POSITISM

適度に適当に。

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FARFALLA - 24 -


ハコニワノベル

「こんなの、本当に飛ぶのか?」
「飛ぶよ。人は乗れないけど宇宙まで飛ぶ……計算」
「はー、ノロマなミツルの計算じゃ飛ばないんじゃないか?」
「手伝ってくれるのはありがたいんだけど、生意気言うのやめてくれよコメタ」
「あー? このコメタ様が手伝ってやってるんだから、ありがたく思えよ」
「コメタだめよ、そんなこと言っちゃ」
「いいよクローチェ。本当にありがたいと思ってるからさ」
「クローチェ姉ちゃん、最近ミツルに優しくし過ぎじゃない? あ、もしかして……」
「ちょ、ちょっとコメタ! な、なに訳の解らないことを……」
「あれあれ? もしかして図星だったりする?」
「いいかげんにしなさい!」
「怖っ!」
「待ちなさい、コメタ!」

 コメタとクローチェはそのままどこかに走って行ってしまった。あの二人は本当の姉弟のように仲が良い。

「ヒヒヒ、若いってのはいいもんだ」
「ビランチャさん、おはようございます。あの、起こしちゃいました?」
「いや、年寄りは早起きするもんだ」
「え、いつもはもっと遅く起きてません?」
「あー、細かいことはどうでもいい。それよりお前さん、それどうする気だ?」
「いや、集落のみんなにロケット作りを知ってもらおうかなと」
「あいつらにか、ヒヒヒ。ロックだねぇ」
「あの、こいつを飛ばすために燃料が欲しいんですけど……」
「おぅ、好きなだけ持ってけ。だけどな、あっちの作業も忘れるなよぉ」

 ビランチャさんがそう言いながら指差した方向には、巨大なロケットの部品が転がっている。そのロケットこそ、フィオーレに戻るためのロケットだ。

「解ってます。ちゃんと空き時間でやりますから」
「それならいいぞぉ。あぁ、それからな、あのカワイコちゃん、お前さんに惚れてるなぁ」
「え? クローチェのことですか? うーん、それはないでしょ」
「ヒヒヒ、男は何時の世も鈍感だなぁ」

 気味悪く笑いながらビランチャさんは作業場へ行ってしまった。変なことを言われたものの、目の前の小さなロケットを作ることに専念する。気が付けば毎朝の砂浜十往復も早く走り終わるようになり、クローチェと朝食を作るまでの間に、この小さなロケットを作るようになった。それが日課になってから三ヶ月、毎日コツコツと準備を進めた小さなロケットは組み上げと打ち上げを残すのみになった。

「小さなロケットを打ち上げます。是非見に来て下さい」

 集落のみんなにそう声をかけて、ロケットの組み上げをする。見物に来た人に手伝ってもらいながらロケットを組み上げていく。組み上げるのに一週間かかってしまったけれど、チキューで作る最初のロケット「ブレッザ」は完成した。大きさは十六メートルほど、四段切り離しで宇宙へ飛んでいく計算だ。




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25へ≫
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FARFALLA - 25 -


ハコニワノベル

「5、4、3、2、1……0! 発射!」

 発射台に選んだ高台に組み上げられたブレッザは、風を起こしながらゆっくりと浮かんでいく。「おぉー」という驚きや歓声の中に「すげー!」というコメタの声も聞こえた。ブレッザは大量の煙を出しながら徐々に高度と速度を上げていく。それなりに離れていても轟音と風圧を感じたかと思うと、ブレッザは一気に空を昇って行った。風を切り、雲をかき分け、空へ。機体が太陽に照らされてキラキラと輝いている。その光はしばらくすると空の中に吸い込まれて消えていった。

「ほ、本当に飛びやがった!」

 コメタの一言で静まり返っていた見物に来ていた集落のみんなから歓声が上がった。

「すごいな、ロケットって」
「あのロケット、ミツルが作ったんだって?」
「昔はあんなのをどんどん飛ばしてたんだよな」
「宇宙ってどんなところなのかしら」
「少しだけしか手伝ってないけど、ロケット面白いな」
「人を乗せるロケットになると、あれの何倍も大きいんだろ?」

 いろんな人から話しかけられる。打ち上げが成功したのも嬉しいけれど、みんなにロケットの良さや、宇宙へ飛び立つことが無理なことじゃないということを知ってもらえたのが嬉しかった。そんな安心感と達成感を感じたところで意識が無くなった。

「ミツル? どうしたの……ちょっと、ミツル! ミツル!」

 気が付いたらベッドの上だった。チキューにやってきて最初に気を失った時と同じ光景だ。ここはクローチェの家だ。少し頭が痛いけれど、それ以外は調子が良い。辺りを見回しても誰もいないので、ベッドから起き上がろうとした。

「あ、ミツル! 良かった気が付いて」
「クローチェ、おはよう。あまり覚えていないんだけど、ブレッザはちゃんと飛んだよね? あれ、夢じゃないよね?」
「うん。ちゃんと飛んだ。夢じゃないよ。そのすぐ後でミツルが倒れちゃって心配したんだから。二日間眠りっぱなしだったんだよ?」
「そうか、二日も寝てたんだ。心配かけてごめん」
「寝る時間削ってロケット作ったりしてたでしょう? ちゃんと休んでねって言ってたのに」
「ごめん、ごめん。どうしても早く作ってみんなにロケットの良さを知って欲しかったんだよ」

 クローチェは少し怒ってるように見えた。しばらくして「もう無茶はしないでよ?」とだけ言うと部屋から出て行った。気を取り直して起き上がろうとすると身体が上手く動かない。どうやら本当に身体を酷使していたらしい。なんとか上半身だけ起こすと料理を持ってクローチェが再び部屋に入って来た。

「起き上がって大丈夫?」
「うん、しっかり寝たし大丈夫、大丈夫」
「じゃぁ、ご飯しっかり食べてね」

 差し出されたスプーンを掴もうとしたら、上手く掴めずに落としてしまった。

「あれ?」
「やっぱりまだ動ける状態じゃないのよ」
「いや、大丈夫だって」
「ダーメ。しばらくは休養すること。身体壊したら元も子もないんだから」
「いや、でも、あまり時間もないし……」
「返事は! ?」
「は、はい。わ、解りました」
「解ればよろしい」

 今までに見たクローチェの中で一番怖かった。そのまま、その勢いで僕は休養することになってしまい、しかも食事はクローチェが食べさせてくれるという。流石に最初は拒否したものの、スプーンすら上手く掴めなくなっている僕に拒否権はなく、クローチェに食べさせてもらうことにもなってしまった。

「はい。熱くない?」
「うん、熱く無いよ」
「はい。……どうかな、美味しい?」
「心配しなくても、クローチェの料理はどれも美味しいって」
「良かった」
「あ! ビランチャさんにしばらく休養するって言わないと!」
「私が言っておきます」
「あ、うん、じゃぁよろしくお願いします」
「ちゃんと治るまで休養してもらいますからね」
「解った、解ったから、その怒らないで。その、クローチェってさ、怒ると怖いんだね」
「どれだけ心配したと思ってるの? 本当に反省してる?」
「してます、してます。反省だけじゃなくて感謝もしてます」
「ふふふ。ならいいけど」
「あれ? これいつもの飲み物と違うね」
「あ、胡麻麦茶っていうの。身体が弱ってるときとか飲むんだ」
「へぇ」

 ふいに、クローチェが下を向いてしまった。

「クローチェ? どうしたの?」
「ミツルは、ロケットが完成したらフィオーレに帰っちゃうの?」
「うん。だけど、フィオーレにいるテラと一緒にもう一度チキューに来るよ。それに、行き来が出来るんだからいつだって遊びに来れるよ」
「そっか。そうだよね」

 彼女はそう言うと、またいつものようにほほ笑んでくれた。




≪24へ
26へ≫

FARFALLA - 26 -


ハコニワノベル

 結局、クローチェから完治した承認が下りたのは一週間後だった。起き上がるのも、食事も以前のように出来るように戻った。そしてそのままビランチャさんの所へ向かうと、僕は目を丸くした。集落のみんながそこで作業をしていたからだ。その中央にビランチャさんがいて的確に指示を出している。

「おぉ、ミツル! もう身体は良くなったのか?」
「えぇ、おかげ様で。というかみんななんでここにいるの?」
「お前さんがあのロケット打ち上げた次の日から、次から次へと手伝わせてくれとか言いやがる奴が増えてよぉ、気が付いたらこの有様だわぃ」
「じゃぁ、みんな手伝ってくれるんですか! ?」
「バカヤロウ、お前さんがカワイコちゃんとイチャイチャしてる間も、ワシらはお前さんのためにロケット作ってたんだぞぉ」
「まぁ、あのじいさんは指示しかしてないけどな」
「そ、それじゃぁ、みんな……」
「おぅ、手伝うぞ。お前がお前の星に行くのをな」
「あ、ありがとうございます!」

