POSITISM

適度に適当に。

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FARFALLA - 09 -


ハコニワノベル

「そう言えば、テラはなんでロケットに?」
「えーと、ファルファッラに行ってみたかったんだ」
「ファルファッラ?」
「うん。夜ね、空を見上げるとたまに見えるんだ、ファルファッラ」
「空? 空って、天井のこと?」
「違うよ、空は空だよ。夜になると星が見えるんだ」
「へぇ。でもさ、そのファルファッラを目指してたのにどうしてフィオーレに?」
「えーとね、どうやってここに辿り着いたか解らないの。本当は私の乗ってたロケットじゃ、ルーナにさえ辿り着けないロケットだったんだ」
「ルーナ?」
「うーんと、ファルファッラとの間にある星だよ」
「目的地の間にある星にすら行けないロケットで、どうやってここまで来たんだろう」
「本当は着陸しないといけないタイミングでね、どうしてもファルファッラへ行ってみたくてさ。辿り着きますように。って祈りながらチキューの外へ進路を取って、酸素が無くなりそうだったから緊急用の液体酸素に浸かったの」
「そ、それってさ、運任せってこと?」
「そういうこと!」
「あ、危ないことするなぁ」
「だけどさ、ファルファッラには到着しなかったけど、フィオーレ……だっけ? には無事に到着したじゃない。結果オーライだよ」
「いや、無事とは言い辛いと思うよ」
「あはは、それもそうか」
「あれ、ちょっと待ってよ。今の話を整理すると……、テラってフィオーレじゃない星からやって来たってことだよね? どこの星から来たの?」
「チキュー」
「チキュー?」
「そうだよ」
「えーと、ね、テラは宇宙人なの?」
「ん? 私は人類だよ?」
「と言うことはさ、そのチキューって星は人が住める……、いや既に住んでるってこと? ?」
「当たり前じゃない」

 驚きのあまり立ち上がってしまった。テラは、人類の住む別の星からやって来たらしい。と言うことは少なくとも一つ、この宇宙の中にフィオーレ以外に人が住むことの出来る星があるってことだ。リベルラの社員の話や、学校の授業では、フィオーレは人類に残された最後の場所だと聞いていた。だけど、実際には別の星にも人類は住んでいるということになる。これは、もしかすると大発見なのかも知れない。

「私の乗って来たロケットは一回のみの使いきりだから、もうチキューには帰れないなぁ」

 突然、少しだけ寂しそうにテラが呟いた。その視線の先には空になったカプセルが転がっている。僕も同じようにカプセルを眺めていた。

「テラはさ、チキューに帰りたい?」
「……それはそうだね」

 そのまま二人とも無言でカプセルを眺めたままになった。ふと、テラがこのカプセルに乗ってフィオーレに衝突した瞬間が、頭の中に蘇る。まるで流れ星のように輝きながら、フィオーレに衝突した。本来ならば、チキューへの着陸時に見られるものだったに違いない。宇宙空間から空気の壁にぶつかって、その壁にめり込みながら着陸していく。――着陸? はっとした。

「もしかしてさ、このカプセルってアブレータ使ってない?」
「アブレータ? って何?」
「このカプセル使えなくなってるならさ、僕にくれない?」
「べ、別にいいけど何するの?」
「もしかしたら、テラをチキューに帰してあげられるかも」
「え? ほ、本当に?」
「うん。とにかく、このカプセルを運ばないと」

 カプセルを古びた台車に乗せるために持ち上げようとしたけれど、重たくて持ち上がらなかった。苦労しているとテラが「手伝うね」と軽々とカプセルを台車に乗せてしまった。
 二人して外に出ると、いつものようにエレベーションが自動的に僕達を運び始める。テラは最初だけ驚いていたけれど、途中から楽しんでいるみたいで笑っている。未だに慣れない浮遊感が終わり、困難を予想していた家の前の五段しかない階段も、二人で協力して簡単に乗り越えることが出来た。テラは女の子の割にとても力持ちだと思う。

