

宇宙を作り上げることはできないけれど、部品があればロケットだって作れる気がする。
だからそれを確かめてみようと思うんだ。

ハコニワ最終章三部作の第一部キーワード募集


 今回で第10回目の開催となります、ハコニワノベル。また、みなさんの【キーワード】という部品を下さいませ。



ハコニワノベルとは?(概略)


この記事のコメントに、物語の【キーワード】を読者である皆さんに書き込んで頂いて、
その【キーワード】を元に、しのめんが物語を綴るという仕組みです。

 例)
  第09回のキーワード募集記事(コメントが【キーワード】です。)
  ↑キーワードを元に出来上がった物語はこちら


 【キーワード】を書き込んで頂く場合の注意点です。




※注意事項
・【キーワード】をコメントで書き込んでください。
 (あらすじのようなものはスルーします。)
・お一人様につき、【キーワード】の投稿は1つまで。
コメントして頂いた方を全員何かしらの形で物語上に登場させます!
・何かしらの展開は無いとは思いますが
 出来上がった物語の権利はすべてしのめんにあります。
・書き込まれた【キーワード】をしのめんが曲解して扱う場合があります。
実在する人物、団体名はお控え下さい。




 ■■■ 今回の募集は通常時とちょっと違います! ■■■

 通常時は【キーワード】のみをコメントに書き込んで頂いておりますが
 今回は追加で以下の内容も一緒に記入して下さい。
 (以下の項目が未記入の場合は勝手に設定させて頂きます)

 ■キーワード投稿時に書き込み頂く内容
  名前:ハンドルネーム(コメント投稿フォームの「Name」に記入してもらえばOK)
  キーワード:物語を構築する部品です。上記の注意事項を読んで自由に書き込みを。
  
  --- 以下追加項目 ---
  
  願い:実現可能なレベルの願い、望み(登場人物となるキャラの願い)
  武器:現実レベルな武器(登場人物となるキャラが個人で扱える武器にしてね)
  知力:☆☆☆☆☆
  体力:☆☆☆☆☆
  運力:☆☆☆☆☆
   ※知力、体力、運力については☆を合計で5個だけ★で塗りつぶして下さい。
    場所は関係ないので左詰めで塗りつぶしてネ。


■簡単なテンプレ(コメント記入時にコピペ推奨)

●----この下の行からコピー
キーワード:

願い:
武器:
知力:☆☆☆☆☆
体力:☆☆☆☆☆
運力:☆☆☆☆☆
●----この上の行末までコピー



 ※重要!【キーワード】の募集締め切りは 2009/12/20 23:59 まで。
 2009/12/20 23:59で募集を締め切りました。


 ※追加項目の内容を使うような物語になるかどうかは未定ですw

 何はともあれ、キーワードばっちこーい!




気軽な【キーワード】投稿をお待ちしております!

スラッシュ/ゲーム - 表紙 -


ハコニワノベル



■ もくじ ■

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スラッシュ/ゲームの感想フォームはこちらハコニワノベルとは?


■ 頂いたキーワード ■


●黒さん

キーワード: 愛別離苦
願い: 運がなくても報われるんだ!
武器: 太刀
知力:★★☆☆☆
体力:★★★☆☆
運力:☆☆☆☆☆


●ちこさん

キーワード:直径9mのタイヤ
願い:流氷にのりたい。
武器:耳掻き
知力:☆☆
体力:☆
運力:☆☆


●志津さん

キーワード:待てば海路の日和有り
願い:空を飛びたい
武器:色鉛筆
知力:★☆☆☆☆
体力:★★☆☆☆
運力:★★☆☆☆


●サイコ★デコラデコラさん

キーワード:結婚おめでとう
願い:幸せで温かい家庭ができること
武器:愛情
知力:★★★☆☆
体力:☆☆☆☆☆
運力:★★☆☆☆


●じゅじゅさん

キーワード:愛してないわけじゃない
願い:忘れたい
武器:散弾銃
知力:★★★☆☆
体力:★☆☆☆☆
運力:★☆☆☆☆


●るど

キーワード:おひとりさま
願い:瞬間移動
武器:ハンドパワー
知力:★★★★☆
体力:★☆☆☆☆
運力:☆☆☆☆☆


●樹さん

キーワード:永遠の謎
願い:夢の中で逢いましょう
武器:エクスカリバー
知力:★★☆☆☆
体力:★☆☆☆☆
運力:★★☆☆☆


●るーねぇさん

キーワード:ウエディングベル
願い:おまえ100まで、わしゃ99まで
武器:赤い糸
知力:☆☆☆☆☆
体力:★★★★★
運力:☆☆☆☆☆


●ミッチーさん

キーワード:トラウマ
願い:引っ越ししたい。
武器:槍
知力:★★☆☆☆
体力:★☆☆☆☆
運力:★★☆☆☆


●のんさん

キーワード:ふわふわの紅茶シフォンケーキ
願い:元彼とよりを戻すこと。
武器:世界の杖
知力:★☆☆☆☆
体力:☆☆☆☆☆
運力:★★★★☆


●ともさん

キーワード:口笛
願い:願いが叶う
武器:殺人的にかわいい笑顔(はぁと)
知力:★★☆☆☆
体力:★☆☆☆☆
運力:★★☆☆☆


●☆まりモさん

キーワード:ワンダーランド
願い:全身サイボーグ化
武器:声(笑い声は戦闘能力無効に、叫び声は超音波攻撃に、歌声は体力回復に)
知力:★★★☆☆
体力:★☆☆☆☆
運力:★☆☆☆☆


※この物語はフィクションです。
実在する人物、団体、その他とは一切関係ありません。

スラッシュ/ゲーム - /01 -


ハコニワノベル

 学生時代、就職活動になかなか本腰を入れられなくて、うだうだとぬるま湯のような生活を続けていた。その生活は大変に心地よく、出来る事ならば一生をそのまま過ごしていきたいとさえ思った。本気でそうなればいいとまで考えてみたものの、人生はなかなかに甘くない。やれやれ、そういうことなら仕方ない。などとたかをくくって遅い就職活動を開始してみると時すでに遅く、ほとんどの企業が募集を締め切っていた。詳細は知らないがアメリカの不況とやらが、この国にも襲いかかっていることも影響があるらしい。しかし、この不況というものを大義名分にすれば、自堕落で素敵なぬるま湯生活を続けられるじゃないかと喜びもあった。そんな矢先、両親から無情な仕送り停止の知らせが入った。どうやら不況とやらは国だけでなく、両親にまで襲いかかっていたらしい。抜け目の無い奴め。
 そこからは求人という求人をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し、手当たり次第に応募を続ける日々となった。しかしながら書類選考という超難関な選考に阻まれ続けること数十社、いや百数社。社会が自分を必要としていない現実を見せつけられて、まさに精も根も尽き果て、街行く人達全員が自分を哀れんでいるように思え大変惨めに感じた。だが強靭な精神力を保有しているため、三日後にはその惨めさにも慣れていたし、全ては諦めが肝心だなどと妙に清々しく決意していたのだ。それなのにある日の午後、いつ応募したのかさえ忘れていた一社から面接を行う旨の連絡が入った。人生はなかなかに思い通りにはならないようだ。必死にかき集めたお金でスーツを購入し、フレッシュリクルーターに生まれ変わった。そのフレッシュさがはじけ過ぎていたのか、面接会場へは軽やかなステップで移動した。すれ違う人が皆、自分を応援しているようにさえ思えた。

「あなたが大切にしていることは何ですか?」
「人生をいかにして楽に生きるかを命題にしています。普段を楽に生きていれば、有事の際に普段使っていない本気を存分に発揮することが出来ると思うからです」
「では、あなたが当社に入社してどのようなことをやりたいと考えますか?」
「私に関わる全ての人が楽しく思えることをやりたいと思います」
「具体的に楽しくとはどのようなことですか?」
「楽しいことは嬉しいということで、つまりは幸せになってもらいたいです」
「それは身内だけになってもらいたいのですか?」
「身内だけでなくお客様や、自分も幸せになってもらいたい、いや幸せになります。幸せにしてみせます」
「分かりました。こちらからの質問は以上です。何か質問等ありますか?」
「ちなみになんですが、御社はどのようなことを仕事にしているのですか?」
「……本日お渡ししたパンフレットに書いてありますので、またご覧になって頂ければお分かりになると思います」
「あ、そうなんですか。入社までに穴が空くほど目を通しておきます」
「結果は一週間以内にお伝えするようにします」
「はい、本日はありがとうございました」

 あれは一年前の年末だったと思う。今思い出しても内定間違いなしの面接だった。自分だけでなく他人すらも幸せにしてみせるという高い意欲、今時の若者らしからぬ情熱がほとばしっていたのだろう。あの完璧な面接が行われてから二ヶ月後に、楽勝で内定を頂いた。風の噂では別の内定者がいたものの、ギリギリになって内定辞退されてしまい欠員が出たとかどうとか。まぁ、風の噂はあてにしないに限る。
 内定を掴みとり、今年の四月からこの会社KGC、上坂ガーデンカンパニーで働いている。KGCはあの泣く子も黙る、全国津々浦々、大小様々な公園の企画、建設、運営から管理までをこなす巨大企業グループである帝園グループの傘下にある会社だ。あの日もらったパンフレットには帝園グループのマークが描かれていて、ついに一流企業に勤めることになるのかと、下ろしたてのスーツを正したのが懐かしい。今は毎日KGCから支給された作業服をビシっと着こなしている。

「こら、爽太」

 昼休みも終わり、紙コップに注がれた本日三杯目のコーヒーを飲みながら、ニュースサイトのフィードをチェックするという大変忙しい作業をしていたのに、いきなり後頭部を叩かれた。これはもう弁明の余地なしで傷害罪になる。誰か警察を呼んでくれないか。ということを割と本気で思いつつ振り返ると、思った通りミッチー先輩がいかにも怒っていますオーラを出して仁王立ちしている。

「ミッチー先輩、痛いじゃないですか」
「痛いじゃないですか、じゃないでしょう。君、今朝の東公園の清掃はどうしたの?」
「今週って僕でしたっけ? いやいや、僕じゃないような気がするな。ほら、ホワイトボードの当番はミッチー先輩になってるじゃないですか」
「あんたが先週私と当番を交代してくれって言ったの忘れてるわけ?」
「あぁ、そう言えばそういう約束事を交わした、ような記憶がありますね」
「だったら何で今日清掃しなかったのよ。あんたのせいで私が呼び出されて今まで清掃するはめになったじゃない」
「それならそうと朝の段階で携帯にでも連絡くれればいいじゃないですか」
「したわよ。何度もね」
「またまたご冗談を。僕の携帯にはほーら、あー、着信が十八件も入ってますね。ミッチー先輩、そんなに僕の声が聞きたかったんでぇっ……い、痛い痛い痛い」