 集落のみんなが手伝ってくれることになってから加速度的にロケット作成は進んでいる。
 ある日、毎日が暑いことに気が付いた。「チキューの空調管理はどうなっているのか?」という疑問を聞いて見たら笑われて、これはナツと呼ばれるチキュー自体が設定しているらしい。相変わらずチキューはすごい。そのナツの間中、木々が生い茂っている場所からはセミと呼ばれる生き物が鳴いていて、ビランチャさんが「蝉時雨か、一週間のロックだねぇ、ヒヒヒ」とか笑っていた。

 それから半年が過ぎ去った。テラやカプリコルさん、ヴェルネさん達は元気にしているだろうか。ついでにカンクロとペーシも。
 ロケットは順調に作成されているものの、やっと三分の一が完成したぐらいだろうか。人を乗せてチキューを飛び立つのはなかなか簡単にはいかない。秒速11.2キロメートルで飛び続けなければ、このチキューの重力に負けて宇宙にすら飛び立てない。半年前に作った「ブレッザ」は小型とはいえ、地球の重力を振り切ったのかと思うと今更ながらに感心してしまう。チキューのロケット技術は明らかにフィオーレより上だ。
 その日の夜、クローチェから「星を観に行かない?」と誘われたので、夜になってから丘の上にある昔は宿泊施設として機能していたらしい建物へ行くことになった。大きくて錆び付いている風車が夜風でゆっくりと回っているものの、建物自体は廃墟と呼ばれているほどにあちこちが痛んでいる。クローチェに連れられてその建物の最上階にある部屋のベランダへ出た。

「おー、すごい。星がたくさん見えるね」
「ここら辺じゃ、この建物が一番高い場所だからね。集落の灯りも邪魔しないから、星を観るのには最適なんだよ」
「ほんと、良く見えるよ」
「ねぇ、ミツル」
「ん? なにクローチェ」
「ミツルの誕生日っていつ?」
「誕生日? それって自分が生まれた日のことだよね?」
「うん」
「知らないんだよね。親の顔だって見たことないし、フィオーレではそれが当り前のことなんだけどさ」
「そっか。……それじゃぁ、こういうのはどうかな。今日は一年前にミツルがチキューにやって来た日。だから今日がミツルのチキューに来た記念日」
「あー、そっか。もう一年経っちゃったんだ。ということはチキュージン歴一歳ってことかな」
「ふふふ。ミツル、チキュージン歴一歳のお誕生日おめでとう」
「ありがとう、クローチェ」

 そんなやり取りをしていると、ふいに辺りが明るくなった。夜なのにかなり明るく感じる。

「あ! すごい! ファルファッラが見えるよ」
「ファルファッラ?」
「ほら、あれだよ! あれ」

 クローチェが指差す方向に浮かぶ無限を表す記号「∞」に似た巨大な星。他の星と比べてもその大きさは尋常じゃない。今までチキューで過ごして来て一度も見れなかったのはなぜだろう。そう言えばテラは「ファルファッラ」へ行こうしたと言っていた。その途中に「ルーナ」という星の話もしてた気がする。頭の中で星の位置関係を思い描く、電気のような感覚と共に閃いた。それと同時にファルファッラは姿を消してしまった。

「そうか、こういうことだったんだ!」
「ミツル、どうしたの?」
「あのさ、クローチェ。ファルファッラについて知ってること教えてくれない?」
「え?、う、うん。あのね、ファルファッラは普段は良く見えないの。こんなにはっきり見えたのは、ミツルがチキューにやって来るより前だったと思う。たまにしか見えない星だから、ファルファッラを見た次の日は良いことがあるってみんな思ってるの。夜でもあんなに明るくしてくれるからね。あとは、ファルファッラっていうのは人類の古い言葉で―――を表すということぐらいかな、私が知ってるのは」
「普段は見えない……か、間違いなさそうだ」
「あ、あと、これは私がかってに子供っぽいことを思ってるだけなんだけど……、ファルファッラにはまだ人類の生き残りがいて、いつかあそこから誰かが訪れたら素敵だなぁ。なんて……」
「いるよ」
「え?」
「あそこに人類はいる」
「どういうこと?」
「あれは、ファルファッラじゃなくて、フィオーレ。僕が住んでた星だよ」




≪25へ
27へ≫

FARFALLA - 27 -


ハコニワノベル

「ビランチャさん! 起きて下さい!」
「ちょっとミツル、もう夜遅いから、明日出直しましょう」
「あぁん? お前さんこんな夜更けになんの用だよぉ」
「ちょっと教えて欲しいんです」
「ロケットのことなら、また明日なぁ」
「ね、明日でいいじゃない。帰りましょう、ミツル」
「ビランチャさん、ロケットじゃなくて、ファルファッラのことなんです」
「あーん?」

 不機嫌そうに身体を起こすビランチャさんに、チキューでファルファッラと呼ばれている星がフィオーレだと言うことを話した。ビランチャさんは古びたカップにコーヒーを注いで飲み、僕の話を聞き終わると口を開いた。

「ワシもあれは星ではないと考えてる。つまりお前さんがやって来たフィオーレっちゅうのは、星というより巨大な衛星だな?」
「そうですね。フィオーレの裏側は太陽電池パネルで覆われていて、常にそのパネル側を太陽に向けてエネルギーを得ているんです。前に一度だけフィオーレからチキューが見えた時、かなり急速に角度を変えていたんです。それからチキューとフィオーレの間には穴の開いた白い星、多分ルーナという星があったので、その位置関係を考えるとあの無限のような形も納得できます」
「つまり、チキューの影とルーナの影によって、お前さんの星であるフィオーレの形があの形に見えとるわけか」
「はい」
「なるほどなぁ。まぁ、お前さんが燃料なしのロケットでチキューに辿り着いてるからよぉ、フィオーレっちゅーのはチキューの重力が影響する範囲にあると思ってたんだよぉ。それでもルーナしかないと考えてたけどよぉ。でも今の話で行くと、フィオーレっちゅー所は人の目で目視出来る距離にチキューもルーナもあるってことだから、納得出来る話しだわなぁ」

 ビランチャさんは古びたカップをテーブルに置くと、懐かしむように話を始めた。

「人類はなぁ、星を二つ滅ぼした。一つは青い星、もう一つは黄色い星。これはチキューとルーナのことなんだよぉ。最初の最初はな、人類はみんなこのチキューで暮らしてた。他の動物よりも高度な文明をもってたから天敵なんていなかくてよぉ。だけどな、文明を発展させることに注力し過ぎて、気が付いたらチキューの環境破壊が止められない段階になった。必死にチキューを元に戻そうとする奴らもいたが、一部の奴らはチキューを捨てて別の星に移住しようと考えた。それでその一部の奴らは一番近いルーナへ移住したんだよぉ。それで終わればいいんだけどよぉ、人類ってのは欲深くて浅はかな生き物でなぁ、チキューで暮らしてる奴らとルーナで暮らしている奴らで妙な対抗意識を持ちだすんだわ。それが次第に戦争に変わってしまう。でもなぁ、ルーナはチキューの四分の一しかないからよぉ、強力な兵器で攻撃されたら勝ち目が無い。だからルーナの奴らは、その戦争に勝つ為だけに、植物を死滅させる菌だとか、オゾン層を破壊するミサイルだとかいろいろ言われてて正確には何かは解らんが、とにかくチキューの環境破壊を加速させる兵器をチキューに対して使ったのよぉ。それまで武力行使が行われなかった戦争で、それが最初に使われてなぁ」
「酷い。同じ人類なのに……」
「それに怒ったチキューのやつらは、何も考えずに巨大なロケットをルーナにぶつけたのよ。古い物語の中で出てきた星を貫く槍をモチーフにしたそのロケットは、グングニルと呼ばれてなぁ、その一撃でルーナには穴が開いた。でも、砕けたルーナが星屑になってチキューに沢山降り注いでしまってな、それが原因でチキューも滅びた。……という話を昔ワシのじいさんから聞いたことがある」
「僕が教えられた歴史と随分違いますね。青い星……つまりチキューの環境破壊による温暖化でチキュー上の氷が溶けて大地が水没。その後も続く温暖化で大量の水が気化することによる急激な寒冷化で生き物が住めない星になって、人類は滅亡しないために黄色い星へ移住。その黄色い星で、権力争いから戦争に発展して黄色い星も滅んだ。黄色い星のコアを使って新たに人類が生活する環境が作られた、それがフィオーレだと」
「今の話、両方とも変な話じゃない? だって、ビランチャさんの話もミツルの話もチキューは滅んでることになってるけれど、私達はチキューで今もこうして暮らしてるじゃない」
「ヒヒヒ、それはなぁ。チキューは滅ばなかったのよぉ。もちろん沢山死んじまったけど、全員じゃない。生き残ったワシらの先祖が必死に生きてきたおかげでワシらは、今日も生きてる訳だよぉ」
「それと、少なくともルーナに人は移住していたんでしょうね。その生き残りがフィオーレを作った。……あれ? その話はかなり昔の話ですよね? フィオーレを管理している会社の社長が、自分はチキュージンだとか言ってたのはなんでだろう」
「もしかするとだけどよぉ、そいつはフィオーレに後から辿り着いたのかも知れんなぁ。一昔前なら、今よりもロケットを定期的に打ち上げてた時代だしのぉ。それに、ほれ、お前さんがフィオーレに残してきた娘っ子も、チキュージンなんだろぉ? ここ以外にもロケットを作って打ち上げてるロックな奴らがいるってことよぉ」
「そうか、ここ以外にもチキューには沢山の人がいるのか。それにロケットがあればフィオーレに辿り着くのは別に難しい話じゃない。テラだってチキューからやって来たんだし。だから、僕らが知らないぐらいの、数十年前に、あの社長はフィオーレに辿り着いたのかも知れない」
「一昔前はなぁ、ルーナで生き残ってる人を助けよう。人類はもう一度チキューで生きていこう。そんなことを本気で望んで、本気で取り組んでいたんだよぉ。けどな、次第にみんな諦めちまって、今じゃここらでロケットを作ろうとしてるのはワシぐらいになってたんだよぉ。そんな時に、お前さんが落っこちてきやがった。しかも、気が付けば集落の奴らまで巻き込んじまってよぉ、どえらいロックンローラーだよぉ、ヒヒヒ」
「ビランチャさん、チキューとルーナの距離で通信って出来ますか?」
「あん? そりゃアンテナありゃ出来るよぉ」
「じゃぁ、ルーナとフィオーレでも出来ますよね?」
「お前さん、また何かどえらいロックンロールかます気だなぁ? ヒヒヒ」