「おいおい、これは何の間違いだ? ペーシ」
「おや? あのゴミ臭いミツルが女の子と一緒にいますよ、カンクロさん」

 家を出たところで一番会いたくない奴らに会ってしまった。そうか、もう学校は終わってる時間だ。カンクロとペーシはニヤニヤしながら近付いてくる。

「ミツル。お前、今日はお腹の調子が悪いんじゃなかったのか? 俺、心配で心配でよ。様子を見に来てやったってのにお前、なに女とイチャイチャしてるんだよ!」
「これは完全にサボりだ! 明日はミツルがトイレ掃除ですね、カンクロさん」
「ゴミ臭いのに加えてトイレ臭くなったら近寄れねぇな」
「ほんと、臭い臭い」
「おい、そこの女。そいつはな、みんなにコソコソ隠れながらゴミあさりしてるような、ゴミ臭いやつなんだぜ? だから、その、なんだ。俺と一緒に来いよ」
「……」

 無視して行こうとすると、テラが立ち止まったまま動かなかった。

「テラ? ほっといて行こう」
「おいおい、無視すんなってゴミ野朗」
「……バカにすんな」
「え? テ、テラ?」
「あー、なんだって? 今、何か聞こえたか、ペーシ?」
「いいえ、何も聞こえませんでした」
「そうだよな? このカンクロ様に口ごたえするわけないよなぁ」
「バカにすんなって言ったんだよ!」
「おいおい、女のくせに俺に歯向かうな。いい加減にしないと痛い目見ることになるぞ」
「そうだぞ。カンクロさんを怒らせると痛い目見るぞ」
「いい加減にするのはそっちの方だ」
「テラ! もういいって。早く行こう」
「命の恩人をバカにされて黙ってられないの!」
「本当にいいんだって、ほっとこうよ」
「おい、そこのデブ!」
「待て、待て、女。俺の見間違いだよな? 今、俺を指差してなかったか?」
「み、見間違いですよ! カンクロさん! うん、絶対そうだ」
「見間違い? 寝ぼけてるの? おデブさん」

 テラがビシッとカンクロを指差しながら笑っている。ペーシがアワアワしながら、テラとカンクロを見比べて後ずさりをしている。なぜなら、カンクロが誰が見ても簡単に解るほどに、顔を真っ赤にしながら怒っているからだ。どうやらカンクロに対して「デブ」はタブーらしい。

「女だと思って手加減すると思うなよ、全力でボコボコにしてやる」
「女だと思ってバカにすんなよー? 一瞬でぶっ飛ばしてやる」
「ちょ、テ、テラ? まさか何かするつもりなの?」
「ラリアット」
「は?」
「だから、ラリアット」
「いや、無理だって! あいつはさ、ほんと凶暴で強いんだって、女の子じゃ勝ち目なんて……」

 瞬きほどの瞬間が過ぎ去ると、目の前からテラが消えていた。もう一度瞼が閉じて再び開くと、僕の目にはテラのラリアットで一回転――いや、一回転半ほど回転してうつ伏せに倒れたカンクロの姿が映った。その次の瞬きの後には、ペーシが二回転して仰向けに倒されていた。

「お前……、何者……だ……?」
「私は、チキュージンだ!」




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FARFALLA - 10 -


ハコニワノベル

「スッキリしたぁ!」

 テラは晴れやかな笑顔だ。僕達はうずくまったままのカンクロとペーシを置き去りにして、倉庫エリアに向かって行く。辺りは次第に照明が落とされていく。夜が訪れようとしていた。

「ねぇ、どうやってチキューへ?」
「このカプセルからアブレータを取り外せば、多分行けると思う」
「どういうこと?」
「僕ね、さっきのカンクロとペーシが言うように、ゴミを集めてる。もちろん興味のない人にとってはゴミだけど、僕にとってはゴミじゃなくてさ。僕の集めているのはロケットの部品なんだ」
「それって、ロケットを作ってるってこと?」
「うん」
「すごい! ミツルってロケット作れるの?」
「カプリコルさんっていう人に教わりながらだけどね」
「そのロケットに私を乗せてくれるのわけね」
「うん。僕のロケットでチキューに行けばいいんだよ」

 台車を押しながら、倉庫エリアの端っこへ。トレードマークの黒猫を確認しながら倉庫へ入る。倉庫の中で、少しだけ深い緑色のシートを捲った。今まで自分以外ではカプリコルさんにしか見せた事のない、僕のロケットをテラに見せた。