 思い切り耳を捻られて激痛が走る。いや、このままだと耳が千切られる可能性も出てきている。これは立派な傷害罪、しかも先輩が後輩に対して行うパワハラだ。訴えたら間違いなく勝てる。という勝算が立てられたとほぼ同時に耳は開放された。それでもなお、じんじんと痛む。

「とにかく、報告書の作成ぐらいはきっちりやってもらうからね」
「いや、僕が報告出来るのは清掃しませんでした。という簡潔かつビューティフルな報告しかありませんよ」

 突然、バンと机を叩かれた。コーヒーが少しこぼれてしまった。デスクにシミが付いたらどうしてくれるんだ。まったく。

「そのまま正直に報告したら、あんたの教育係でもある私の責任問題になっちゃうでしょうが。私が概要を伝えるから、きちんとした報告書を作ってもらわないと困るのよ。分かったかしら?」
「まぁそういうことなら、先輩を助けると思ってやりますよ」
「反対の耳も捻ってあげようか?」
「さ、報告内容の概要を教えて頂けますか、小谷先輩」

 従順に作業内容を教示してもらおうと思ったのに、結局反対側の耳も捻られた。まったく酷い先輩だ。KGC管理部三課の主任、小谷美知恵。通称ミッチー先輩、入社五年目で独身。大人しくしていればそれなりに魅力ある女性だというのに、こうも暴力的ではいけないな。
 こぼれたコーヒーを拭き取りながら後ろを確認すると、未だ怒りが収まらないのか妙に禍々しいオーラを背負っているミッチー先輩が見えた。やれやれ、レディはもっとお淑やかにしておくべきだ。そう思った瞬間、ミッチー先輩が振り返ってキッとこちらを睨みつけてきた。両耳がじんわりと痛くなった気がして、電光石火の勢いで視線を逸らした。



/02へ≫

スラッシュ/ゲーム - /02 -


ハコニワノベル

 KGCは社員数二百数十名の会社で、十三の公園を管轄している。そのうち有料公園は二つ、一般公園が九つ、それから最近の試みであるオフィス緑化企画で、二つの企業ビル屋上に小さな公園を造り、それらを管轄しているというわけだ。新規の公園計画や既存の公園でのイベントなどを計画立案しているのが企画部、二つの有料公園にて接客等を行う運営部、その他の公園を管理する管理部、その他にシステム部と総務部が存在している。十年、いや百年に一度の逸材と自称する僕は管理部の三課に配属されている。管理部三課は上坂西1公園、上坂西2公園、西川サイクリングロード、上坂東公園の四つを担当として受け持っている。ちなみに僕の管轄は東公園だ。
 管理部という大層な名前が付いてはいるものの、実際の業務内容としては公園内の清掃、点検、修繕依頼、草刈り、低木の刈り込み依頼などだ。ただ、各公園はそんなに大きくないので、一週間ごとに当番を決めて、当番は毎朝担当公園の清掃を行い、軽く公園内の点検をしてから出社するというルールがある。ホワイトボード上には今週の当番としてミッチー先輩の名前の上に、赤いマグネットが置かれている。しかしどうやら先週の当番であった僕が、ミッチー先輩と当番を交代して欲しいと申し伝えていたらしく、今週の当番は僕ということになるらしい。そう言えば先週末に勘違いしてくれるかもしれないと、赤いマグネットを自分の名前の上からミッチー先輩の名前の上へ移動させたような気がする。いや、確信がある。
 当番になるといつもより早く家を出ないといけないし、この時期は何より寒い。しかも出社直後に面倒な報告書を作成しなければならないのだから、出来れば当番になりたくないのは自然の摂理だ。報告書はGSと呼ばれる社内システムで作成し、上司へレビュー依頼を出して報告書をチェックしてもらい、指摘があれば修正して再度レビュー。指摘がなくなったら次は課長へ提出、ここで指摘があればまた修正して再提出を繰り返し、課長承認が得られた時点で報告書作成は完了する。周りの人たちは半日もかけて、この報告書を作成しているようだが、優秀過ぎる逸材である僕にかかれば、二日ほどかかったりする。何が気に入らないのか、上司レビューの担当者であるミッチー先輩が、まったく承認をしてくれないからだ。前回当番時に作成した報告書の指摘箇所は三桁を超えていた。逆にそれだけの指摘を真面目に出来るミッチー先輩を、心から尊敬したいと思う。真似はしたくないけれど。
 少し冷めたコーヒーを口に含みながらGSのログイン画面を表示させる。社員IDとパスワードを入力すれば様々な社内処理を一元的にシステム上で行うことが出来る。システム部が血眼になって日夜機能追加、バグ修正を行っているおかげでかなり使い易いシステムになっている優れものだ。
 さて、とりあえずさっきからチラチラとこちらを睨みつけてくる先輩のご依頼を達成するとしよう。

「あれ?」

 モニタに表示されたログイン画面に見慣れない文字が表示されている。

「前回ログイン時から同一IDでのログイン可能時間を超えています。システム部にご連絡下さい」

 なんだこれは。赤色でしかも太字。しかも何度試してもログイン出来ない。ログインが出来ないということは、報告書の作成も出来ない。つまり、今日はもう仕事がないということだ。やれやれ、システム側の問題じゃしょうがない。コーヒーを口に運ぶ。

「なにモタモタしてるのかな?」
「えっ、あ、ミッチー先輩、ちわーっす」
「ちわーっす。じゃないわよ。報告書の概要を送りたいけど、あんたまだGSにログインもしてないじゃない」
「いやそれがですね、何度やってもログインが出来ないんですよ。システム障害ですねこれは」
「何言ってるのよ、私はログイン出来てるし障害報告なんて来てないわよ。あんたIDとかパスワード間違えて入力してるんじゃないの?」
「そんな素人間違いするわけないじゃないですか」
「どうだかね、ほらちょっと見せてみなさい。ってあんたこれは」
「ね、システム障害でしょ。こんな赤いメッセージ初めてですよ。まったく、これは障害以外に考えられない」
「ちょっと確認したいんだけど、あんたいつからGSにログインしてないの?」
「えーと、先週はログインした記憶がないですよ。はっはっは……ぉぐぅ」

 腹部に鈍痛。ミッチー先輩の拳が脇腹に突き刺さっておられます。さっき優雅なランチタイムのデザートに食べた、ふわふわの紅茶シフォンケーキがお口からこんにちはしそうだ。もうこれは傷害罪で言い逃れなしの実刑判決が出るレベルだ。実現不可能とまで言われたミッションだったけれど、なんとかシフォンケーキを押し込めることに成功した。

「このメッセージは一週間以上ログインしなかったときに表示されるメッセージじゃない。勤怠入力は毎日しなさいって、私何度も言ったわよね?」
「は、はい仰られておられましたです」
「それでなぜ一週間以上ログインしていないのかしら。これで何度目なのよまったく。さて納得のいく説明をしてもらいましょうか」
「それはきっと小人さんがログインさせないように……ぁぐぇ」

 突き刺さったままの拳がグリグリされているであります。痛いというより吐きそうです。このままではマーライオンになってしまって、KGCの新名所が誕生してしまうじゃないか。

「毎回毎回ロック解除のために、私がシステム部に行ってるんだからね。もう今回からあんたが自分でシステム部に行って、ロックを解除してもらってきなさい。それから、報告書が二時間後までに出来上がらなかったら、今年一年分の三課の報告書をまとめる素敵な残業をプレゼントしてあげるからそのつもりで」
「ふ、ふぁぃ。分かりました」

 そこまで言うとやっと拳が腹部から抜き取られた。ギリギリだ。ギリギリで新名所は誕生することはなかった。口の中が微妙な甘みと酸味で広がっている。それを残りのコーヒーで流し込んだ。ミッチー先輩は内線を取ると「管理部三課の小谷です。黒瀬主任をお願いします」とか話してる。やれやれ、訴えられたら負けるとも知らず呑気なものだ。

「爽太、システム部の黒瀬に頼んであげたから、さっさと行ってきなさいよ」

 内線を切ってからそう言うとミッチー先輩は、やれやれという感じを身体全体から醸し出しながら自席へと戻って行ってしまった。これ以上モタモタしてるとマーライオンにされかね無いので、素直にシステム部へと向かった。
  KGCの社ビルは一階がエントランス、二階には我らが管理部の一課、二課、三課が入り、三階に企画部と運営部、四階はなぜか閉め切られていて、五階にシステム部、六階に総務部、七階に社長室と応接室がある。それぞれの階にミーティングスペースと、自動販売機やソファなどが設置されているリフレッシュスペースがある。
 エレベーターホールで二台あるエレベーターを確認すると、一台は点検中でもう一台は七階に止まっている。若さがほとばしっているとはいえ、階段は非常に体力を奪われるので出来れば選択したくない。ここはエレベーターで行くことにしよう。よし、と納得してから七階に止まっているエレベーターを呼ぶ。しかし、何度ボタンを押しても七階に止まっているエレベーターは降りてくる気配がない。やれやれ、ここは若さをほとばしらせるしかないようだ。
 しょっちゅう電話が鳴り響く二階とは違い、三階は静かだった。企画部は基本的に営業活動で社内にいないし、運営部は有料公園側での仕事がメインなのでほとんど社内で見かけることはない。きっと今いるのは運営部個別の経理部門の社員だけだろう。四階は四という字が不吉だからとかで使っていないらしく、白い壁で塞がれている。入社以来、この四階のフロア内を見たことはない。
 さて、やっと五階にたどり着いた。そこにはぶっきらぼうな電子ロック扉だけが見える。他のフロアは自由に出入りが出来るものの、システム部のフロアには二重の電子ロックを解除しないと入れない。外側の電子ロックは一般社員のIDカードで解除出来るが、内側の電子ロック解除にはシステム部社員のIDカードがなければならない。どうしてここだけこんなにセキュリティが高いのだろうか。こんなところにお金をかけるならば、僕の給料をもっと上げるなどの有効利用をすべきだと思う。
 外側の電子ロックを解除して、内側に設置されている内線を持ち上げる。

「管理部三課の小谷主任にここへ来るように言われたものですが」
「あぁ、今行く」

 少し無愛想な内線応対後しばらくして、中から出てきたのはシステム部主任の黒瀬渉。と、IDカードには書かれている。システム部は昼夜休日関係なく仕事が発生するとかで、黒瀬さんもその激務によるものだと思われる疲労をあちこちに抱え込んでいるようだ。特に目の周りのクマが凄い。ちゃんと睡眠を取って欲しいものだ。

「どうも、お待たせ。……ふぅん、君が小谷から良く聞くまったく成長してくれない後輩君か」
「あ、それはきっと別の奴です。僕は成長し続けて困ると言われるほどの逸材ですから」
「それで何度もGSにロックかけられてるのか。俺が入社してから今までで、こんなにロック解除の依頼があったのは君で二人目だ」
「それはどうもどうも」
「褒めてはないけどね。まぁ、いいやIDカード貸てくれる? ロック解除しちゃうからさ」
「あ、はい」