 ロケットを作る理由。それはもちろん、テラを迎えに行ってチキューへ送ること。それともう一つの理由が僕の中で、この日の夜に出来た。




≪26へ
28へ≫

FARFALLA - 28 -


ハコニワノベル

「くっそー、負けたぁ!」
「ノロマに追いつけない気分はどう? コメタ」
「だぁー、解ったよ! もうノロマなんて呼ばないって」
「これでやっとノロマから解放された。なんとかフィオーレに帰る前に間に合ったよ」
「ちぇ、これでもうミツルに何も勝てなくなっちまった」
「ま、年齢差もあるしね。コメタが僕ぐらいになるころには、また追い抜かれてると思うよ」
「慰められても嬉しかねーよ。あーあ、ついに負けたー、悔しいな。チキュー最速を破ったんだから、向こうで誰にも負けるなよな」
「ははは、頑張るよ」

 毎日のトレーニングのおかげなのか、やっとチキューの重力に自分の身体が対応したのか解らないけれど、僕は集落の誰よりも早く走れるようになった。
 ファルファッラがフィオーレだと気付いてから一年後、ロケットは完成した。今は打ち上げに向けて組み上げ作業が進んでいる。出来上がったロケットはビランチャさんに「もっと発光ダイオード付けて、ロックにしろ」とか言われるがまま、かなりの電飾で彩られていて無駄にピカピカと光る仕様になってしまった。ピカピカ光る衛星アンテナを、羽のように取り付けた奇抜なロケット。名前はFARFALLAと名付けた。

「ついに明日だね」
「うん」
「なんかあっという間だったなぁ」
「そうだね、集落のみんなが手伝ってくれるようになってから、かなり作業が進んだからね」
「……ちゃんと飛ぶといいね」
「飛ぶさ。チキューのロケット技術はすごいし、みんな協力してくれたんだしね」
「そうだね、私も祈ってる」
「ありがとう、クローチェ」
「……あのね、ミツル」
「なに?」
「私、ミツルのことが……ううん、なんでもない」
「え?」
「なんでもない。いよいよ明日なんだなぁって思っただけ」

 クローチェは夕日を見つめていた。フユと呼ばれるチキューのモードを二回越えて、もうじきハルと呼ばれるモードになろうとしている。もうフィオーレを飛び出してから二年が過ぎていた。やっと帰れるのかという思いと、もっとチキューにいたいような感情がせめぎ合って、なんとも言えない気分だ。

「私、ミツルがちゃんと飛び立てるように、はちまきして応援するね」
「はちまき?」
「昔の人がしてた頭に巻く布のこと。古い資料の中でシンセングミって呼ばれてる人達もしてたんだよ。決意とか決断とか、気合いを込めたりしていたらしいの。だから私もはちまきして、ミツルを応援する」
「嬉しいけど、僕がすることなんてロケットに乗るだけで、後はロケットが頑張ってくれるだけなんだけどね」
「応援したら嫌?」
「いや、そんなことはないけど……」
「なんならラッパも吹こうか?」

 二人で笑った。ひとしきり笑いあった後、目立った会話はしなかったけれど、いつもよりみちくさをしてゆっくり、ゆっくりと家に帰った。
 明日、僕はフィオーレへ帰る。FARFALLAに乗って。




≪27へ
29へ≫

FARFALLA - 29 -


ハコニワノベル

「絶対にまた来てね」
「FARFALLAは、フィオーレから戻れるように設計してあるから大丈夫だよ、クローチェ」
「怠けてると、あっという間にまた俺様の方が足が速くなっちまうからな」
「そしたらまたすぐに追い抜いてみせるよ、コメタ」
「ここからがメインステージよぉ、ぶちかまして来いよ、お前さんのロックンロールをよぉ」
「はい。ビランチャさん、例の件お願いします。僕も出来るだけミスしないようにやります」
「おぉ、任せろぉ」

 チキューではスペースジャケットのことを宇宙服と呼ぶらしい。スペースジャケットよりも随分と重たいその服を着込む。重力に慣れたとはいえ、百二十キロの宇宙服を着ると歩くのさえ困難になる。なんでも、宇宙空間でロケットの外へ出て作業することまで考えられているらしく、ロケットの整備や修復まで想定された強度らしい。この宇宙服を着て、それなりに動けるようになるために、ビランチャさんは毎日砂浜を走れだとか、筋トレをするように言っていたことを、つい最近になって聞いた。確かにトレーニングなしでこの服を着て動けるとは思えない。

「燃料確認OK!」
「サスペンション、油圧ダンパーの確認OK!」
「ロボットアーム異常なし! ミツル、いつでも乗れるぞ」
「みんな、ありがとう! みんながいなかったら、こんなにイカしたロケットは出来なかったです。本当にありがとう。友達を乗せたら、また戻って来るのでその時はまたよろしくお願いします。それから、ちょっと人類の歴史にロックンロールをかまして来ます!」
「おぉ、行って来い!」

 全長五十二メートルの二段式。有人のロケットとしてはかなり小さい方らしい。小型化出来たのは僕がチキューにやって来た時の宇宙船、ストラトキャスターや、圧縮酸素技術を改良したからだ。万全の準備はしたつもりだけど、それでもチキューでは打ち上げに失敗するケースもあるらしい。ここで失敗したら、次は早くても半年後になる。もちろん失敗すれば命の保証もない。

「ミツルー!」

 振り向くと、はちまきをしたクローチェが何かを差し出している。

「なに、これ?」
「種だよ。お花の種。沢山あるから、どれかはフィオーレでも育つんじゃないかな。リンドウにケイトウ、それからコスモス」
「ありがとう。育ててみるよ」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」

 FARFALLAに乗り込む。宇宙船部分には一応四人までは乗船できる設計だけれど、宇宙服を身に付けた状態で四人が入るとなると、このスペースでは少し狭苦しい。これだけ巨大でも四人が限界だと考えると、チキューから飛び出すエネルギーの巨大さに、また打ちのめされそうになる。操縦席に辿り着くと、後ろで重たくハッチが閉じる音が聞こえた。それとほぼ同時に通信が入る。

「ミツル、聞こえるかぁ?」
「ビランチャさん、聞こえます」
「よぅし、そんじゃ席に付いてしっかりロックしろぉ」
「はい」

 重たい宇宙服と、巨大なロケットがひとつになるような感覚になる。その一部が自分であることが不思議だ。

「ちゃんと打ち上げてやるからよぉ、心配すんなぁ」
「解ってます。信じてますから。よろしくお願いします」
「よぉし、そろそろ行くぞぉ」



 5、4、3、2、1……0! 発射!