「すごい……これ、ミツルが作ったんだよね」
「ま、まぁね」
「ほんとすごいよ、私が乗ってたロケットよりもずっと大きいもん」

 テラは僕が転がすだけでも精一杯だったカプセルを、はしゃぎながら何度も持ち上げたり下ろしたりを繰り返した。さっきカンクロを一回転半もさせたことを思い出して、少しだけテラが怖い存在に思えた。テラに叩かれたりしないように気をつけなければ。

「ん? おいミツル。この子はガールフレンドか?」

 突然の声にテラが驚いた。声の方向に振り向くとニカニカと笑っているカプリコルさんだった。

「あぁ、カプリコルさん! えっと、この子はテラ。その、えーと、落ち着いて聞いてよ?」
「チキュージンじゃな」
「へ?」
「お嬢さん、あんたチキュージンじゃな?」
「そうだよ」
「チキュージン?」
「チキュージンはな、とっても強いんだ。フィオーレに住むワシらじゃ勝てんよ」
「この人がミツルにロケットの作り方を教えてる人?」
「そう、カプリコルさんって言うんだ」

 カプセルに取り付けられていたアブレータを取り外す。一人乗りの小さなロケットは、そのほとんどがアブレータになっていて、驚くほど多いアブレータが手に入った。そのアブレータを僕のロケットに取り付けていく。その作業を進めながら、カプリコルさんにテラがやって来たときの話をした。

「なるほど。外でリベルラの社員が慌しくしてるのは、お嬢さんがやって来たからか」
「外で何かあったの?」
「んー、リベルラの社員共がな、外で何かを探してたんだよ。一人や二人じゃない、何十人って数がいたな」
「お爺さん。もしかしてそれって、私を探してるの?」
「だろうな。フィオーレじゃ、他の星から人がやって来たなんてこと、公にしたくないだろうから」
「もし見つかったら大変だ」
「ミツル、お前本当にチキューに行くのか?」
「うん。テラをチキューに連れて行ってあげないといけないし」
「あのな、今まで特に止めることなんてしてないが、本当は外に出ることすら大罪だ。ましてやロケットを飛ばすとなるとそれ以上のことになる。お前、それでも行くか?」
「もちろん」
「はっはっは、ロックじゃのう! よし解った、このロケットはワシがカタパルトまで運んでやる。リベルラの社員共に気付かれないように、第三カタパルトに設置してやるわい」
「出来るの? そんなこと」
「フィオーレの外に関しちゃ、ワシより知っとるもんはおらんよ」

 僕のストラトキャスター。二年ほど手がけた僕のロケットは、カプリコルさんによる最終チェックで発生した修正と調整を三日ほど倉庫に寝泊りしながら繰り返して完成した。ロケットの設置をカプリコルさんに任せて、僕とテラは一度家に戻ることにした。

「テラ、ごめんね」
「え? なにが?」
「いや、せっかく辿り着いたのにさ、なんだか逃げ帰るみたいになっちゃってさ」
「そりゃぁ、もっとここにいたいけどさ、ミツルのロケットがあればいつでも来れるじゃない。だからさ、たまに迎えに来てくれればいいよ」
「もちろん、何度でも迎えに行くよ」
「やったぁ! それなら何も問題ないじゃない。私はただ家に帰るだけなんだし」

 家に戻り、チキューへ行く準備を終えて寝ようとすると、なぜかテラに怒られた。「レディと一緒に眠るつもり?」と良く解らないことを言われ、なぜか僕は廊下で眠ることになった。




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11へ≫

FARFALLA - 11 -


ハコニワノベル

 目が覚めると廊下で眠ったせいで身体が痛かった。テラはまだ眠っていて、なぜかその姿を見ているとドキドキした。テラが眠っているうちに朝食を頼む。今朝もヴェルネさんじゃない社員が応対してくれた。朝食が届いてからテラを起す。

「テラ、起きて。ねぇ、起きてってば」
「……ふぇ? あたし? あたしが女王なの?」
「なに寝ぼけてるんだよ」
「あたしが、学園祭の女王? まぁ、この可愛さなら仕方な……あれ?」
「あはは。おはようテラ」
「お、おはよう」