 そういうと黒瀬さんは僕のIDカードを受け取って、システム部内に行ってしまった。IDカード無き今、システム部側はもちろん、入ってきた外側の電子ロックでさえも解除する方法が無い。つまり、閉じ込められている。なんたることだ、これは軟禁にあたるんじゃないだろうか。このままではこれが精神的な苦痛になりトラウマとなって、職務を全うすることが出来なる。その損害と医療費を請求しなくてはならないだろう。請求額は二億円ぐらいが妥当な線か。などと将来のビジョンを考えていると、再び内側の電子ロックが解除され、黒瀬さんが戻ってきた。

「はい。ロック解除しといたから。あと、パスワードだけは初期パスワードに戻ってるから気をつけて」
「了解しました」
「あぁそうだ。一つ、面白い話をしてあげよう。小谷もね、新入社員の時に何度もロック解除の依頼に来てたよ」
「あぁ、やっぱり。あの人そういうところがありますからね」
「まぁ、当時は三日間ログインしないとロックが掛かってたんだけどね」
「あの人、三日坊主だからなぁ」
「ははは。君、なかなか大物になるかもしれないな」
「既に大物な自負があります」
「ま、小谷もいろいろ頑張ってるんだから、あまり迷惑かけないようにしてやれよ。それじゃぁな」
「はい。失礼します」

 ロック解除は無事に終わった。あとは二時間以内に報告書を仕上げればいい。それは楽勝だな、根拠はないけれど。エレベーターホールでエレベーターを確認すると、相変わらず一台は点検中でもう一台は一階に止まっていた。やれやれ、また若さをほとばしらせることになるようだ。



≪/01へ
/03へ≫

スラッシュ/ゲーム - /03 -


ハコニワノベル

  GSのロック解除をしてもらってからきっちり二時間。いや、正確には二時間と十五分後に奇跡的に報告書が承認された。ミッチー先輩から教えてもらった概要を、そのまま報告書に貼りつけて初回のレビュー依頼に出してみたら、物凄い勢いで指摘件数十八件で差し戻された。そこからもそんなやり取りを何度か繰り返すうちに、ミッチー先輩から送られてくる概要が詳細に代わり、最終的にはほとんど報告書の内容になって送られてきた。なので、それを丸々貼り付けるだけで最終的に承認された。やれやれ、最初の方法で間違っていなかったというわけだ。あとはこの報告書を課長へ提出するだけ。そのままGSで報告書を管理部三課の田中課長宛に送信する。
 管理部の仕事は基本的にはそんなに多くない。東公園はKGCが管轄している公園の中で一番小さい公園なので特に仕事量は多くない。ただし、公園内でのトラブル発生時にはすぐに駆けつけて状況把握、事態回復を行わなければならない。住宅街の方にある公園になると夜な夜な若者がたむろしたりするので、トラブルの発生件数が多く休日でも出向く必要があったりする。僕の担当している東公園は、まさに住宅街に隣接しているので、一般業務よりもトラブル対応が仕事の大半を占めている。
 その他には、近隣住人や公園利用者からのクレーム対応などが主な業務内容だ。クレーム対応については、ただ文句を言いたいだけのクレーマー等がいるため、二十四時間対応をするわけにはいかない。クレームへの応対は定時までと決まっていて、定時までにクレームが発生しなければ、基本的に定時退社が可能だ。自慢になるけれど、僕は今まで残業というものを一度もしたことがない。それだけ僕の仕事は完璧だということだろう。ただ、KGCは女性社員が多いため、トラブル対応時にはたくましい男の象徴的な存在である僕が駆り出されることが多い。休日にも関わらず何度も呼び出しを受けるのは、僕の男らしさ故にだろう。
 ふとモニタへ視線を移すと、GSの画面にメッセージの受信を知らせるアイコンが点滅している。きっと報告書の課長承認が出たのだ。紙コップに注いだお湯をすすりつつ、メッセージ本文を表示させる。

「お疲れ。ちょっと私の席まで来てくれる?」

 これはなんということだろうか、GS上だけでは褒め足りないから直接褒めたいとは。それだけ完成度の高い報告書だったのは言わずもがなではある。自席から課長の席へと向かう。

「田中課長、失礼します」
「お、お疲れ」
「お疲れ様です」
「とりあえず、報告書見たよ」
「一生懸命作成した報告書です」
「文章構成が小谷のそれなんだけどね」
「な、なにを仰いますやらルー姉さん」
「職場ではそう呼ばないようにと言っておいたはずだけど?」
「いや、これは失礼しました。課長の麗しさについ口が滑ってしまいまして」
「なら仕方ないか」
「仕方ないですよね」

 田中瑠伊課長。我らが管理部三課のトップだ。面倒見が良くて姉御肌。会社から一歩外に出たら課長と呼ぶことを許さず、ルー姉さんと呼ばせる気さくさを持ち合わせていて、どちらかと言えば男前な気質を持っている人だ。

「仕事は仕事でちゃんとやりなさいと言ってるでしょう。まぁいいや、別にお説教したくて呼んだわけじゃないから」
「となると、何用でしょうか」
「ちょっとお使い頼まれてくれる? 総務部にこの伝票を届けて欲しいのよ」
「いいですけど、この伝票GSでやり取りしないんですか? GSでやり取りすればわざわざ届ける必要もないと思うんですけど」
「そこはあれよ、大人の事情というやつ」
「ほほぉ、こいつは悪巧みの匂いがしますな」
「越後屋、分かっておろうな」
「へっへっへ、お代官様もお人が悪い」
「はい。おふざけはこのあたりにして、早速届けくれたまえ」
「了解しました。それでは早速」
「あぁ、そうだもう一つ」
「なんでしょう」
「それ届け終わったら長谷川のヘルプに行って来て。サイクリングロードのトラブル対応に昼過ぎに出たまま帰って来てなくてね」
「あぁ、分かりました。様子見てきます」
「様子見るだけじゃなくて、ヘルプして来てね」
「かしこまりました」

 やれやれ、仕事が出来る人間と言うのはなんと忙しいことか。しかも難易度の高い仕事を頼まれてしまったな。それもこれも自分と言う逸材のせいだ。この調子で仕事をしていたら主任、課長、部長、そして社長へと最年少就任は間違いない。社長になったらまずは女性社員の作業服をかなりきわどいものにする必要がある。それは男性社員のやる気を奮起させ、その強大なエネルギーはKGCの業績をうなぎのぼりにするだろう。そしてほどなくして、僕は時代を動かした最年少社長などと持ち上げられるわけだ。いやいや、そんな大層なことはしていないですよ。与えられた仕事を真面目にコツコツとこなしていった結果です。
 ふふふ。あ、エレベーターが来た。
  KGCの六階には総務部が入っているが、総務部のあるフロアが実質的なKGCの受付になっていたりする。なので社員は通常、階段で六階へ入らなければならない。もちろんこれは一般社員にのみ該当する決まりであって、部長や社長などのお偉いさんや未来の最年少社長である僕には関係のない話だ。そのままエレベーターはスムーズに六階へ到着した。

「いらっしゃいませ。……って爽太君じゃない。どうしたの?」
「いやぁ、のんさんに会いたくなってしまってつい」
「はっはーん、その伝票を総務部に届けに来たわけね」
「なぜその極秘任務を知っているのだ。さてはスパイ?」
「はいはい、違う違う。ちゃんと階段側の社員用出入口から入りなさいね。今、人少ないみたいだけど誰かはいると思うし」
「はーい」

 KGC総務部の華、野々村杏。KGCに訪れた男性のお客さんのうち、実に六割が口説こうとするほどの女性だ。しかし、実は彼氏がいるという残酷な現実を知っている。その現実を知らない男性諸君が哀れで仕方がない。いや、もしかすると幸せなのかもしれないが。
 階段が設置されている側の廊下中央付近に「STAFF ONLY」と書かれた扉がある。とりあえずノックをしてみたものの返事がない。返事はないが、ここに入らなければ伝票を届けられない。とりあえずもう一度ノックしてから扉を開けた。
 総務部のフロアはパーテーションが各机の島ごとに設置され、一見すると迷路のように見えたり、見えなかったりする。普段はロボットのように電卓を叩いている人がひしめき合っているというのに、のんさんが言っていたように今はやけに人が少ない。いや少ないというより誰もいないように思えるほど静かだ。一つ一つの島を確認しながら、奥へ奥へと進んでいく。しばらく進むと微かに音楽が聞こえてきた。その音楽が聞こえてくる島を覗き込むと、ヘッドフォンを付けた人がいた。

「なんだ、志津バアか」
「んー? 何勝手に入って来てんねん、タノシソウ」
「いやいやノックしたし。あとさ、ヘッドフォン刺さってないよ」
「おお、通りで音が聞こえへんと思ったわ」
「で、何聞いてるの?」
「Youtube観てただけやで?」
「いや仕事しようぜ、志津バア」
「タノシソウにだけは言われたないわ」
「それと、相変わらず僕をポケモンみたいな呼び方するのやめて欲しいな。これでも両親が冗談半分で名付けてくれた名前に、愛着ってものがあるんだからさ」
「タノシソウ、君に決めた! ってか」
「なんでやねん」
「……あー、ちゃうちゃう。もっとビシッとツッコミ入れなあかんで。せっかくのボケが台無しやんか」
「もう痴呆が始まったのか」
「そやでぇ、朝起きて着替えて化粧して、会社に到着したら化粧したかどうか忘れてしもうてな、化粧したかしてないかで迷うぐらいなら、もう一回ちゃんと化粧しとこうと思ってな、こうシワを伸ばして、シワを伸ばしてファンデ塗りこんでな、鏡見たら化物が映っとってん。って誰が化物やねん!」
「ノリツッコミのノリが長すぎると思う」
「今のはちょっとくどかったなぁ。反省しとくわ。で、タノシソウは何しにここに来たんよ?」
「いやね、この伝票を届けてくれって哀願されたものだからさ」
「伝票? あぁ田中の小娘のか。了解了解、ほな受け取っとくわな」
「あのさ、今日はなんでこんなに誰もいないの?」
「あぁ、もうすぐ年末やろ。だから皆で年末処理してるんちゃうかな」
「ちゃうかなって、志津バアは一緒にやらなくていいの?」
「アタシを誰だと思ってんねん」
「妖怪」
「そそ、溶解する妖怪やでぇ……ってアホ!」
「つまりサボってると」
「あんまり失礼な口聞いてると痛い目見るで? 例えばなぜか今月の給料が半分になってたりしてな。それからなぜかボーナスが支給されなかったりするかもしれんで?」
「志津お姉さんは、若手に仕事の経験を積ませてあげてるんですよね」
「そういうわっかりやすいおべんちゃらいらんわ」
「くそう、このお局様め」
「アタシはこの会社で一番の古株、社長ですら恐れおののく存在。アタシを恐れてないのは田中の小娘と、企画部の近重。それからタノシソウぐらいだわな」
「まぁ、僕にとって恐れるようなものは何もないですよ。なにせ未来の最年少社長になるような超新星だもの」
「ふーん。どうでもいいけど、用が済んだならはよ出て行ってな。アタシも忙しいんやで」
「動画見てると他のこと出来ないしねぇ。まぁとりあえず伝票よろしく」
「まかせとき」