≪28へ
30へ≫

FARFALLA - 30 -


ハコニワノベル

 振動、衝撃。上へ上へと昇っていっているはずなのに、下へ下へと強く引っ張られる感覚。眼下に広がる海の青さと、上空に広がる空の青さの中間地点に僕はいる。徐々に海が遠ざかり、まるで大きな水たまりのように見えるようになったかと思うと、空の青さに囲まれていく。何かにぶつかるような衝撃のあと、ロケットの外から聞こえていた音が消えていく。しばらく無音状態になっていた船内から、ガコンと鈍くて大きな音がした。同時に船体が大きく揺れる。

「ロケット切り離し、成功」

 気が付くと目に映る景色は青から黒へ変わっていた。打ち上げからジャスト八分、無事に大気圏を突破した。久しぶりに見る宇宙空間、相変わらず数億の星が輝いている。船体の傾きを調整するとルーナ、そしてフィオーレを確認することが出来た。

「ミツル、聞こえるかよぉ?」
「ビランチャさん、聞こえます。無事に大気圏突破しました」
「流石、ワシの設計に狂いはないなぁ、ヒヒヒ」
「これからルーナへ向けて最終ロケットを噴射させます。その後、その軌道線上にあるフィオーレに行きます」
「例の件、こっちの準備はバッチリだからよぉ、あとはお前さんが上手くやれば大丈夫だぁ」
「了解です。ミスしないようにやってきます」
「ロックだねぇ、ヒヒヒ。それじゃぁ、また後でなぁ」
「はい。また後で」

 船体の傾きを再度調整して、ルーナへ向けて最終ロケットを噴射させる。音もなく揺れると徐々にチキューの衛星軌道から離れていく。細かく船体の傾きを調整しながらルーナへ近づいていく。フィオーレに帰るだけならルーナに近づく意味はないけれど、ルーナに設置したいものがある。きっとこれが今の捻じれた人類の歴史を正してくれる気がする。しかし燃料の関係上、ルーナを周回することは出来ない。通り過ぎるタイミングで、FARFALLAに急遽搭載したプリマヴェーラを投下して設置するしかない。チャンスは一度きりだ。そうこうしているうちにルーナが近付く。慌てて投下用のスイッチを手にしつつ、投下のタイミングを計る。

「プリマヴェーラ設置可能エリア到達。プリマヴェーラ投下! ……あ、あれ?」

 プリマヴェーラが投下されない。投下信号は正常に発信されている。信号発信から各機器の動作をチェックしていく。信号発信――良し、格納ボックスオープン――良し、投下アームオープン――エラー。プリマヴェーラを投下する最後のアームが開ききっていない。このままだとFARFALLAはルーナを通り過ぎてしまう。

「あのアームを開かないと!」

 最終ロケットの噴射を緊急停止してから操縦席のベルトを無理やり外す。久しぶりの浮遊に身体を取られて頭を天井に強く打った。痛みも引かないままにFARFALLAの軌道を再度ルーナへ無理やり近づける。そのままハッチへ移動してハッチをこじ開けた。完全な宇宙空間に引き込まれそうになりながら、船外へ飛び出す。FARFALLAにしがみ付きながら、プリマヴェーラ投下アームへ近づく。あと少し、あと少し。
 急に船体がガクンと傾いた。

「やばい、ルーナの引力に引っ張られてるんだ。急がないと!」

 手を伸ばしたその先に、プリマヴェーラの投下アームが見える。しかし気付けば船体はルーナに対して垂直に落下を始めている。プリマヴェーラを諦めないと間違いなく衝突してしまう。一瞬諦めようかと思った。諦めてフィオーレに辿り着けば、当初の目的であるテラをチキューへ送り届けることが出来る。――だけど、それだけで終わってしまう。

「今ここで、諦めたら……ここで諦めてしまったら、全然ロックじゃないだろ!」

 飛びつくように投下アームにしがみ付いて、全力でそのアームを開かせる。FARFALLAは徐々にスピードを増しながらルーナへ一直線に落ちていく。急遽取り付けたプリマヴェーラを絶対に落とさないように、きつめに作ったアームが災いして投下出来なかったらしい。力を込めてもなかなか開いてプリマヴェーラを離してくれそうにない。

「あのな、チキュージンは強いんだよ。だけどチキューの人もフィオーレの人も全員同じ人類なんだよぉっ!」

 バン! と弾かれるように力を込めていたアームが突然開いた。プリマヴェーラはFARFALLAから離れていく。今度は確実に投下出来てるのが良く解る。解り過ぎるほどに良く見えている。――なぜなら、折れたアームを片手に持ったまま、僕もFARFALLAから離れて、いや落ちているからだ。




≪29へ
31へ≫

FARFALLA - 31 -


ハコニワノベル

 このまま僕はルーナに落下して命を落とすのだろうと考えた。そしてそれに納得していた。妙に諦めが早かったのは、物理的にFARFALLAに戻ることが出来ないからだ。近づくルーナと、視線の先にフィオーレが映る。チキューの宇宙服は重たい。船外作業が行える強度は確かにあった。そう言えばビランチャさんに「船外で作業するときはよぉ、命綱忘れるんじゃねぇぞぉ」とか言われていた。命綱のことなんて考えていられないほど慌てていた自分が滑稽に感じた。

「せっかくここまで来たのにな。ごめんなテラ、迎えに行けなくなったよ」

 感傷に浸りつつ、落ちてきた方を見るとFARFALLAが見えた。二年間夢中で作り続けたロケットだ。無駄にピカピカ光る衛星アンテナを広げることもなく、ここで宇宙ゴミとして漂うことになるだろう。今の位置からはロケットの噴射口がよく見える。あそこから燃料を使ってロケットを噴射、そしてその推進力を得て進んでいく。燃料を噴射させて。燃料を――噴射させて――?

「あ!」

 チキューの宇宙服は百二十キロの重量がある。その重さは強度を保持するためだけに重たいわけじゃない。命綱が切れるなどのアクシデント時に、燃料を噴射させることができたはず。ビランチャさんから命綱の話を聞いた時に、軽く言われていた内容だ。今から噴射させて間に合うか解らない。それでも今残された手段はこれしかない。噴射装置の起動スイッチに手を伸ばす。慌てて何度か掴みそこなって、片手に握ったままの折れたアームを投げ捨てた。それからスイッチをなんとか捕まえて、僕は祈るように、そのスイッチを押した。
 ルーナへ向かって進んでいた身体が緩やかに停止する。徐々にFARFALLAへ向けて移動していく。

「いいぞいいぞ、頼むからFARFALLAまで届いてくれよ」

 徐々にFARFALLAへ近づいていく。さっきまで諦めていたのが嘘みたいに、今はFARFALLAへ辿り着くことを願っている。人間はどうしようもなく切り替えが早いみたいだ。藁にもすがる気持ちで噴射ボタンを押し続ける。この燃料が切れたら、今度こそおしまいだ。二度とFARFALLAには戻れないし、もちろんここで命を落とすことになる。



「よーし、よしよし、このまま、このまま」
「もう少しだけ持ってくれよ」
「じれったいけど無駄に動くと推進力の妨げになるしな」
「これがダメだったら……いや、ダメになるとは決まってない」
「頼む、頼む、頼む」



 と独り言を呪文のように繰り返しながら、僕はFARFALLAへ近づいていった。



「お? ちょっとスピード出て来たんじゃないか?」
「これなら、届きそうだ」
「いいぞ、いいぞ、いいぞ」
「行け、行け、行け」
「もうちょっと、もうちょっとで……」



 ――徐々に、徐々に加速しながら。



「ちょ、ちょっと待って、これって止まれないんじゃ……」

 音のない宇宙空間に鈍い衝突音が響いた気がした。




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32へ≫

FARFALLA - 32 -


ハコニワノベル

 奇跡だ。あの状況からFARFALLAへ戻れたのは奇跡以外の何物でもない。その代り宇宙服内の燃料は完全に無くなっているし、なにより全身を強く打ちつけたのであちこちが痛い。ハッチを閉じプリマヴェーラの確認をすると、どうやら無事に設置出来たようだ。

「こちらミツル。ビランチャさん、聞こえますか?」
「……んー? ……おぉ! 聞こえ……るぞぉ」
「良かった。ルーナへの設置は無事に完了しました」
「まぁ、ワシが……設計してるから……よぉ、間違いは……ないわなぁ」
「ちょっとだけ遅延があるみたいですね」
「それは……よぉ、しょうが……ないだろうよぉ。なにせ……これだけ離れてるからなぁ」
「聞き取れない訳ではないから、十分だと思います」
「おぉよ……それにしても……設置に時間掛かり過ぎ……だなぁ。何か……あったかぁ?」
「若干のトラブルです。特に問題はないですよ」
「ワシはよぉ……プリマヴェーラじゃなくて……お前さんが……ルーナにでも落ちたかと思ったよぉ……ヒヒヒ」
「いや、全然。本当にそんなことは全然なかったです。じゃ、じゃぁ今からフィオーレに向かいます。接続状態の維持だけよろしくお願いします」
「おぉ……任せろよぉ」

 あの投下アームが開かなかったのもビランチャさんの設計通りな気がしてしまったけれど、それはもう忘れることにする。ルーナへ引き摺られて無駄なエネルギーを使ってしまったから、無駄を抑えてフィオーレまでの最短距離を進んでいかなくてはいけない。またトラブルが発生してしまうと、今度こそフィオーレに辿り着けなくなる。慎重に再度機体の角度を調整してフィオーレへと向かった。