 二人前頼んだサンドウィッチを食べてから、僕達は家を出た。まだ時間が早いからなのか、誰も外に出ていない。リベルラの社員がいるかどうかを少しだけ警戒しながら、僕達は倉庫エリアに辿り着いた。
 いつもの倉庫の中に入り、ロケットがそこにない事を確認する。立て付けの悪いロッカーの中に、スペースジャケットが二着入っていた。エアタンクも二つある。カプリコルさんが準備してくれたのだろう。テラとそれを身に付ける。
 第三カタパルトの位置を確認し、倉庫の奥の分厚い扉を三度越え、不安定な浮遊感を感じたその瞬間、僕達に沢山のサーチライトが浴びせられた。それとほぼ同時にスペースジャケットの通信が入る。

「やはり旧八番ゲートでしたか」
「誰?」
「私はリベルラ社の社長、ウラーノと申しますよ、XB03026君」
「なんでここに……」
「別に君には用はありません。隣にいるレディに用があるんです」
「私はあんたに用なんてないけど?」
「あなたに用がなくとも、こちらには大有りなんですよ。このフィオーレはリベルラ社……いや、この私が管理しているおかげで、常に平和を保っているのです。誰も何も不安に感じることもなく、くだらない争いのない完全なる平和。それを維持していくためには、不変でなくてはならないのです。何者も外に出ず、何者も中に入れず。それがこのフィオーレの掟。だからあなたのような存在は困るのですよ。だから、誰にも知られる前に、大人しく処分されてくださいね」

 サーチライトの中央に映る影は坦々とそう言うと、腕を上げて前に振り下ろした。それを合図にリベルラの社員がじりじりと迫ってくる。とっさに部屋の奥にある三重の扉へ移動して、キーロック解除を試みた。しかし解除できない。

「旧八番ゲートは封鎖させて頂きましたよ。逃げ場はありません。観念しなさい」

 何度キーロックを解除しようと思っても解除できない。きっとパスワードを変えられてしまったのだろう。そうこうするうちにロックを解除できない扉を背に、完全に取り囲まれてしまった。

「んもー、めんどくさいなぁ!」
「テラ? もしかしてさ……」
「ラリアット」

 そう言い終ったかと思うと、取り囲んでいたリベルラの社員が吹き飛んでいく。浮遊状態だとそれは見事なほど吹き飛んでいった。気が付くとリベルラの社員は、全員反対側の壁にぶつかって山積みのようになってしまっていた。

「乱暴なレディですねぇ。なるほど、あなたはチキュージンですね?」
「それが何よ。心配しなくてもあんたも同じように吹き飛ばしてあげるわ!」
「おぉ、怖い怖い。でも、それは辞めておいた方がいいですね」
「そうやって人を見下してると、痛い目みるわよ」
「ははは。見下す? バカを言わないでください。見下してなんかいません。ただ、この私がこのフィオーレで絶対の存在だと言うだけですよ。誰もが知らないうちに私によって管理される。そしてそれが人類の最大の幸せなのです。それを脅かす存在は処分しなくていけないのですよ」
「そう言うのを見下すって言うのよ!」

 テラが物凄いスピードでウラーノ目掛けて突進していく。ウラーノはそれをヒョイと避けた。バランスを失ったテラはサーチライトに突っ込んでしまった。吹き飛ばされたサーチライトの一つがウラーノを照らし出す。

「もういっちょ!」

 照らし出されたウラーノに突進するテラ。ラリアットがウラーノに当たった。確かに当たったはずだ。それなのに、ウラーノは微動だにしない。ウラーノは驚いているテラのスペースジャケットの胸倉を掴むと、そのままテラを持ち上げてこう言った。

「私もね、チキュージンってやつですよ」




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12へ≫

FARFALLA - 12 -


ハコニワノベル

「離せ!」
「いいえ、離しません。あなたはこのフィオーレにとって危険因子。だからここで処分します。チキュージンと言えど女のあなたでは、男の私には力で及ばない。残念でしたねぇ。あぁ、そうだ。最後になぜあなたはここに辿り着いたのか聞いておきましょうか」
「ファ、ファルファッラに行きたかったんだよ」
「ファルファッラ? そんな星は存在しませんよ。あなたはありもしない星を目指して、チキューを飛び出したのですか? くっくっく、はっはっは。実にくだらない。チキューで何も知らず生きていればいいものを。ファルファッラ? なんだそれは。はっはっは……」
「何が可笑しい! 何が、可笑しい!」