 そう言いながらヘッドフォンをPCに差し込み、志津バアはモニタを食い入るように見入ってしまった。彼女は総務部、いやKGCのお局様である大河内志津。この会社の中で最年長で古株だ。実際は役職に付いていない平社員のはずなのに、なぜか総務部の部長よりも権力を握っている。筋の通らないことが大嫌いで、筋が通っていることには寛容という分かりやすい性格をしている。けれど、その如何ともし難いキャラクターのおかげで、ほとんど全ての社員から恐れられている。これはあくまで風の噂ではあるけれど、志津バアに筋が通らないことをした数名の社員の給料が、なぜか十分の一しか支給されなかった怪現象が起こったことがあるらしい。所詮、風の噂だ。
 さてと、お次は長谷川さんのヘルプだったっけ。この時期に川沿いに出向くのはなかなかに厳しい。コートを取りに戻って、暖かいミルクティーを飲んで一息入れてから西川サイクリングロードへ向かおう。仕事の出来る男は忙しいのだ。



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 案の定外は寒い。もうすぐ日も落ちてくるの時間帯なので余計に寒い。西川はオフィス街を縫うように流れる川で、北にある上坂川から分かれた支流の一つだ。最終的に上坂川に合流するので、西川の向こう側は巨大な中洲状になっている。この西川沿いにはKGCが管轄している西川サイクリングロードという、自転車専用路が作られている。歩行者用の通路も付いていて自転車側はエンジ色、歩行者側は緑色に色分けされ、白線で境界線が引かれている。サイクリングロードという名前になってはいるが、どちらかと言えば歩行者の方が多い。定間隔にベンチと花壇が設置されているので、分類上は公園とみなされている。ここの管轄も我らが管理部三課だ。
 この西川サイクリングロードには名物というか、有名人が一人いる。それが管理部三課の長谷川琉々。確か入社四年目と言っていた。一般的に天然とカテゴライズされる人物で、いわゆるムードメーカーでありトラブルメーカーでもある。彼女がこの西川サイクリングロードの担当で、毎朝通行人一人一人に挨拶をしている。だがそれだけで有名人になるわけではない。彼女はひとつひとつの草花にも挨拶を欠かさない。さらには全ての草花に名前まで付けて可愛がっているのだと言う。その会話ぶりがあまりにも本気なので、この西川サイクリングロードに出没する妖精とまで呼ばれるほどの有名人だ。
 その妖精さんが昼過ぎにトラブル対応に出かけてから戻ってきていないということは、トラブル対応中にトラブルメーカーぶりを遺憾なく発揮して、トラブルを拡大させているのだろう。西川サイクリングロードは人の行き来が多いので、自然とトラブル発生件数は多い。通路上に出てみると、少し離れた場所に長谷川さんの後ろ姿と、なにやら言い争いをしている二人を発見した。

「だから、歩行者側を歩いてないおっさんが悪いんだろうがよ」
「なんだその言葉遣いは。こっちは君のせいで怪我しているんだぞ」
「怪我っていってもほんの少し擦りむいてるだけじゃねーかよ」
「あ、あの。その、すいません」
「なんだよオバサン」
「オバ、オバサンじゃないです。長谷川です」
「あんたの名前なんか聞いてねーよ」
「あ、あの。すいません」
「なんであんたが謝ってるんだよ。謝るのはそっちのおっさんだろ」
「なんで怪我させられた私が謝らなきゃいけないんだ。君の方が謝るべきだろう」
「あ、あの、だから……もぅ! 足をそんな所に置いたら、ジェシカちゃんが! ジェシカちゃんが!」
「は?」

 後ろから観察してみるに、どうやら自転車と歩行者の接触事故らしい。その言い争いをしているところに長谷川さんがやってきたと言うわけだ。しかも昼過ぎから二時間半、この言い争いはまったく解決に向かっていないらしい。その言い争いを抑えることもせず、長谷川さんが必至に訴えているのは、自転車の若者が足を置いている花壇の黄色い花――、ジェシカちゃんの方が気になっているらしい。

「何訳の分からないこと言ってんだよ。もういいよ、俺はもう行くから」
「待ちなさい。君、ちゃんと私に謝ったらどうだ」
「うるせーよ、ハゲ」
「ハゲとはなんだ、ハゲとは! 君、いいかげんにしたまえ」
「ジェシカちゃん大丈夫? ジェシカちゃん、すぐに助けてあげるからね」
「ハゲにハゲって言って悪いのかよ」
「目上の人に対する言葉遣いがなっていないな君は。親御さんに連絡するから連絡先を言いたまえ」
「はっ、うぜぇ」
「あの、ちょっと。本当に足、どけてもらえませんか? ジェシカちゃんがさっきから苦しがってます」

 見ている分には物凄く楽しいけれど、このままだとあの二人掴み合ったり、下手をすれば手を出すかもしれない。そうなると益々面倒なことになってしまうので、ここはさっさと事態を収集してしまうに限る。

「お取り込み中失礼いたします」
「あ、爽太君。お疲れ様」
「誰だよお前」
「私はこの西川サイクリングロードの公園管理を行っておりますKGCの者です。双方に言い分はあると思いますが、このままここで言い争いをされますと、他の通行者の方に迷惑になりますので、そこのベンチまで移動をお願い出来ますでしょうか」
「ジェシカちゃん、やっと助けてあげられるよ。うんうん、後でちゃんとお水あげるから待っててね」
「はい、長谷川さんもベンチの方に行きましょう」

 こういう場合に、大抵落ち着いて冷静な態度を取ると相手側は素直に従ってくれることが多い。命令するのではなく、お願いをするのがポイントだ。あと、オドオドしてはいけない。これぐらいのトラブル対応などわけはない。普段、東公園で起こるトラブルに比べれば程度の軽いトラブルだろう。

「私はこの若造に自転車でぶつけられたんだ。ほら見ろ、怪我だってしてるんだぞ」
「なるほど」
「ちょっと待てよ、そこのおっさんが自転車側の道にフラついて入って来るのが悪いんだよ」
「歩行者を優先するのが当たり前だろう」
「だからって自転車側に急に倒れて来たんじゃねーか」
「あの、一つ確認させて頂きたいのですが、自転車通行路を歩いていたのは間違いないですか?」
「そ、それは間違いない。けれども、歩行者が常に優先されるのは常識でしょう。まったく最近の若者は常識が通用しないから困る」
「だから、俺はあんたにぶつかってねーし。勝手に転んだだけじゃねーかよ。怪我だって転んで出来たんだろ? 自業自得じゃねーか」
「いや、その、それは、その……。そ、それでもだな、歩行者は優先されなくちゃいけないんだ。後ろから物凄い勢いで走ってくるのが悪いんだ」
「あ、ちょっとよろしいでしょうか。その件なんですけども、道路交通法第六十三条の四第二項にですね、歩道内に自転車の通行すべき部分が指定されている場合、歩行者はこの部分をできるだけ避けて通行するように努めなければなりません。という記述があるんです。このサイクリングロードでは、この白線で自転車と歩行者の通行部分が指定されているので、歩行者の方はできるだけ避けるというのが一般的なルールになります」
「おっさんの方が常識が無ぇんじゃねーかよ」
「いや、そんな、まさか。あっれぇ、おかしいな。はは、ははは」
「それはそれとして、君も相手に対して暴言を言い過ぎるのは良くないと思いますよ。冷静に説明すれば、こちらの方もすぐに納得されて、自分の非を認めて下さったと思います。このまま言い争いを続けられるようであれば、警察へ連絡する決まりになっているのですが、まだ言い争い続けられますか?」
「はぁ? 警察とか面倒くせーわ」
「わ、私も警察はちょっと」
「なら、お互いに一言詫びておしまいにしましょう。こんなことでこれ以上時間を費やすのも勿体無いですし」
「チッ、分かったよ。……すいませんでした」
「私も意固地になってたようだ、すまなかった」
「はい、ではお二人ともお気を付けてお帰り下さいませ」

 若者は大きなため息を吐き捨てて自転車で行ってしまい、中年の男性はバツの悪そうな顔で「なんか、すいませんでした」と何度も頭を下げて帰っていった。やれやれ、携帯電話で「道路交通法、自転車」のワードで検索をかけて、一番先頭に出てきた内容をしゃべるという高等技術が、事態収拾に役立ったというわけだ。
 長谷川さんは話してる最中から妖精の国ワンダーランドにでも行ってしまったかのように、終始うわの空で適当に相槌をうっていて、二人が帰ったあとに「あ、ジェシカちゃんにお水あげる約束してるんだった」とか言いながらどこかへ行ってしまった。たぶん水やりの準備をしに行ったのだと思われる。妖精さんは大忙しなのである。
 携帯電話で時間を確認すると定時まで一時間を切っていた。ベンチに腰掛けて西川を眺めながら、定時五分前に自席に到着するよう緻密な計算を行ってから自社へと戻った。