「さてと、どこに着陸しようかなぁ。やっぱり旧八番ゲートが最適だよなぁ」

 徐々にフィオーレが近付いてくる。ルーナから離れてからはスムーズなものだ。徐々に目視レベルで細部までフィオーレを確認出来るようになった。相変わらず太陽に裏側の太陽電池パネルを向けている。そのパネルにFARFALLAの影が映し出された。最初は小さな丸だった影が、次第に機体の形になっていく。少しだけ旋回して、僕はFARFALLAをフィオーレに着陸させる準備を始めた。

「確か、ビランチャさんが着陸前に押せって言ってたのは、このボタンだよな」

 なぜかマジックで「ロックンロール!」と殴り書きされてるボタンを押すと、機体に取り付けられた発光ダイオードが無駄に点滅を始め出した。それと同時に羽を模した衛星アンテナが広がっていく。無駄だ。無駄な装飾だ。しかも解除が出来ない。これじゃぁ、こっそり着陸することが不可能になってしまった。半ばあきらめて着陸ポイントを旧八番ゲート付近に設定した。
 フィオーレの外はあの時からあまり変わっていない。変わってることと言えば――リベルラの社員による監視がものすごいぐらいだろうか。こんな無駄にピカピカ輝く宇宙船が飛来してるのだから、あっという間に見つかって徐々に取り囲まれている。FARFALLAは設定した着陸ポイントにお構いなしに着陸をしてしまった。

「何者か知らんが、我々の言葉が解るのであれば大人しく出てきなさい!」

 無断介入で通信が入った。もちろん大人しく出て行けば掴まるのは明らかだ。かと言って、このまま待機していればFARFALLAに攻撃されて壊される可能性もある。FARFALLAが壊されたら、テラをチキューへ送れなくなる。流石にまた二年以上かけてロケットは作ってられない。

「さて、どうしますかね」

 もうかなりの人数に取り囲まれている。それぞれの手にはラッジョ銃を携えているのも見える。あんな物騒なもので攻撃されたらFARFALLAは簡単に壊されてしまうだろう。ふと、外の環境を示す表示に目がとまった。

「そうか、チキュージンは強いんだったっけ」

 取り囲んでいるリベルラの社員の位置を確認する。じりじりとFARFALLAとの距離を縮めているのが解る。もう少し、もう少し近づいてくれれば――。ハッチのロックを解除して、リベルラの社員との距離を確認する。

「我々の言葉が通じないのであれば、我々はそちらを拘束することになる」
「抵抗せずに大人しく出てきなさい」
「今だ!」

 ハッチを開くのと同時に強く機体を蹴って飛び出す。思ってた以上に勢いが付いてしまって、ハッチ付近のリベルラ社員が何人か強く吹き飛んでしまった。本当は吹き飛ばすつもりはなく、飛び出してFARFALLAから遠ざけようと思ったのに。仕方がないから残ってるリベルラの社員も同じように吹き飛ばしてしまった。
 そのまま旧八番ゲートへ向かう。流石に以前と同じように開くことは出来なかったので、制御部分の装置をショートさせて無理やりゲートをこじ開けた。

 ――ガタン、シュウィン! ウィン! ウィン!

 三重に閉じられた扉が開く。




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FARFALLA - 33 -


ハコニワノベル

 それにしても力加減が難しい。その原因はチキューとフィオーレの重力差だ。その差、十二分の一。チキューの感覚で動こうとすると無駄に飛び跳ねてしまったりする。テラがフィオーレに来たとき、ものすごく高く飛び跳ねたり、ラリアットでカンクロを一回転半させたのもチキューの重力感覚で動いていたからだ。試しに軽く飛び上がってみると簡単に数メートルほど身体が浮いた。
 さっきの騒動できっと侵入したことはすぐにばれてしまう。きっとあいつがまだ指揮を執っているだろうから、このままぐずぐずしているとすぐに包囲されて掴まるのがオチだ。そうなる前に――。

「今のうちに仕込んでおかないとな」

 旧八番ゲートの扉から倉庫内へ入り、宇宙服を脱いで隠しておいた。身体が軽くなった分だけ余計に力加減が難しくなる。ぎこちなく移動しつつ、適当な床タイルを力任せに剥ぎ取って床下の配電盤を確認する。そこから伸びているモニタのケーブルを切断し、小型のプリマヴェーラを間に介して再度ケーブルを繋ぐ。小型のプリマヴェーラがきちんと動作していることを確認してから、床タイルをまた力任せに元に戻した。そうこうしていると、遠くから多数の足音や声が聞こえる。

「相変わらず、無駄のない迅速な対応だこと」

 細工をした場所で騒動が起きると困るので、適当な広さがありコンテナが多数並んでいる場所へ移動した。多分、中から言うと一つ目の扉の中ぐらいだ。ここなら多少暴れても大丈夫だろう。天井も高いから、頭を打つことも無さそうだ。

「いたぞ! あそこだ! ……ターゲットを確認しました」

 なるべくゆっくりと一角にある複数のコンテナの影に隠れてから、勢いよくジャンプして天井部分にある通風口の出っ張りと、天井に手をついて隠れる。思惑通り、リベルラの社員達には僕がまだコンテナの影にいると思っているようだ。

「そこに隠れている侵入者に告ぐ、大人しく我々の前に出てきなさい」

「我々の言葉が理解できるのであれば、平和的に解決しようではないか」

「無駄な抵抗は辞めなさい」

 天井側から見下ろすと徐々にラッジョ銃を手にしたリベルラ社員が集まって、あっという間に包囲網が完成した。ほどなくすると、包囲網の外側を悠然と歩く人物が目に入った。ウラーノだ。二年前に散々邪魔されて、そのせいでテラをフィオーレに置いて行ってしまう結果になった。それにあの時、テラに酷いことを言っていた。あの時はテラを助けてあげられなかった。
 思いだしながら奥歯を噛みしめる。今すぐに飛びかかりたいけれど、今飛び出したらラッジョ銃でハチの巣にされるだろう。タイミングを見極めないと――。

「君は今、完全に包囲されている! 大人しく出て来なさい」
「部隊長、もうやってしまいなさい」
「し、しかし」
「これもフィオーレの治安維持のためです」
「了解しました。総員、一斉射撃準備! ……アタック!」

 眼下で躊躇無くラッジョ銃の光線が乱れ飛ぶ。コンテナが音も無く蜂の巣にされて崩れていく。一斉射撃が終わったのを確認してからその瓦礫の山に下りる。ウラーノの位置を確認してから口を開いた。

「相変わらず、おっかない治安維持だね」

 驚きながら、リベルラ社員達が再びこちらに銃口を向けた。

「まだ、慣れなくてさ」
「おい、止まれ! 止まれと言っている!」
「だってさ、十二分の一なんだよ?」
「何を言っている? 我々の言葉が理解出来るのであれば、動くな!」
「いや、だからさ、十二分の一なんだって」
「と、とにかく止まれ! さもなくば撃つぞ!」
「これ、ほんとに難しいな……」
「部隊長、構いません。処分してしまいなさい」
「はっ! 総員、一斉射撃準備! ……アタッ……! ?」

 勢いよく瓦礫を踏みしめて飛ぶ。包囲網のリベルラ社員達を飛び越えてウラーノの所まで。と、考えていたのに思った以上に飛距離が出て、かなり遠くへ着地してしまった。そのまま跳ね返るように再度飛び、ようやくウラーノの目の前に止まることが出来た。

「ほんと、手加減の仕方が解らないや。ね、ウラーノさん」
「お前は……」




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FARFALLA - 34 -


ハコニワノベル

 あまり表情を変えないウラーノが引きつった顔を見せている。しかしその視線は、どこかで予測していた事態である雰囲気を醸し出している。相変わらず、嫌いなタイプだ。なんでも想定済み、対応方法も決定済み、そんな感覚を思わさせられる。
 しばしの沈黙がお互いに流れた。――その時。

「おいおい、ウソだろー? 普通生きてると思うか? な、ペーシ」
「ですよね、まさか生きてるなんて、誰も思いませんよね、カンクロさん」

 懐かしい癇に障る言い回しの声が聞こえた。その声が聞こえた方を確認すると、カンクロとペーシ、それからテラが見えた。

「んー? おー! みんな久しぶり!」
「……」
「あれ? なんで黙ってんの?」
「うるさいわね、この……、この、バカミツルー! !」
「バカな、辿り着けるはずがない。あんな燃料すら積んでいないガラクタでは……」
「まぁね。でも辿り着いてしまったんだから仕方がないよね」
「くっ……」
「あ、あんたね、どこ行ってたのよ!」
「え? あぁ、そりゃもちろんチキューだよ。すごいな、チキュー!」
「だったらなんですぐに戻ってこないのよ! 私がどれだけ心配したと……」
「ごめんごめん、向こうでも一から宇宙船作ってたら二年経ってたんだよ」
「バカ! ほんと、もうバカ! バーカ! バカ……」
「久しぶりなのにバカしか言われてないな……。まぁ話したい事は沢山あるけど、その前にやっておきたいことがあるんだよね」