 テラの声が涙目になっている。僕はウラーノに飛び掛った。

「テラを離せ! 離せよ! 離せ!」
「おやおや、XB03026君。君の力じゃどうしようもないと解らないのですか?」

 言われた通り、僕の力ではウラーノの、テラを持ち上げている腕すら下ろさせることも出来ない。殴っても、蹴っても結果は変わらない。許せない、許せないのにどうすることも出来ない。悔しくて泣きそうになる。めんどくさそうにテラを掴んでいない手で振り払われると、僕はそのまま壁まで吹き飛ばされた。

「ちくしょう! テラを離せ!」
「力なき者は、いつの時代も、力ある者に、屈服させられる。そういうものです」
「離せ! この野朗! 私は、ミツルのロケットに乗るんだ!」
「やれやれ。あんなガラクタ、飛ぶわけないでしょう。それにあなたはここで処分されるから、ロケットにただ乗ることも出来ませんが」
「ミツルのロケットをバカにするなっ!」

 テラが掴み上げられながら何度もウラーノを蹴っている。僕は何も出来ずにいる。

「あれは、ガラクタなんかじゃない。僕の、僕のストラトキャスターだ!」
「XB03026君。夢を見るのは自由ですが、実現の可能性がない夢は見るだけ無駄ですよ?」
「これからそれを実現させてやるんだ!」
「これだから子供というやつは……。まぁ、いいでしょう。君よりもまずは、この危険因子を処分しなくては」
「離せ! 離せよ、おっさん!」
「言葉遣いも乱暴で下劣。まったく、チキューという星はどうして徹底した管理を行わないのだ。自分がチキュージンであることにすら嫌悪感がありますよ」
「私もあんたと同じチキュージンだと思うとやってられないわよ!」
「それなら安心しなさい。このエアタンクを外してしまえば、あなたはチキュージンでもなんでもなく、宇宙にただようチリのひとつになれるのですから」

 ウラーノの腕がテラのエアタンクに伸びる。突然、「シュー!」と言う音がしたかと思うと、誰かがウラーノの目の前に飛び込んで来た。

「な、なんだコレは?」

 ウラーノがバランスを崩している。どうやらスプレー缶でスペースジャケットのフェイス部分を塗りつぶされているようだ。別のもう一人がウラーノの隙を突いてテラを下ろすと、そのまま腕を押さえた。スプレーをした側は足を押さえている。

「ミツル! 何ボーっとしてんだよ! 早く行け!」
「そうそう。早く行けよ」

 その二人組みはカンクロとペーシだった。「辞めろ」と言いながら暴れようとするウラーノを押さえ付けている。ウラーノは、いつのまにかスペースヨーヨーを手足にぐるぐると巻き付けられて、上手く身動きが取れなくなっているようだ。

「カンクロ、ペーシ。な、なんで」
「はぁ? 勘違いするなよ。俺はな、お前じゃなくてテラさんを助けに来たんだ」
「そうだそうだ。お前のためじゃないぞ、ミツル。テラさんに会いたくてずっとつけてたなんてことしてないからな」
「あ、ありがとう。――えーとカンクロだっけ? それからペーシ」
「いいんですよテラさん。俺達、テラさんのためだったら何でもしますから。 おいミツル! お前が何をしようとしてるのか良く知らねーけど、テラさんを頼んだからな!」
「頼んだからな!」
「う、うん。だ、だけどキーロックが……」

 そう言い終わる前に、扉の方からピッピッピとキー入力の音が鳴る。驚きながら振り向くと、そこにはヴェルネさんがいた。

「ヴェルネ、貴様裏切るのか?」
「あら社長、女はいつでも夢見る男性に惹かれるものですわ」

 ――ガタン、シュウィン! ウィン! ウィン!

 三重に閉じられた扉が開く。




≪11へ
13へ≫

FARFALLA - 13 -


ハコニワノベル

 カンクロ、ペーシは外を見ながらしきりに驚いていた。テラの手を取って外へ向かう。

「ミツル君。リベルラの社員は、さっき私が流した嘘の指示で第三カタパルトとは反対にある第一カタパルトに集まってるわ。だけどすぐに嘘がバレて第三カタパルトに向かうだろうから、今のうちに行きなさい」
「ヴェルネさん、もしかして知ってたの?」
「うふふ。カプリコルさんと私はずっと前からの知り合いよ。あなたのロケットを運ぶのも手伝わせてもらったわ。さ、今はおしゃべりしてる暇はないわ、さっさと行きなさい」
「でも、なんで……」
「フィオーレの姿は間違ってる。私がそう思ってるだけよ。ほら、いいから行きなさい」
「あ、ありがとうヴェルネさん!」