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 勤怠入力を三分で完了し、定時を知らせるメロディと同時に席を立った。鮮やかな帰宅である。それにしても今日もまた過酷な激務だった。気を抜けば命をも奪われかねない危険と、常に隣合わせのような緊張感があった。ということにしておく。
 KGCを出てオフィス街を東へ向かう。最寄り駅でもある地下鉄の上坂中公園前駅を横目に、駅前の商店街へ入る。目に映るほとんどの店が、赤や緑、それから白に彩られている。赤い服を着た白ヒゲのお年寄りが描かれたポスターを目にして、これらがクリスマスを迎えるにあたって彩られたものだということに気がついた。名探偵も驚くほどの推理力だろう。「犯人はフィンランド人だ!」心の中で決め台詞を叫んでおいた。特に意味はない。
 都合のいい時だけキリスト教なふりをする店や客をすり抜けて、商店街の奥へと進んで行く。中華料理屋がクリスマスチキンという名前で唐揚げを予約販売しようとしていて、ここもクリスマスに染められているかと思えば、正月用に焼豚の予約は如何かと張り紙をしていた。この中華料理屋、なかなかに抜け目がない。おもちゃ屋の入っている家電屋のビルには、クリスマスプレゼントを買い求める魑魅魍魎のような大人たちが際限なく飲み込まれて行く。
 それらの荒波に飲まれないように進んでいくと、やっと商店街の反対側にある大通りへ抜けた。道路を挟んだ向かい側に、普段良く行くスーパーが見える。この時間帯に行けば惣菜や刺身なのどのタイムセールが始まる頃合だ。しかし、このタイミングで行くのは素人だけである。ここから更に二時間半後、閉店三十分前の最終タイムセールを待てば最大で七割引という底値が付く。まぁ、今日は惣菜を買う予定はないので立ち寄ることはないのだけれど。
 スーパーを横目に大通りを進み、交差点を越えた所で左に曲がるとコンビニが見える。更にそのコンビニを越えると月六万八千円という家賃を払い、賃貸契約を結んだ借家が見えてくる。要するに普通の賃貸マンションだ。その五階の一室が僕の暮らす部屋だ。ちなみにマンションの裏側には、集合住宅に囲まれた小さな公園があり、その公園の名前は上坂東公園という。そう、僕の担当する公園だ。明日は当番の仕事をしてから会社へ向かうように努力はしてみようと思う。
 マンションのエントランスで郵便受けを確認すると何も入っていなかった。普段はアダルトチックな広告や、前の住人宛の郵便物などが少なからず入っているというのに。郵便屋さん、たまには僕への密かな想いが赤裸々に綴られたラブレターなんかも入れては如何か。入れようにもこの郵便受けに入りきらないだろうから、大変だろうけれど。
 エレベーターで五階へ移動し、自室の玄関扉に鍵を差し込んで回した。妙だ。解錠の時の引っ掛かりがない。これはつまり既に鍵が開いている状態だということで、ここから考えられる可能性は三つ。一つ目はそもそも鍵をかけずに出掛けてしまった。二つ目は激務の疲れで解錠の引っ掛かりが分からなかった。そうでもなければ三つ目、既に何者かが中にいるということだろう。無駄にシリアスを装って中を伺うように扉を開いた。

「お帰りなさいませ、……この下僕野郎」
「あー、違うぞ。それは違うぞ静香」
「何が? あんたが言えって言うてたやんか」
「いや、そうなんだけどね。僕が言って欲しいのは、『お帰りなさいませ、ご主人様』なんだけどなぁ」
「なんでうちがあんたより身分が低いねん。おかしいやろそれ」
「いや、まぁいいけどさ」
「それよりも、ただいまやろ? それと手洗い、うがい」
「はい、ただいま」
「さっさと手洗ってうがいしなよ」
「はいはい」

 玄関先で仁王立ちしているこの子は、七ノ宮静香。背は低いけれど芯の通ったその姿は、まるで女神のように美しいと言っておこう。静香は僕の彼女――ではなく、ただの婚約者だ。ここらで一番大きな神社である七福神宮に仕える宮司の娘で、来年の春に高校を卒業する。つまり現在十八歳。頭脳明晰、容姿端麗、料理上手で大和撫子。と初対面の人には紹介するように強要されている。実際は、いや、これ以上語ると命に関わるかも知れないので辞めておく。
 彼女は物心付いた頃から弓道をたしなみ、小学生から高校三年までの間に、大会という大会で優勝を総なめしているほど、弓の名手である。七福神宮で正月に行われる式典では、巫女の格好をした静香が、その年の福を願って的を射るのが見られる。ちなみにその式典で的を外したことは一度もない。第三者といる時は、大和撫子という言葉にぴったりの凛とした女の子に見えたりもする。そうでない時はさっきのような感じで、とても裏表のはっきりした可愛い子である。婚約者になった経緯は――長くなるので割愛しよう。

「今日来るって言ってたっけ?」
「言うてへん。ちょっと気になることがあったんよ」
「へぇ、珍しいね。そんな時でもいつもは携帯に連絡よこせ的なメールくれるだけなのに」
「ちょっと事が大きそうやから、この目で確かめとこうと思ってな」
「もしかして、僕が浮気とかしてるんじゃないかと思ってヤキモチ妬いちゃったとか?」
「アホか」
「心配しなくても、僕は静香だけを愛してるよ」
「ま、真顔で冗談言うなや」
「僕はいつでも本気だけどね。まぁいいや、それで気になることって何?」
「……多分やで、多分あんたの近くで誰か死ぬ」
「それはまた物騒だね」
「一人や二人じゃないと思うねん。はっきりとは見えへんかったけど、間違いないと思う」
「そっか。で、その対象に僕は含まれてたりするのかな?」
「それを確かめに来たんやけどな。うーん。なんとも言えへんなぁ」
「じゃ、気にするのおしまい。お腹すいたんだけど、晩御飯何?」
「あんた、うちに料理させるつもりなんか? うちはもう帰るで。あんたの顔も見たことだし」
「相変わらず素っ気ないのね」
「とにかく、気を付けや。変なもんに不用意に足突っ込んだらあかんで?」
「僕が何でも足を突っ込むようなマヌケに見える?」
「見えへんな」
「なら、安心じゃない」
「あんたは何でも頭から突っ込むような奴や」
「あら、大変」
「ほな、せいぜい死なんように用心しい」
「はいはい。あ、夜道に一人で危なくない? 送るよ」
「いらん。あんたとおる方が危ないわ。ほなね」

 それだけ言い残すと静香は帰っていった。矢袋と矢筒を持っていたので、きっと部活帰りに寄ったのだろう。それにしてもだ、たまに未来が見えるとか変なオカルト趣味を持っているからって、そんなに自慢しなくてもいいと思う。それと僕たちは婚約者なんだから、もう少し可愛らしく振舞ってもらいたいものだ。そうだ、このままやられっぱなしなのはしゃくなので、少しイタズラをしてあげよう。ベランダに移動してエントランスから出て行く静香が見えるのを待つ。しばらくしてマンションから出て行く静香の姿が見えた。

「静香、愛してる……っつ」

 叫んだ瞬間、右頬を何かがかすめた。振り向くと、一本の矢が窓のサッシに突き刺さっている。しかも丁寧に矢文付きだ。矢文には「うるさい、黙っとけ」と殴り書きされていた。殴り書きでも無駄に達筆である。僕が叫ぶことを予見して、矢文をくれるだなんて可愛いじゃないか。もしかして、どこかに小さく「愛してる」などと書いていないかと、くまなく調べてみたが無駄に終わった。



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スラッシュ/ゲーム - /06 -


ハコニワノベル

 携帯電話のアラームを自信満々に止めてから二度寝をしたおかげで、随分と目覚めがスッキリしている。相変わらずの寒さではあるけれど、健やかな気持ちになる。顔を洗い、朝食のトースト二枚をかじりつつ、コーヒーを入れる。そんな素敵な朝食風景を邪魔するように、アラームを止めたはずの携帯電話がなにやらうるさい。どうやら着信のようだ。

「はい、もしもし」
「爽太、今あんたどこにいるのかしら」
「え、あ、ミッチー先輩。おはよーっす」
「おはよーっす。じゃないわよ。今、何時か分かってる? 遅刻してるんじゃないわよ」
「えー、やだなー。今、東公園の清掃してるところですよ。ほら、僕当番ですし」
「ふぅん、そうなんだ。じゃぁ今、東公園に誰か人はいる?」
「え? あ、あー、いないですね」
「そっか。おかしわね、私が今いる場所が東公園なんだけど?」
「えー、そうなんですかー? ちょっとここからだと見えないですね」

 トーストをコーヒーで流し込み、いつもの作業服に着替えて東公園へ走る。そこには昨日よりも禍々しいオーラを身に纏ったミッチー先輩がいた。まさか本当に東公園にいるとは驚きである。ミッチー先輩の家はKGCの社ビルを中心に、正反対の位置にあると言うのに。やれやれ、そこまでして会いたいと思わせるとは、僕はなんとも罪な男だ。

「ミッチー先輩、おはよーっす」
「何が清掃してるところなのよ」
「まぁまぁ、細かいことに目くじら立てるとシワになりますよ」
「細かくないでしょ!」
「まぁまぁ。とにかくほら、清掃しちゃいましょー」
「ったく、あんたは調子良すぎるのよ」

 東公園にはベンチが三つ、滑り台に砂場、ブランコに鉄棒があるだけの小さな公園だ。両サイドをマンションに挟まれていて、道路に面した部分には低木が植えられている。レンガで作られた通路が道路側の入り口から反対側へと作られている。近隣住人の散歩コース、子どもたちの遊び場や若者たちの溜まり場と、時間の経過に合わせてメインの利用者が変わっていく。住宅街の中にあるために、街灯はあまり多くない。
 規模は小さくても一人で清掃をしようと思うとそれなりに時間がかかる。今日は二人で清掃なので、そんなに時間はかからなかった。その代わり清掃中に、どこかの子どもが忘れたと思われるカラーボールが一つ出てきた。公園中央にある街灯に取り付けられた網袋にボールを入れておく。この網袋は子どもの忘れ物を一時的に入れておくもので、子どもやその親御さんには好評を得ている。ちなみにミッチー先輩が発案者だ。

「ミッチー先輩は彼氏とかいないんですか?」
「ちょ、へ? あ、あー、えーとね。……って何で私がそんなことに答えないといけないのよ」
「いや、子どもたちのことを考えてあの網袋を設置したりしてるから、子どもが好きなのかなーと思って」
「そりゃ、子どもは好きだけどね。あの網袋はさ、私が子どもの頃にあったらいいなぁと思ってたものの一つだよ」
「公園でおもちゃとか失くしてたんですか?」
「子どもの頃って一つのことにしか集中出来ないからねー。それにおもちゃとか自分の所有物を紛失するショックって、大人より子どもの方が絶対に大きいから、もしかしたら網袋に入ってるかもしれない、っていうちょっとした希望みたいなのを持たせてあげたくてさ」
「ミッチー先輩なら、いいお母さんになれそうですね」
「さっきから何よ、煽てても何も出ないからね」
「いや別にそういう意味じゃないですよ」
「それじゃぁ、どんな意味が……え、もしかしてそう言うこと?」
「あの、何か物凄く大きな勘違いしてません?」
「いや、あんたをそういう目で見たことないからさ……もう少し、考えさせて」

 ロクに目も合わさないままにミッチー先輩は清掃が終わると足早にKGCへ向かってしまった。これはどうやら面倒なことになってしまった気がする。あの仕事に一直線で、ミスおひとりさまに選出されそうな勢いのミッチー先輩が、大きな勘違いをしていると思われる。やれやれ、人の話は最後まで聞くべきだろう。僕は煽ててランチをご馳走してもらおうと思っていただけなのに。
 各遊具の点検をしつつ、東公園をぐるりと一回りしてからなるべくゆっくり時間をかけてKGCへ向かう。いつもの緻密な計算でいくと、今からゆっくりと向かえば、到着と同時にランチタイムが始まるはずだ。

「爽太君、おはよう。あのね、昨日はジェシカちゃんを助けてくれてありがとう」

 KGCに到着するなり長谷川さんにお礼を言われた。きっと昨日の西川サイクリングロードの件だろう。勘違いはして欲しくないけれど、僕はジェシカちゃんを助けた訳ではない。ただトラブル対応をしただけだ。なので、ジェシカちゃんの件でお礼を言われるのは筋違いということだ。これはきちんと言っておかなければならないな。