   ◇



「離せ!」
「いいえ、離しません。あなたはこのフィオーレにとって危険因子。だからここで処分します。チキュージンと言えど女のあなたでは、男の私には力で及ばない。残念でしたねぇ。あぁ、そうだ。最後になぜあなたはここに辿り着いたのか聞いておきましょうか」
「ファ、ファルファッラに行きたかったんだよ」
「ファルファッラ? そんな星は存在しませんよ。あなたはありもしない星を目指して、チキューを飛び出したのですか? くっくっく、はっはっは。実にくだらない。チキューで何も知らず生きていればいいものを。ファルファッラ? なんだそれは。はっはっは……」
「何が可笑しい! 何が、可笑しい!」



   ◇



 二年前にテラを傷つけたことだけは許せない。テラやチキューの人達がファルファッラ、いやフィオーレにどんなに想いを馳せていると思っているんだ。確かにファルファッラという星は存在しない。だけどファルファッラはフィオーレだった。テラはちゃんとフィオーレに辿り着いた。それはファルファッラにちゃんと辿り着けてたってことだ。ここまで二年掛かったけど、一矢報いてやる。
 僕はゆっくりと右腕を回した。

「あんた何する気?」
「ん? ラリアット」
「バカ! あんたほんとにバカなの? あいつに私のラリアットが効かなかったの忘れたの?」
「ラリアット!」
「だから、無理だって……」

 力を抑える意識を遮断する。息を吸い込んでから全体重を足に移動させ、その溜めこんだ力をそのまま全部噴射させて、まるで重力を振り切るロケットのように、強く、強く床を蹴った。

「チキューではフィオーレのことを、ファルファッラと呼ぶんだ!」




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FARFALLA - 35 -


ハコニワノベル

 瞬間、ミツルの姿が目の前から消えた。そして私の目に映ったのは――、一回転、二回転、三回転して仰向けに倒れたウラーノだった。倒れたウラーノの傍でミツルが笑っている。

「女の子の力じゃ勝てなくても、同じ男なら若い方が強いってことですね」
「こ、これで勝ったと思っているのですか?」
「いいえ」
「……何を考えている? XB03026」
「いや、何をって言われても……ただ、人類の歴史にロックンロールをかまそうと思ってるだけですよ」
「無駄だ。例え君が本当にチキューへ行き、こうして戻って来たとしても誰も何も信じないでしょう」
「そうですかね?」
「この私が管理しているフィオーレでは、外の情報は完全にシャットアウトされているからだ」
「なんのためにそんなことを?」
「人類は醜い。自由を与えられれば必ず破滅へと進んでいく。チキューとフィオーレがそれぞれ関わらないことこそ、人類を護ることになるのですよ」
「だからって、全部あんたの身勝手で真実を知ることもなく、ただ生かされていることが正しいとは思えない」
「ふん、子供の理想論ですね。真実を知ることこそ正しいというものではない」
「だから、そんなの全部あんたが決めつけてるだけだって」
「それじゃぁ、このフィオーレにいる人類にその真実とやらを教えてあげればいいでしょう。フィオーレの外にはチキューという星があって、そこでは同じ人類が生活をしているということをね。そんな話、フィオーレの中で信じるものなど誰一人いない。所詮、私に管理されているだけの人類に、自ら思考し、想像を働かせることなんて無理なんですよ。笑えますねぇ、くっくっく、はっはっは。君がこの二年間、いやフィオーレでこそこそとガラクタを作っていた期間を合わせると四年間もの間でやったのは、あそこにいる少女を拾って、その少女を置き去りにしただけなのですよ。くっくっく、はっはっはっは」
「……」
「さぁ、どうしましたか? 人類の歴史に、ロックンロールとやらをかましてごらんなさい。君の声など誰にも届かない。例え真実を知ったとしても、誰も何もしないでしょうがね」

 勝ち誇ったようにニヤリと笑いながらウラーノはふらふらと立ちあがり、眼鏡をかけ直す。

「ミツル、私には届いてるよ! ミツルの声、ちゃんと届いてるから!」
「おいおい、聞こえただろー? フィオーレの外にはチキューとかいう星があるらしいぞ。な、ペーシ」
「らしいですね、それも元々人類が住んでいた星らしいですよ、カンクロさん」
「黙れ! 貴様らのようなイレギュラーがいくら騒いだって何も変わらん。私のフィオーレは変わらせはしない。くっくっく。貴様ら、ここから無事に出られると思わない方がいいぞ」

 ウラーノが右手をあげると、混乱していたリベルラ社員達の統率が取られていく。あっという間に囲まれてしまった。視線の先でミツルも取り囲まれている。

「ミツル! ……カンクロ、ペーシ! なんとかしなさいよ!」
「いやいやいや、姉さん。流石にこの人数相手はちょっと……な、ペーシ」
「ですねですね、全員を巻き付けるだけのスペースヨーヨーもありませんしね、カンクロさん」
「もう、あんた達は本当に大事な時に使えないんだから! ここは強硬突破するしか……うっ」

 取り囲んだリベルラ社員が一斉に銃口をこちらに向けている。その奥からウラーノがゆっくりと近付いて来ると、私は二年前と同じように胸倉を掴まれて持ち上げられてしまった。抵抗しようにも力の差があり過ぎて、暴れても暴れてもウラーノの腕を振りほどくことが出来ない。

「XB03026、大人しくしないと、このガキ共の命はないと思え! ……なっ?」

 周りにいるリベルラ社員達が構えるラッジョ銃の銃口が、なぜかウラーノに向けられている。持ち上げられて視線が高くなった私に見えたのは、リベルラ社員の間をゆっくりと通り抜けながらこちらに向かってくるミツル。それから、その沢山の社員達の一番後ろで片手をあげて指示を出している人――ヴェルネさんだ。

「ヴェルネ、貴様……」
「あら社長。いいえ、今は社員ではありませんのでウラーノさん。お久しぶりです。同じことを繰り返して言いたい訳ではありませんけど、女はいつでも夢見る男性に惹かれるもの、ですわ」

 ゆっくりと私は下ろされて解放された。ウラーノはそのまま両手をあげた。

「テラ! 大丈夫だった?」
「あんたが無茶するからでしょ! ほんと、ほんとにバカなんだから」
「おいおい、二年間も音沙汰なしでヒーロー気取りな奴がいるぞ。な、ペーシ」
「いますいます。どれだけテラさんが心配して泣いてたと思ってるんですかね、カンクロさん」
「ちょ、ちょっと、何余計なことしゃべってんのよあんた達は!」
「はいはい、素敵な青春ごっこは後でしてくれるかな?」

 ヴェルネさんはそう言いながら私たちをウラーノから遠ざけると、一枚の書類を取り出してウラーノに見せ付けるように広げた。

「ウラーノさん、あなたの解雇通告書です」
「何? バカな。解雇通告が出来るのは私だけのはず」
「いいえ、あなたではなく、リベルラ社の社長権限でのみ、この解雇通告を行うことが許されています」
「寝言は寝てから言いたまえ。リベルラ社の社長はこの私だ」
「あら? あなたこそ寝言は寝てから言ってくださいませね。あぁ、申し遅れました。わたくし、この度再就職したんですよ。リベルラ社の社長に」
「なんだと? ふざけるなよヴェルネ! リベルラ社、いやフィオーレは私のものだ!」
「……ナンセンスですわね。今、リベルラ社の全権はわたくしが保有しております。管理が得意とおっしゃる割に、ご自分の自己管理がなっていませんわ」
「大人しく話を聞けばくだらない。まぁ、いい。貴様が社長だろうがなんだろうが、力づくで奪い返せばいいだけのこと。チキュージンを甘く見るなよ!」
「あら怖い。あなたに掛かったら、わたくしなんてひとたまりもございませんわね」
「ならば社長の座を返してもらおうか、ヴェルネ! 貴様らを消すことぐらい造作もない……」

 瞬間、ウラーノがくるんと回転してコケた。ヴェルネさんが足払いをしたからだ。

「なに?」
「先ほど、こっそり重力のプレゼントを差し上げたことを、お伝えするのを忘れておりました」

 ウラーノの腕に、私が付けられていたあの時計のような装置が取り付けられている。いつの間にかヴェルネさんが私からあの装置を外して、ウラーノに取り付けていたみたいだ。足払いの恰好からにこやかにほほ笑みながら、ヴェルネさんが立ち上がる。髪の毛を手ぐしで整えると、こう言った。

「足元がお留守ですわ」




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fineへ≫

FARFALLA - fine -


ハコニワノベル

「それでミツル君。どうやってチキューのことをフィオーレの人に知ってもらうの? 四千万人もの人達に説明するだけでも大変。更にそこから信じてもらおうと思ったら、ものすごい時間が掛かってしまうわ」