 中とは違う浮遊感の中を駆け出す。テラの手を取って連れて行こうと思っていたのに、気付けば僕がテラ引っ張られる形になっていた。ヴェルネさんの言った通り、ぱっと見回してもリベルラの社員はいない。視線の先に第三カタパルトが見える。

「おぉ、無事に出れたようじゃな」
「カプリコルさん」
「ワシがカタパルト射出してやるから、乗り込んだら連絡するんだぞ」
「解った」
「お嬢さん、短かったがまた遊びに来なさい」
「うん。お爺ちゃんもチキューに遊びに来てよ」
「そうさせてもらうさ。……ありゃりゃ、ミツル。リベルラの社員共がどうやら気付いたらしい」
「解った。カタパルトまでもう少しだよ」
「これ以上の通信はワシの場所がバレてしまうから切断するぞ。ロケットに乗り込んだら連絡してくれ」
「了解」

 テラのスピードに振り回されながら、第三カタパルトが近付いて来た。すると後ろの方からサーチライトが照らされ出した。振り向くとリベルラの社員が操縦していると思われるバギーが、物凄いスピードでこちらに向かってきている。

「うわ、早いな」
「ミツル、ちょっとスピード上げるよ」
「え? 今まで押さえてたの? ……って、わっ!」

 テラが地面を蹴るたびに、腕が千切れるかと思った。その代わり、グングンとカタパルトは近付き、僕のストラトキャスター――ロケットに辿り着いた。後ろからはリベルラの社員が追いかけてきている。急いでロケットに乗り込んだ。

「カプリコルさん! 乗り込んだよ」
「よーし、了解。カタパルトの角度は調整済みだからな。フィオーレを離れたら特に何もしなくていい。そのままの軌道でチキューの衛星軌道に入る。そしたらチキューへの着陸操作だけで着陸が出来るはずだ。圧縮酸素の残量はどうだ?」
「ロケット内は満タンだよ。ありがとう、カプリコルさん」
「よーし、それならベルトしろぉ。発射するぞ」
「了解」

 シートに取り付けたベルトをセットする。テラも同じようにベルトをした。

「カプリコルさん、ベルトOKです」
「発射カウントダウン、5、4、3、2、1……0! ――あり?」
「ど、どうしたの?」
「ウラーノの奴め、カタパルトへの電力をシャットアウトしたな」
「そ、そんな」

 外を確認すると、ロケットのすぐ側までリベルラ社員が近付いてきている。

「カプリコルさん! こいつって燃料入ってる? 燃料による噴射で発射できないかな」
「そいつは無理だ」
「どうして?」
「いやぁ、急だったからなぁ。燃料はこれっぽっちも入ってない」
「それじゃぁ、もうどうしようも……」
「あ! いいこと思いついた!」

 テラはそう言うとベルトを外して立ち上がり、ロケットの外へ出て行く。

「テラ? 何してるの! 早く戻って!」
「だってこのままじゃ発射できないでしょ?」
「いや、それはそうだけど外に出てたら、リベルラの社員に捕まっちゃうよ!」
「大丈夫。ちゃんと私がロケットを発射させてあげるから」
「ちょ、ちょっと! テラ! 戻って!」

 僕の声が、スペースジャケットの通信が届いていないのかと疑うほどに、テラはロケットの後ろへと行ってしまった。ロケットのモニタで確認すると、カタパルトとロケットの間にテラは立っていた。その後ろ側にリベルラの社員の姿が確認できる。既にバギーから降りて包囲を始めている。素手ならばテラの方が強いとは思う。だけど確認できるリベルラの社員の手には、ラッジョ銃を持っている。あんなもので撃たれたら、どんなにテラが強くたってひとたまりも無い。

「テラ! リベルラの社員がそこまで来てる! とにかくロケットの中の方が安全だよ。だから戻って! 早く!」
「ミツル、絶対にチキューに辿り着いてよ?」
「え? 何? そんなの当たり前だよ」
「ちゃんと迎えに来てね」
「は? え? テラ? テラ?」
「私、ミツルを信じて待ってるから」