「別にお礼を言われるようなことはしてないですよ」
「そんなことないよ。ジェシカちゃん、すっごく助かったって言ってたから」
「あ、そうですか。うん、まぁ、よろしく言っておいてくださいよ。その、ジェシカちゃんに」
「うん。今度他のお友達も紹介するね」
「あー、ほんと? 嬉しいな。うん、また今度ね。今度」

 どうも妖精さんと会話をするとペースが握れない。お礼の件はもうこのまま放っておくのが良さそうだ。あまり細かい話をしても、全てワンダーランドの会話になってしまうだろう。それとなく長谷川さんを受け流しつつ、自席の方へと移動する途中でミッチー先輩と軽く目が合ったのだが、妙に分かりやすく逸らされてしまった。やれやれ、事態はそれとなく深刻だ。これはあまり悠長にしていると困ったことに成りかねない。右往左往するミッチー先輩を眺めるのはとても楽しいけれど、この場合は楽しんでる場合じゃない。
 僕は意を決してミッチー先輩の元へ移動した。

「ミッチー先輩、一緒にお昼行きません?」
「ちょ、あんた! あの、だから、少し考えさせてと……」
「うーん、少しでも時間を空けるとあまりよろしく無いと思うんですよ」
「いやでも、うーん。あ、そうだ。他の子も呼んでもいいよね」

 そう言うと携帯電話で数人に電話をかけ始め、電話が終わったかと思えば「さ、さぁ、行きましょう」と、ミッチー先輩は勝手に出かけてしまった。



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スラッシュ/ゲーム - /07 -


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 先に出たミッチー先輩を追いかけると、丁度閉まりかけのエレベーターが見えた。その扉に滑り込むと案の定、閉まるボタンを連打しているミッチー先輩がいた。

「何してるんですか?」
「いや、貴重なお昼休みは一分一秒も無駄には出来ないでしょ。あ、ちょっと、あんまり近づかないでよ」
「別に近づいてませんよ。普通にエレベーターに乗ってるだけじゃないですか」
「いや、うん。そうだけど」
「で、行き先階のボタンは押さなくていいんですか? さっきからずっと二階で止まったままなんですけど」
「ち、ちょうど今から押そうと思ってたとこ!」

 無駄に力の入った指先で一階のボタンが押され、やっとエレベーターは下へ。それにしても勘違いだけでここまで錯乱状態になるとは、ミッチー先輩は色恋沙汰が随分とご無沙汰なのだろう。しかしそうであるならば余計に、今の状態がただの勘違いであると言うことを理解してもらわないと、ますます面倒なことになってしまう。今からのランチでなんとか誤解が解けるといいのだが。
 あっという間にエレベーターは一階に到着し、慌てて飛び出していくミッチー先輩を追いかける。これじゃぁまるで鬼ごっこだ。そうまでして急がないと、貴重な昼休みとやらは満喫できないのだろうか。そうであったとしても、僕としてはゆったりと過ごしたい。出来たら午後の始業時間に十五分ほど遅れて自席に戻るぐらいで丁度いい。
 前を小走りしているミッチー先輩は、 KGCに隣接した建物に入っていった。看板には上坂植物園と書かれている。ここはKGCが管轄している二つの有料公園の二つ目になる。入場料は五百円で、オフィス街のど真ん中にあるため、利用客は近隣の会社員がそのほとんどを占める。都会ではなかなかお目にかかれない植物を多数見ることが出来るので、昼休みや定時後などはそれなりに客足はある。しかし、ここには飲食施設はない。ミッチー先輩は草食動物だったのだろうか。

「あれ、美知恵じゃない。どうしたの?」
「あ、菜子お疲れ。チコちゃんいる? ランチの約束してるんだけど」
「智子と? なーんで智子は誘って私は誘わないのよ」
「いや、ちょっと慌ててさ。何なら菜子も一緒にどう?」
「いいよ気を使わなくても。それに残念ながら今日は昼の店番だから行けないし」
「そっか。じゃぁ、また今度一緒にランチしよう」
「でもさー、後ろの彼と一緒にランチじゃないの? 智子ならもうすぐ出てくると思うけどさ」
「えっ、か、彼なんかじゃないから! まだ、彼じゃないから!」
「美知恵、何慌ててんの? あっやしいなぁ」
「違う違う、ほんとに違うから! まだそんなんじゃないし」

 ネームプレートを見るに秋山菜子という人らしい。話しぶりを伺うに、ミッチー先輩と同期なのだろう。有料公園で接客をしているということは、運営部サービス課に所属している人だ。サービス課のみ支給されている制服を着ている点からも間違いないだろう。ミッチー先輩に比べると、柔軟な考えを持っている人なのだろう。その後二人のやり取りは「お待たせしました」という声で収まった。

「智子、なんか美知恵な、そこにいる後輩のことが気になってるらしいぞ」
「ちょ、そんなんじゃないから……。チコちゃんお疲れ。さ、行こっか」
「あ、はい」

 今度はまた可愛らしい子が出てきた。サービス課の制服の上にコートを羽織っているので、この子もサービス課に所属しているのだろう。ネームプレートを見ることが出来ないのでフルネームは分からないが、クラスの中にいる活発な感じの女の子だ。

「この人が、さっき美知恵先輩が言ってた人ですか?」
「いやー、うん、そうなんだけどね」
「はじめまして。私、中居智子と言います」
「あぁ、これはどうもご丁寧に。僕はミッチー先輩の直属の部下で、百年に一度の逸材と言われている男です」
「はぁ……」
「あぁ、チコちゃん。ごめんね、こいつ基本的に意味不明だから。爽太って言うんだ、適当に流しておいて」
「分かりました」

 基本的に意味不明という失礼極まりない紹介をされたものの、僕という人間がいかに素晴らしいのかを説明しようと思えば昼休みで収まらないので辞めておく。智子なのにチコと呼ばれているのは、ミッチー先輩が初対面時に読み間違えたことがきっかけらしい。本人にしてみれば迷惑だろうと思うのだが、智子さんは嫌な顔一つしていない。出来た女性は素晴らしいものだ。

「真樹と朋美は上坂駅で待ち合わせしてるんで、ちょっと歩きますけどいいですか?」
「僕はどこでも構わないですよ。ミッチー先輩がいいなら」
「じゃ、上坂駅に向かおっか」

  KGCから南へ信号を二つ渡り、ドラッグストアのある角を曲がると飲食店が数多く並ぶ通りに出る。そこを直進して交差点を三つ超えると上坂駅前公園が見える。大きな遊歩道とその脇に流れる水路があり、遊具はないが大きくて雰囲気の良い公園である。管理部二課が管轄している公園でもある。
 その公園脇をしばらく進むと上坂駅だ。昼時ということもあり、駅へ出入りする人は多くはないものの、待ち合わせをしているらしい人の姿があちらこちらに伺える。その中の女の子二人組がこちらに向かって手を振っているのが見えた。

「小谷先輩、お疲れさまです」
「お疲れさまでーす」
「二人とも急に呼び出してごめんね。えーと、樹ちゃんは清掃終わり?」
「はい。駅前公園は広いので、三人がかりで昼までかかるんですよね」
「いや、三人で昼までに終われば十分だよ。こっちはKGCで一番狭い公園に二人がかりで昼までかかったし」
「あの、そこの彼がさっき言われてた相談したいことですかー?」
「う、うん。そうなんだけどね。そ、そう言えば朋ちゃんはなんで上坂駅に?」
「午前中に銀行に用があって、電話もらった時ちょうど銀行から出てきたところだったんですよ。そしたら何やら浮いた話の相談って言うじゃないですか。仕事一筋な先輩からのそんな相談、乗らない訳に行きませんからねー。でもてっきり先輩だけ来ると思ってたんですけど……、その相談したい相手本人を連れて来るなんて。もしかして、寿退社的な相談ですかー?」
「朋ちゃん、違うから。ほんとに違うから。こいつ……爽太が勝手に着いてきただけだから」
「もう名前で呼んでるんですかー。これは益々楽しいランチになりそうですね」
「ともちゃん、あまり茶化しちゃダメだよ。はじめまして、私は原口真樹。この子は福田朋美」
「私と智子と真樹は同期なんだよー。新人の時に先輩に面倒みてもらってたんだ」
「それはそれは、残念でしたね。みなさんの残念な気持ち、僕は現在進行形で感じてます」
「なんで残念になるのよ! あんたの教育しなきゃいけない私の方が残念でしょ!」
「いやいや、これはこれは仲のよろしいことで」
「秋山先輩も美知恵先輩が気になってる人だって言ってたよ」
「ちょっとチコちゃん、サラっと変な情報を出さないで」
「私もすごく興味あるし、さっさとお店に入りましょうか」
「樹ちゃん? もしかしてこの状況を物凄く楽しんでる?」
「もちろんです」
「私も楽しんでますよー」
「もちろん私もです」

 なぜか小声で「相談する相手を間違えた」とか呟いてるミッチー先輩を引きずるように、女性四名、男性一名という僕に相応しいグループで駅前にあるイタリアンレストランへと移動した。パスタの種類が豊富で小さめのピザもなかなか美味しい女性に人気の店だ。ある程度の予感はしていたけれど、尋問と言う名のランチタイムが始まる。



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スラッシュ/ゲーム - /08 -


ハコニワノベル

「それで、付き合ってどれぐらいなんですかー?」
「どっちから告白を?」
「美知恵先輩ってこういうほっとけない男性がタイプだったんですね」
「……あ、あぅ」

 三人の後輩から質問攻めにされて、ミッチー先輩が回答もままならないまま押し切られている。こんなに珍しい光景は滅多に見られるものではないので、食後のコーヒーを飲みながらじっくりと眺めていたい。けれど、この状況はミッチー先輩の大きな勘違いによるものだと言うことを、はっきりさせておく必要がある。

「付き合うも何も、僕らはまだ何も始まってないですよ」
「えー、と言うことはもしかして、今日告白した系ですか」
「リアルタイムなんですね」
「で、告白は爽太君から?」
「僕は別にそう言うことを言ったつもりはなく……」
「じゃぁ、小谷先輩から! ?」
「私じゃなくてぇ」
「どっちからかはっきりして下さい」
「どちらにせよ、告白した側もされた側もこの場にいると言うことは、答えは決まってるようなものですね」

 やれやれ、うふふだのキャッキャと楽しそうにおしゃべりする三人組だ。ミッチー先輩も押されっぱなしで役に立たない。さっきから「あぅ」とか「いやぁ」しか発言していない。いつものようにキッパリと発言して欲しいものだ。