 ウラーノが捕らえられた後、私とミツル、ついでにカンクロとペーシはリベルラ社の社長室、つまりヴェルネさんの部屋に呼び出されていた。

「その前にヴェルネさん、何時の間にリベルラの社長に?」
「それはね、テラちゃん。二年前に解雇されるよりもずっと前から、私はこの椅子を自分のものにするためだけに動いていたというだけよ。喫茶店をしていた間だってね。まぁ、今回はたまたま私に回って来ただけのこと。それでも、遅かれ早かれこの椅子は私のものになっていたでしょうけど」

 にこやかに笑っているけれど、ヴェルネさんの笑顔が怖い。同じ女として尊敬出来る部分が多分にあるのは認めるけれど、私はここまで裏表を使い分けられる気がしない。「そうなんだ」と言って笑った。でも間違いなく顔がひきつっていると思う。

「じゃ、じゃぁ、あのタイミングでウラーノを捕まえるのも計画通りだったの?」
「ううん。それは違うわね。あの人の裏をかけれるような、何か大きな騒動だったら何でも良かったんだけど、なかなかチャンスが無くてね。そしたら謎の宇宙船飛来の緊急事態。コレだわ! って、ほんとミツル君には感謝してるわよ。うふふ」
「ずっと準備は出来てたってことですね。ヴェルネさんって、意外と腹黒」
「ちょっと姉さん、聞こえてますよ! な、ペーシ」
「そうです、そうです。絶対に聞こえちゃってますよね、カンクロさん」
「テラちゃんはいつも正直でいいわぁ。お姉さん、今の発言は聞かなかったことにしといてあ・げ・る。さてと、それよりもミツル君。チキューのこと、どうするつもりなのかしら? フィオーレが私のもの……じゃないや、自由になったのだからこちらとしては、あなたのやりたいことを出来る限りバックアップするつもりだけど」

 私たちから少し離れた場所で、ミツルが窓の外を見ている。少し嬉しそうな顔をしていたかと思うと、こちらに困ったような顔を見せてくる。

「それがですね、特にどうするつもりもないんですよ」
「どういうことかしら? さっきは人類の歴史にロックンロールをかますとか、確かそんなことを言っていたけど?」
「うーん、ウラーノさんにも言われたんですけど、なんと言うか……」
「ミツル、あんたもしかして、何も考えてなかったの?」
「おいおい、本気かよ。チキューって星があるのは事実なんだろ。な、ペーシ」
「ほんとほんと、真実を知ってどうするかは、人それぞれですよね、カンクロさん」
「結局、あなたはその真実を誰にも教えようとはしない訳かしら。ウラーノの言っていたように、誰も信じてくれないから諦めるという訳? 私が好きなのは、もっとバカで周りが見えてない癖に、絶対に信念を曲げない。自分の信じたことを最後まで信じ抜く。そんな夢を追いかけてるミツル君だったのになぁ。ちょっとがっかりしたわ」
「いや、だからですね。もうやるべきことはやってしまってて、僕が今からやることなんて特にないんですよね。ほら、今だってもうフィオーレのみんな、チキューのこと知りつつありますから」



『え?』



 ミツルが見ている窓の先、巨大なリベルラのモニタに懐かしい青い空と青い海が映し出されている。それだけじゃない、この窓から見える全てのモニタが同じ映像を映し出している。きっと各個人が持っているモニタにも同じ状態になっているのだろう。ふいにモニタ内になんだか変な老人が現れて手を振り始めた。

「ヒヒヒ、ワ・レ・ワ・レ・は、チキュージンだよぉ」
「ビランチャさん! ダメですよ。最初に不快感を与えちゃいます。……あ、えーと。フィオーレの皆さん、こんにちは。私はクローチェと言います。私たちはチキューと呼ばれる青い星に住んでいます。皆さんと同じ人類です。勝手にこちらの映像を送ってしまってごめんなさい。でも、フィオーレではチキューは、私たちのこの青い星は滅んでしまったと教わると聞きました。チキューは滅んでなんていません。私たちはチキューで毎日生活をしています。フィオーレの皆さんはどんな生活を送っているのか教えて下さい。あと、ミツル……これ見てるかな? ちゃんとフィオーレの映像、届いてるよ。フィオーレってとっても綺麗なところなんだね」

 ヴェルネさんの机にあるモニタにも、外のモニタと同じ映像が映し出されている。ミツルがそのモニタの前に移動すると、インカムを取りつけながらモニタのカメラに手を振った。すると映像の中の女の子が「あ、ミツル!」と手を振り返した。

「クローチェ、ちゃんと見てるよ。とてもいい演説でした」
「ちゃ、ちゃんと話せてたかな? 私、あまり自信ないよ。だってミツルが出発したあとで、この衛星通信の話を聞いたから……」
「クローチェ姉ちゃんさー、今も通信してる最中なのに、ミツルと普通の会話してていいのか? フィオーレで沢山の人に聞かれてるし、見られてると思うぜ」
「ちょ、え、ダメ、見ないで! 聞かないで!」

 モニタの映像から女の子が慌てて消えると、憎たらしい男の子が映し出される。

「やぁ、フィオーレの諸君。俺様はコメタ様だ。フィオーレに住む諸君は、チキューに来たらきっと驚くことだろう。まず、諸君では普通に動くこともままならないほど、チキューはとても厳しい星だからだ。しかし、チキューはフィオーレの何倍も広く、とても素晴らしい星だと思っている。人類は元々チキューで暮らしていたのだ。これからはチキューとフィオーレそれぞれが協力しあって、生活をしていこうではないか」
「相変わらず偉そうだな、コメタ」
「おい、ミツル! せっかく良い調子でしゃべってるのに邪魔するなよな!」
「ごめんごめん。元チキューの最速の男」
「あ、てめーこのやろ……」
「ははは。コメタ、ごめんよ。ちょっと僕もしゃべりたくなったからこの辺で」
「ちょっと待て、ミツル、おい……」

 ミツルがモニタを操作すると、目に映るフィオーレのモニタというモニタにミツルの顔が映し出される。ミツルは笑いながら話し始めた。

「フィオーレの皆さんこんにちは。僕はミツルと言います。二年前にフィオーレを飛び出してチキューへ行き、先ほどチキューからフィオーレに戻ってきました。先ほどの映像はチキューに設置した衛星アンテナと、チキューとフィオーレの間にあるルーナという星に設置したアンテナ、それからこのフィオーレに着陸させている僕の宇宙船に搭載されているアンテナを経由して送受信されている、チキューのリアルタイム映像です。フィオーレの映像も同じようにチキューへ送っています。人類は元々チキューに住んでいました。細かい経緯がどうだったのかは解りませんが、それから人類はルーナにも移り住んで、そこからこのフィオーレで暮らすようになったと思います。しかし、フィオーレはリベルラ社の管理下におかれ、誰一人として真実を知ることも、自由に生活することも出来ません。僕は、フィオーレの他に人類が住める星があるはずだと、ずっと信じていました。その星を探すために、ロケットを作っていたある日、この女の子がフィオーレに辿り着いたんです」

 いきなり腕を引っ張られると、モニタに私の顔が映し出される。

「ちょっと、何するんのよ! それと、今のあんたが強く引っ張ると物凄く痛いんだけど?」
「名前はテラと言います。彼女はチキューからやってきたと言いました」
「無視するの? なんなの?」
「僕は嬉しかった。フィオーレ以外の星で人類が生きている。そこへ行ってみたい。そう思って彼女をチキューへ送ることを約束しました。けれど、リベルラ社の妨害があって、二年前に彼女を残したまま、僕だけがチキューへ飛び立ってしまったんです。それからチキューの人たちに助けられながら、こうしてまたフィオーレまで帰って来ることができました。チキューはすごいところです。皆さんにもチキューを知ってもらいたい。だからこうして、衛星通信で皆さんのモニタをジャックさせてもらいました。これから僕は、テラをチキューへ送り届けるつもりです。そしてもっと簡単に、気軽に、チキューとフィオーレを繋げようと考えてます。チキューの人がフィオーレに、フィオーレの人がチキューへ、気軽に行き来が出来るようにする。それが僕の今の夢です」
「そう言えば、さっきの女の子とあんた、どういう関係なのよ?」
「え? クローチェのこと? クローチェは僕が気絶したところを助けてくれて、それからチキューでは一緒に暮らしてただけだよ」
「ふーん、一緒に暮らしてた。それって一つ屋根の下で生活してたってことかしらね? ミ・ツ・ル君」
「そうだけど?」
「あんた、ちょっと覚悟しなさいよ! 私があの太っちょとガリと仕方なしに一緒にいる間、あんたはあんな可愛い子と一緒に生活してたなんて許せない!」
「おいおい、聞き間違いだよな? 今、姉さん俺のこと、ふふ、ふと……。な、な? ペーシ」
「たまには、現実も受け入れましょうよ、カンクロさん」

 結局そのまま私たちのケンカをフィオーレの全員と、チキューにいる人たちに一部始終を見られることになった。その騒動をヴェルネさんがリベルラ社の新社長としての挨拶とリベルラ社の管理を解放し、全ての生活で何事も自由に選択することが可能になったことが告知されてモニタジャックは終了した。最初は混乱していた人たちも、リベルラ社の新社長が名言することで納得し始め、そこまで大きな混乱は起こらずにすんだ。その代り、この騒動の後で私たちが外を歩いていると、絶対に笑われるようになった。それもこれも、全部ミツルが悪い。あいつが無制限に衛星通信をモニタになんか流すなんてことをしたからだ。そんなことをしたらどれだけの人に影響があるのか、あいつは――いや、あいつは解っててやっているかもしれない。
 その騒動からほどなくして、私はミツルの作った宇宙船FARFALLAに乗ってチキューへと無事に帰った。今ではチキューとフィオーレは共存関係にあり、フィオーレで蓄えたエネルギーをチキューへ供給し、そのエネルギーで開拓、農耕が行われている。またチキューで収穫された食糧や水などをチキューからフィオーレへと届けるようになった。チキューとフィオーレの関係はとても良好だ。
 私はチキューとフィオーレを股にかける花屋になった。チキューの植物を少しずつフィオーレで広める活動を、あのモニタに映っていたクローチェ、コメタと一緒に行っている。カンクロとペーシはリベルラ社の一員として、治安維持や施設管理をしている。ヴェルネさんにこき使われているらしい。ミツルは――、いやあのバカは、カプリコルさんと、チキューに住んでいるビランチャっていう爺さんと一緒に、相変わらずロケットを作ってる。たまに会ってもロケットの話ばかりしてるバカだけど、こいつのロックンロールには少しだけ何かを期待してもいいと思っている。



 人が変わるように。
 歴史が動くように。
 星々が輝くように。



 ――数年後。
 チキューとフィオーレ間の移動は、宇宙船で簡単に行うことが出来るようになった。
 フィオーレとは古いチキューの言葉で「花畑」、移動に使用する宇宙船FARFALLAは古いチキューの言葉で「蝶」と呼ぶらしい。

 今日もまた、花畑へ蝶が舞う。



   完。




≪35へ

第09回ハコニワノベルのあとがき


エッセイ

 執筆開始から完結まで一年一ヶ月と十九日。
 第09回ハコニワノベルはそれでもなんとか完結したよ。な話。

約一年二ヶ月かかった理由


まずは第09回、ものすごく時間が掛かってしまったものの
完結させられたことは良かったなと思ってます。
■「FARFALLA」の表紙はこちら

今回のキーワード募集時に書いている内容をサルベージすると



08回が不甲斐ない結果になってしまったことが
個人的にどうしても許せない!
忙しいとか、時間がないとか言ってられない。
誕生月でもあるこの九月の物語、ちょっと魂込めて書きます!


第08回で、物語が書けずじまいだったので
今回はその悔しさをバネにして、しっかり書くつもりでした。

しかし、蓋をあけて見れば
去年の九月中に執筆完了することが出来ず
十月に六話、十二月に五話。
しばらく空いて今年の二月に一話、四月に一話。
そこから約半年も書けずじまいのままズルズル引き摺って
やっと九月の終わりから一ヶ月ほどかけて完結となりました。

理由は物理的なもので、執筆時間の激減です。
今もその状況はあまり変わってないです。

去年の暮ぐらいの記憶は仕事してたぐらいしか残ってませんw



「FARFALLA」の出来るまで




※以下、盛大にネタバレしていきますので、読んでない人はご注意!



今回の物語を構想する前に、なんとなく「こんな物語を書きたい」というのがあって
それが【地球の滅亡】だったりしてます。
自分の考える地球の終わり方を描きたいなと。

それで「温暖化→海の面積拡大→大量蒸発による寒冷化→滅亡」みたいなのが
物語の中に出てきてます。
今になってはなぜ【地球の滅亡】を描きたかったのか
正確な理由は思い出せませんが、地球が滅亡した先で人類がどう生きるかを
想像したかったからかもしれません。

そんな物語の軸があり、そこに頂いたキーワードをちりばめて
「FARFALLA」は創られていきました。



キーワードについて


今回キーワードを投稿して頂いたのは15名。
今回分で15個のキーワードが集まりました。

さらに、前回の募集時に集まった12個を合わせた
27個のキーワードを使わせて頂きました。

それぞれについて軽く。


■誕生日おめでとうw(るどさん)
 誕生日の存在しない主人公にチキューでの誕生日を祝う部分で使いました。
 この【誕生日が存在しない】という設定にしてしまって
 どこでこのキーワードを使えばいいのか悩みました。

■蝉時雨(☆まりモさん)
 チキューでの季節描写で使いました。

■胡麻麦茶(黒さん)
 そのまま飲み物として登場してます。

■ベランダ(春野ひなたさん)
 タイトルでもある「ファルファッラ」というものが何のことなのか
 主人公が気付く時のシチュエーションで使ってます。

■未必の故意(じゅじゅさん)
 これが今回一番悩ませてくれたキーワードです。
 まず「未必の故意」って何? とか思いながら
 勝手に衛星通信を全員に見せた主人公のことですね。
 ここ、もう少し上手く書きたかったなぁ。

■ヨーヨー(ミッチーさん)
 何度もリベルラ社員をぐるぐる巻きにした
 スペースヨーヨーとして登場してます。

■学園祭の女王(RUTYさん)
 外からやって来た女の子の寝言に使ってます。

■しっぽの長い黒猫(なつめさん)
 倉庫に描かれた絵として登場してます。

■金色の目(蓮火さん)
 外からやって来た女の子の外見に使ってます。

■ほっかむり(neco*さん)
 チキューで出会った女の子がかぶっています。

■アキアカネ(志津さん)
 トンボとして使いました。
 今回はイタリア語をいろんな名称に使っています。
 ちなみに「トンボ=リベールラ」です。

■リンドウ(樹さん)
■秋桜(Rocheさん)
■ケイトウ(來弥さん)
 チキューから持ち帰った花の種として登場してます。

■ストラトキャスター(ともさん)
 ギターのことなんですが、主人公が作るロケットの名称に使いました。


--- 以下、第08回に頂いたキーワード達 ---


■忘れ水(☆まりモさん)
 海を表す表現として使っています。
 こういう日本語の古い言葉って、なんだか粋で好きです。

■メダル(なつめさん)
 主人公達の左手の甲に埋め込まれています。
 ここの設定も上手く活かしきれてないんですよねぇ。

■幕末(黒さん)
 近未来の物語中にどうやって組み込ませようかと悩みましたが
 シンセングミ(新撰組)として登場してます。

■入道雲(志津さん)
 これはもうそのまま登場させました。

■満天の星空(ミッチーさん)
 宇宙、星を舞台とする物語だったので使いやすかったです。

■黒猫(るどさん)
 上の「しっぽの長い黒猫」と同じくです。

■ユーフォニアム(奏湖さん)
 ラッパとして登場してます。
 実は私、ユーフォニアムを吹けます。
 トランペットも吹けますが。

■永遠の友情(あやさん)
 いじめっ子、取り巻き、生意気な子供といったキャラクターとの繋がり部分です。

■みちくさ(じゅじゅさん)
 チキューを旅立つ前にしてます。

■はちまき(タイキ≒蓮火さん)
 シンセングミと合わせて使いました。
 ほんと、ここらへんは近未来の物語とマッチさせ辛かったです。

■初恋(春野ひなたさん)
 チキューで出会う女の子に芽生える感情です。

■本当のこと(ともさん)
 これは、人類の歴史が嘘だったり
 滅んでいるはずの星が滅んでいなかったりの部分です。



感謝と告知です


第09回も皆さんのおかげで【なんとか】書き終えることが出来ました。
ありがとーごじゃーます!ありがとーごじゃーます!

もう、読んでる人がいるのかどうかもあれですが
とにかく感謝しております。

で、ここまで完結するのに時間がかかってしまって
当初のハコニワの目的である「毎月一本物語を執筆する」というのが
既に達成できていない訳ですが、が、が!

ハコニワノベルは継続する所存です。
書きます、あと三作品!
既に構想がありまして、ハコニワノベルの総決算として
三部構成の巨大なのを書きます。

キーワードの募集をするのですが
少し変わったキーワード募集をする予定です。


ということで、開催はするのですが
これだけ長い間ハコニワのおかげでエッセイも書けてませんし
しばらくハコニワは充電しつつ、エッセイを書いていこうと思ってます。

だって、あーさんは既に幼稚園生だし、来年からちぃさんも幼稚園生になりますから!
どんだけ何も書いてないんだか。書きたいというか、ブログは自分への記録になりますから
駄文でも、親バカラァァヴリィァィィー! でも
書いておくことに意義があるわけです。はい。


そんなこんなですが、充電完了後にまたキーワードの募集を行いますので
お時間が合いましたら、またキーワードの投稿をお気軽にどうぞ。



長い間放置してたので、リンクの整理等しました。
こっちでやってるよー! とかの連絡あれば
修正するので教えてくだされー。

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