「これでお二人が付き合うとしたら、私たちが知っている社内カップルは二組目だね」
「あー、そうか。そうだなー」
「社内恋愛だといろいろ大変だと思いますけど、そこがまた燃えますよねぇ」
「ちなみに、一組目のカップルは誰と誰なんですか?」
「知らないの? 有名なのになー」
「ほんとほんと。女性社員だったらほとんどの人は知ってると思いますよ」
「あの二人もお似合いカップルですよねぇ」
「いや、だから誰なんですか、その有名な社内カップルっていうのは」
「システム部の黒瀬さんと、総務部の野々村さんだよー」
「部署が違うから、一緒にいると目立つもんね」
「でも最近ギクシャクしてるとか聞いたけど、どうなんだろうねぇ」
「へぇ、黒瀬さんがのんさんの彼氏だったんだ」
「わ、私知らなかった……。黒瀬、彼女いたんだ」
「あれ? 小谷先輩も黒瀬さん狙ってたんですかー? 私、最初は小谷先輩が黒瀬さんの彼女だと思ってたのにー」
「あ、私もそう思ってた」
「私も私も」
「いや、それは無いでしょう。黒瀬さんはミッチー先輩に苦労かけられたとか言われてましたし」
「そんなに迷惑なんてかけてないわよ」
「あらあら爽太君、ヤキモチ妬かなくてもいいのよー」
「必死に否定してる小谷先輩、可愛い」
「お二人も負けないぐらいお似合いだと思いますよ」
「いやぁ、そのぉ」
「いや、だからそもそもそういう事を……」
「とにかく社内恋愛は目立つので、公私混同していると思われないようにすれば、周りの理解も得やすいと思いますよ」
「そうだね。二人とも同じ部で、特に上司と部下っていう関係だから、すぐに目立っちゃうと思う。だから気を付けないと」
「でもでも! その上司と部下っていうのが、いいよねぇ」
『ほんとほんと!』

 勝手に話は進んでしまう。特にこちらから何かを話しているわけでもないのに、全員が全員勘違いしたままだ。勘違い四人と正常者一人では分が悪いというものだろう。それに、ここまで勝手に話を進めているものを根本から覆すと、今までの経験上、女性陣に一斉射撃を食らわせられることに成りかねない。終礼で「爽太君が小谷さんをいじめました。爽太君は謝って下さい」などと関係のない女子から言われ、その他の女子もまるで示し合わせたかのように「謝りなさいよ」とか言ってくる。大抵の場合、謝らせたいだけで謝られる本人はそれを望んでいない。そこに大きなズレがあることに気が付いていない女性が多い。きっと今も同じような状況になるのは目に見えている。それならば逆に話を進めてしまう方法もあるな。

「先輩方の意見はとても参考になりました。僕はこれからもミッチー先輩を、いや美知恵さんを守っていきます」
「おぉ、頼もしい発言だー」
「私もそんなこと言われてみたいな」
「美知恵先輩、良かったですね」
「あのぉ、えっとぉ」
「それじゃ、そろそろ昼休みも終わってしまいますし、会社に戻りましょうか」
「ちぇ、もっといろいろ聞きたいのになー」
「朋美、少しは空気読みなさいよ」
「そうそう。私たち、先に帰りますね」
「あ、そうか。じゃ、お二人は一緒に戻って下さいね」
「余計なことまで言わなくていいの」
「また何かあったら相談して下さいね」
「ちょ、ちょっとぉ」
「やれやれ、行ってしまいましたね。騒がしい三人組だなぁ、まったく」
「そ、それでもね、やっぱり返事は待ってくれない? もう少し、今度はきちんと自分だけでちゃんと考えるから。ちゃんと考えてから返事するから!」
「いやいや、そもそもですね、僕はミッチー先輩に告白なんてしてないじゃないですか。それを勝手に告白されたと勘違いしているから、今回みたいな騒ぎになってしまってるんですよ。分かりますか? そもそも僕がミッチー先輩を好きになるはず無いんですよね。タイプじゃないというか、あまり合わないと思うんですよ。ほら、ミッチー先輩って仕事中はS寄りですけど、プライベートは真逆のドMじゃないですか。僕はどちらかと言えばですね、ドSな女性が好きなんですよ。そのドSな女性を屈服させていくのが楽しい……って聞いてますか?」

 振り向くと誰も居なかった。どうやらミッチー先輩は僕の話も聞かずに会社へ戻って行ってしまったらしい。やれやれだなと店を出ようとすると店員に呼び止められた。何か忘れ物でもしたのかと思えば、五人分の食事代を請求された。おいおい、僕はランチをご馳走になりたくてミッチー先輩を煽てたと言うのに、ご馳走されないばかりか五人分の食事代を払わせられることになるとは、とんだ計算外だ。よくよく思い返してみれば、三人組が先に出るときに「いろんな意味でご馳走様でした」とか言っていたのはこういう事だったのだろう。なかなかにやるではないか。あまり褒めたくは無いけれど。
 ミッチー先輩を煽ててもロクなことにならないことが、ここに実証されたわけだ。これからは煽てる人をきちんと見極めるようにするとしよう。
 店を出ると肌寒いものの、日差しが暖かくてどこかに行きたくなった。しかし、会社に戻ればニュースサイトのフィードをチェックするという激務が待っているし、僕という存在がいないと仕事が回らない。そうなると沢山の人が路頭に迷うことになってしまう。未だに不況だと騒がれているこのご時世に、回すだけの仕事があると言うことは素晴らしいことだ。その仕事を回すのに絶対的に必要な人材が、このままどこかに行ってしまっては大問題になってしまう。きっと社内だけの騒ぎで収まらず、そのうち新聞沙汰になってしまう。見出しには「敏腕会社員、昼休みに五人分の食事代支払い後に行方不明」なんて書かれてしまう。翌日のワイドショーは僕の話でもちきりになってしまうんじゃないだろうか。やれやれ、仕事が出来すぎるというのも、困ったものだ。
 来た道を戻りつつ、途中で本屋に立ち寄ったりしながら、仕事の出来る僕は会社へと戻った。



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スラッシュ/ゲーム - /09 -


ハコニワノベル

「爽太、ちょっと戻ってくるの遅くない?」
「えっ、その時計ちょっと進んでるんじゃないですか? 田中課長」
「そう言うことにしといてあげてもいいけどね」
「そう言うことなんですよ絶対」
「あぁそうだ、あんたちょっとこれから始まる会議に参加してくれない? 本当は小谷にお願いするつもりだったんだけど、小谷どうも調子悪そうでさ。話しかけても上の空なんだよ」
「ランチの食べ過ぎとかじゃないですかね。誰か心の優しい人にご馳走になって、気兼ねなくもりもり食べたとかですよきっと。それで僕は、会議に参加して何を発言すればいいんですか?」
「いやいや、私も参加するんだけど、別に何か発言する必要は無いよ。議事録を作ってくれればいいだけだから」
「あーなるほど。うーん、参加したいのは山々なんですけど、僕は僕で忙しくてですね」
「お前の文章力向上のチャンスだと思って、ここは参加しとこうか爽太。それに仕事が出来る奴は会議の議事録ぐらい余裕だろ?」
「それはそうですよ。僕ぐらい仕事が出来るようになると、議事録ぐらい寝ながら作れますよ」
「おし、じゃぁ五分後に企画部のミーティングスペースに行くから準備しといてくれ」
「了解しました」

 やれやれ、自席に付くまでもなく仕事を依頼されてしまった。これも仕事が出来る僕だからこそだろう。しかし、課長も僕を会議に参加させるとは、僕の仕事ぶりから昇進を考えているに違いない。企画部のミーティングスペースで行われる会議ということは、かなり重要度の高い会議なのだろう。
 そう言えば、上の空になっているらしいミッチー先輩の姿は見えなかった。まったく、仕事は沢山あると言うのにどこをほっつき歩いているのだろうか。僕のような優秀な部下がいたから事なきを得たとはいえ、社会人として見習えない醜態だ。そもそも、ランチを人にご馳走させておいてお礼も言わないとは、いかにレディーファースト精神を持つ、紳士中の紳士である僕でも憤りを覚えてしまう。やれやれ、今度豪華なディナーをご馳走になる必要があるな。
 自席に戻ってから、とあるゲームの攻略サイトをプリントアウトするときに、用紙設定をミスして大量に印刷ミスをしてしまった裏紙を再利用したメモと、三色ボールペンを準備する。会議に参加するからには、筆記用具は必須だろう。それからキャビネットの一番上の引き出しからのど飴を二つ、携帯電話がポケットに入っていることを確認してから、紙コップにお湯を注いで一息入れる。「爽太、行くぞー」という田中課長の呼び掛けで立ち上がって、企画部の入っている三階のミーティングスペースへ移動した。

「あれ、じゅじゅさんじゃないですか」
「なんで爽太がいるんだよ、ルティ」
「あー悪い悪い、今日はこいつに議事録作ってもらおうと思ってさ」
「ふーん。おい爽太、邪魔だけはすんなよ」
「僕は常に誰の邪魔にもなりませんけどね」
「あと、何度も言ってるけどな、私のことをじゅじゅと呼んでいいのは私の母さんだけなんだよ」
「じゅじゅの珍妙な冒険ですね」
「あー、こいつメンドくせぇなぁ。もういいや始めるか」

 近重純、企画部一課の課長。田中課長と同期で、雰囲気はバリバリのキャリアウーマン。田中課長に連れられて行ったバーで偶然出会って、気が付いたら泥酔した二人をタクシーに放り込んだ経験がある。二人ともお酒を水か空気のように飲むので、最後は泥のように眠ってしまって介抱が大変だ。そんな経験が何度かあり、酔うと自分で「私のことはじゅじゅと呼べ。じゅじゅの珍妙な冒険だ」とか強要するくせに、素面の時はその記憶がないのだから幸せな人だ。いきなり服を脱ぎ出して下着姿で踊ったこともある。これでKGCで一番仕事が出来ると言われているのだから、世の中は面白おかしく出来ているようだ。
 企業ビル屋上に小さな公園を作るという企画は、じゅじゅさんが立案し一気に二箇所で実際に導入された。オフィス街に新たに公園を造るのは、土地などの問題で容易くなく、KGCの管轄エリア内では、もう公園は作れないと誰もが判断していた中で、企業ビルの屋上に公園を造るという企画を打ち出し実績に結びつけたのだから、この人は社内で半ば超人的な評判になっている。あの志津バアに「アタシを恐れてないのは田中の小娘と、企画部の近重」と言わしめるだけの存在ではある。

「ごめんなさい、ちょっと遅れたかしら」
「森本部長、もう先に始めようとしてましたよ」
「ちょっと現場応対があってね。あら、見かけない子ね」
「管理部三課の爽太と言います。今日は完璧な議事録を作るため、会議に参加させていただきます」
「本当は小谷に頼もうと思ってたんですけど、ちょっと体調不良みたいでして。こいつは小谷の部下です」
「それでは議事録はお願いしますね。それから、管理部の山尾部長は?」
「毎度のことで申し訳ないんですが……」
「あぁ、そういうことね。企画部の鈴木部長は営業中でしたね。それでは、近重さん始めて下さい」

 この人は森本麻里子。運営部の部長で、黒柳徹子のような髪型をしているので社員からはマリモと呼ばれている。徹底した接客教育で、KGCのサービス課のイメージ向上を長年行っている人だ。ちなみに、KGCの女性で初じめて部長になった人だ。田中課長もじゅじゅさんも実は部長職を狙っているので、二人とも森本部長を尊敬しているし、いつか肩を並べたいと思っているらしい。ただ酔っ払った二人が話してくれた内容なので、真偽の程は測りかねる。

「上坂噴水公園に巨大なクリスマスツリーを置こうと思ってます。上坂に新たなクリスマススポットを作って、寒い季節に客足が遠のく上坂噴水公園に、新たな客を呼び込む目玉を作るという企画です」
「なるほど、しかし今から準備してクリスマスに間に合いますか?」
「モミの木搬入に一週間、デコレーションに丸一日。トータルで八日間あれば可能なので、二十三日中には設置可能です」
「ギリギリだなぁ。ちなみにその設置までの作業はどこの部から駆り出すつもり?」
「管理部から四十名ほど」
「半分以上かぁ、それはちょっと厳しいなぁ」
「近重さん、ちょっと納期がギリギリ過ぎて現実的じゃないですね。準備期間中も噴水公園は通常営業だとすると、クリスマスツリーの準備は深夜になってしまいます。管理部から駆り出された方は通常業務後に、徹夜状態で準備するんですか?」
「やっぱり無理ですかね。出来れば今年のクリスマスに実施して、期間限定のイベントによる集客の統計データを取りたいんですよ。季節ごとにイベントを実施して、効果的に集客出来るような体制にしたいなと」
「それは分かりますが、ちょっと急過ぎます。仮に準備をするとしても集客を行うなら、準備と並行で告知もするのでしょう? そうなると準備が間に合わなかった時のリスクが大きすぎます」
「それに、うちの部の社員四十人に残業を承諾してもらうのは厳しいよ」
「クリスマスツリーじゃなくても、クリスマススポットに出来る何かが作れればいいんだけどなぁ」
「あの、噴水公園の中央大噴水の放水パターンって制御出来たりするんですか?」
「議事録係が急に何を言い出してるんだよ」
「まぁまぁ近重さん。茶化さずに話は最後まで聞くものですよ。えぇと、爽太さん、でしたね。中央大噴水の件ですが、制御出きますよ。基本は時間経過によって六パターンを順番に切り替えていますが、任意のパターンに変更することが出きます」
「一番水が高く上がるパターンで固定して、それをツリーに見立ててライトアップすれば、クリスマスツリーに見えなくもないなと思いついたんですよ」
「噴水をツリーに見立てる……。あー、企画屋としては認めるのはとても悔しいが、その案頂くぞ爽太」
「じゅじゅさんの手柄にしておいていいですよ」
「お前に恩なんか売り付けられる日が来るとは、世も末だな」

 僕の素晴らしい思いつきのおかげで、上坂噴水公園のクリスマススポットにはライトアップされた噴水のクリスマスツリーが、二十三日から二十五日まで期間限定で設置されることになった。流石、仕事が出来る男は違う。議事録作成のために参加した会議で、新企画のアイディア出しまでしてしまう。まぁ、議事録は一切取っていなかったので、田中課長からお説教されたりしたことは秘密にしておこう。



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スラッシュ/ゲーム - /10 -


ハコニワノベル

 上坂噴水公園の噴水ライトアップによるクリスマスツリーの設営作業は、なぜか立案者だからと言う理由で僕を含む三課のメンバーで行うことになった。通常業務終了後に噴水公園に移動して、照明器具の設置や大噴水のある中央広場の清掃をする。残業を今までしたことのない優秀な僕が、ここ三日間ずっと残業をこなしている。
 三課のメンバーは田中課長にミッチー先輩、妖精さんでもある長谷川さんと入社三年目になる三好と高畑という男が二人。それから今回の新企画を立案した僕の六人だ。三好は毎日スポーツジムに通い、合コンと聞けばどんな時でも参加するという典型的な肉食系。髪の毛も茶髪でチャラチャラしている印象がある。仕事は事なかれ主義で、面倒な仕事は全て僕に回してくるような奴だ。僕はその仕事を長谷川さんに回している。もう一人の高畑は、あまり目立った発言はなくメガネの理系男だ。三好との対比で草食系と言える。この二人は同期で仲が良く、さらに管理部部長の山尾という男に取り入っているのか、いつもランチにはこの三人で行くことが多い。
 この山尾という男、なぜ部長職に就けたのかが分からない。管理部の社員数は七十五人とKGCで一番多く、その管理者には責任力と指導力が求められると言うのに、山尾にはどちらも欠片ほどもない。仕事は基本的に各課長任せ。出社後にどこかへ姿を消し、昼前に戻ってきたかと思えばランチに行き、その後戻ってくるのは夕方になってからだ。どうも男性社員を自分の配下に付けたがるようで、僕が入社してからも散々言い寄ってきたことがある。僕は男には興味が湧かないので、いつも適当にあしらっているうちになぜか嫌がらせを受けるようになり、それすらもあしらっていると今度は相手にもされなくなった。女性社員にセクハラ紛いのことをし、男性社員を引き連れて猿山の大将を気取るような奴を慕う意味はない。なぜこんな男が部長職に就けたのか、永遠の謎と言ってもいいほどである。
 ライトアップの準備を三課のみで行うことが決まったのは、山尾を通して仕事を依頼するとまともな人選をしないし、セクハラやパワハラ紛いのことが多発して迅速な仕事にならないから。という理由もあると田中課長は言っていた。それは正しい判断だったと思う。だったと思うけれど、準備二日目から三好と高畑が何かと理由を付けて来なくなってしまい、唯一の男手である僕の仕事量が格段に増えてるのが頂けない。三好は「どうしても外せない用事がある」高畑に至っては「呼気を口から吐き出す際に、つぼめた唇などの口腔の器官に強く息の空気の束を当てることにより、乱気流を発生させ、空気の振動、すなわちノイズを発生させる。その練習が……」とか意味不明なことを呟いていた。ただ、この二人が山尾に相談しに行ったのを知っているので、明らかなサボリだろう。僕としても残業は遠慮させて頂きたいところだけれど、普段あまり入ることのない噴水公園にこうして毎日入れるのは嫌じゃなかった。どうせあの二人がいても仕事量はそんなに変わらない。

「お、甲斐甲斐しく働いてるじゃねーか、爽太」
「じゅじゅさん、何しに来たんですか? あ、もちろん設営の手伝いですよね」
「それはお前の仕事だろ。ほらこれ差し入れ」
「差し入れってコンビニの肉まんじゃないですか。どうせなら商店街の中華料理屋に売ってる本場の肉まんの方が……」
「じゃ、これ要らないよな」
「いただきます」
「ほんとお前は素直じゃねーよな」
「純粋だから思ったことがそのまま出ちゃうだけですよ」
「純粋ってのは、私みたいな出来た人のことを言うんだよ」
「流石、名前が純粋の純ってだけはありますね」
「だろー?」
「親御さんは、純粋になって欲しいという願いを込めて名付けて下さったのに……。思ったとおりにいかないのもまた人生ですよねぇ」
「どういう意味だよ」

 僕への差し入れだったはずの肉まんは、なぜかじゅじゅさんに半分ほど食べられた。「ま、頑張ってくれたまえ」とか言いながらじゅじゅさんは帰って行った。まったく、何をしにきたんだあの人は。
 その後も設営作業を続け、二十二時半を過ぎたところで上がることになった。

「お疲れ様」
「あ、ミッチー先輩。ちぃーっす」
「あのさ、悪かったね」
「何の話ですか? あ、分かったこの前のランチ代の……」
「会議、代わりに出てもらっちゃってさ」
「あー、そっちの話ですか。別に大したことないですよ。僕みたいに仕事出来る奴は何でも出来ちゃいますから」
「そうだねぇ。私が会議に出ても議事録しか作れなかっただけだと思う」
「普通の人はみんなそうですよ」
「うん……。私さ、本当は企画部に入りたかったんだ。公園に来たみんなが幸せになれるような、そんな企画をバンバン出せる近重さんみたいになりたかった。今回の企画、あんたが立案したんだってね」
「ただの素晴らしい思いつきですけどね」
「それでも私には思いつけないと思う。純粋に凄いなぁって思うよ。なんか、私には企画屋にはなれない気がしちゃったな」
「何しんみりしちゃってるんですか、ミッチー先輩らしくない。ほ、ほらあの網袋! あれなんて素敵な企画だと思いますよ!」
「ははは。ありがとう。爽太に元気付けられるようになるとは思ってもみなかったや。あんたってさ、誰もが出来て当たり前のことはすっぽかしたりするのに、誰も出来ないようなことは簡単にやって退けたりするよね」
「なんですか、急に褒めたりして気持ち悪い。そういうの死亡フラグって言いません? この戦争が終わったら彼女と結婚するんだ! みたいな奴ですよそれ」
「何よそれ。この残業が終わったら爽太と付き合うんだ! とか? ……っば、バカじゃないの! 何言ってるのよ!」
「いやいやいや、僕じゃなくてミッチー先輩が勝手に……」
「ととと、とにかくお疲れ! あ、明日遅刻するんじゃないわよ!」

 突然ミッチー先輩は走り去ってしまった。明日は土曜日で休みだと言うのに、何を言っているのだろう。最近元気がなくなっていたミッチー先輩だったけれど、あのダッシュを見る限りどうやら元気になったようだ。良かった良かった。「そう言えば何で元気がなくなっていたんだっけ?」独り言を呟いてみたけれど、明確に思い出せなかった。疲れているからだろうし、きっと思い出せないぐらい些細なことだったと思う。
 上坂噴水公園はオフィス街にある巨大な有料公園で、大噴水を中央に扇上にカスケードが広がり、中央広場から一直線にキャナルが続く。キャナルにも小さな噴水が等間隔に設置されていて、キャナルの両側には通路、更にその外側には花壇と低木。そのまた更に外側からは芝生になっていて、その芝生を囲むように木が植えられている。その木で出来た囲いの六ヶ所に門が設置され、正門以外の五つの門の先にはそれぞれ小さな公園に続いている。小さな公園それぞれにテーマの違う噴水が設置されていて、オフィス街にある公園にしてはかなり巨大な公園だ。入場料が二百円とお手頃価格のため利用客も多く、平日休日を問わず様々な人が訪れる。特に祝日には無料開放を行っているため、利用客が格段に多くなるオフィス街のオアシスだ。
 正門から噴水公園を出ると、お腹が空いていることに気が付いた。じゅじゅさんが肉まんを半分奪ったせいもある。帰ってから準備するのも面倒なので、適当に目についた定食屋に立ち寄って晩御飯にした。焼肉定食、ご飯お味噌汁お代わりし放題で六百三十円也。



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