 モニタに映るテラは、いきなりエアタンクを取り外すと、カタパルトとロケットの間にエアタンクを置いた。あれじゃぁ息が出来ない。

「テラ! 何してるの! エアタンク! ちょっと待ってて、すぐ行く!」
「ミツルは……座ってて……」
「テラ! なにしようとしてるの?」
「だから……、私が……、ロケットを……、発射させ……て、あ……げる……」

 そこまで言うと、テラは思い切りエアタンクを踏みつけた。モニタに圧縮酸素の破裂で吹き飛ぶテラの姿が一瞬だけ見えた。
 ガクン。という衝撃。シートの奥へと引きずりこまれるような感覚。そして何かにぶつかるような衝撃。驚いて閉じていた目を開くと、僕のストラトキャスター――ロケットは飛び出していた。

「テラ! テラ! テラァッ! !」




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14へ≫

FARFALLA - 14 -


ハコニワノベル

 あの後私は病院にいて、腕に見慣れない時計のようなものを取り付けられていた。どうやらそれは力を抑えるものらしく、今までのように簡単に数メートル飛び上がったり、ラリアットで誰も彼もを吹き飛ばせなくなっていた。数日間の入院を終えると、私はリベルラの社員による監視の下、フィオーレの住人として生活を続けている。私を処分するという話はカプリコルさんが取り下げを申し出てくれたらしい。条件や制約はあるけれど、こうしてなんとか日々を過ごしている。

「テラちゃん。いらっしゃい。どう? 学校は」
「なんとも言えないよヴェルネさん。カンクロとペーシがヘコヘコするから、私のイメージ女王様みたいに勘違いされてて疲れるし」
「あら、あながち間違ってないと思うけど?」
「まぁね」

 ヴェルネさんはリベルラの社員を解雇され、今では喫茶店をやっている。でも、やっていることはリベルラの社員のときとあまり変わっていないらしい。私は学校が終わるといつもヴェルネさんの店に寄るようにしている。

「……ねぇ、ミツルのこと何か解った?」
「それがね、全然解らないの。さすがに一般のモニタじゃ、外の情報は探れないのよ」
「そっか……」
「ミツル君なら、きっと大丈夫よ」
「うん。私もそう信じてるけどね」

 一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎ、フィオーレでの生活にも慣れたころには三ヶ月が過ぎていた。日々は何も変わらない。変わったことは二つだけ。一つはカプリコルさんが入院したこと。もう一つは誰もがミツルの話をしなくなったこと。

「テラさん、鞄お持ちします!」
「いいってば、毎日毎日そんなことしなくていいよ」
「いや、このカンクロ、テラさんのためなら何でもします!」
「はぁ、ならさ、私のためにちょっと一人にしてくれない?」
「解りました! おい、いくぞペーシ!」
「え? あ! は、はい、待ってくださいよ、カンクロさん!」

 走り去っていくカンクロとペーシを目だけで見送ると、「はぁ」と深くため息が出た。見上げた天井は今日も青々と色付いている。チキューの空は色が安定しないから嫌だと思っていたけれど、こう毎日変わらない空はもっと嫌だと感じる。「空が見たいなぁ」そんなことを呟いてしまったら、そのまま家に帰りたくなくなって、ブラブラと当ても無く歩く。ふと病院が目に入ったのでカプリコルさんのお見舞いへ向かった。

「おぉ、テラちゃん」
「こんにちは。お爺ちゃん、調子はどう?」
「若いレディがお見舞いに来てくれたから、すぐに治っちゃうね」
「またそんなこと言ってると、担当の先生に怒られるよー?」
「それはマズいのぅ……、あの先生な、怒らすとほんと怖いんだわ」
「ぷっ……そんなに怖がらなくていいじゃない、あはは……」
「ほんとにな、シャレにならんぞ。この間も口ごたえしてたらな、高濃度酸素をダイレクトで送り込まれて、二、三時間気を失ったわ。目が覚めたら目の前に先生がいてな、勝ち誇った顔をしててな、それはそれは怖い思いを……ん?」
「……」
「……んー、そうか。テラちゃん」
「……え? あ、なに?」
「テラちゃん、口に出さんでもいい。心配じゃな? だけどな、あいつはあれでもイッチョマエの男よ。約束は絶対に守る。そうワシは信じてる」
「私も信じてる。信じてるけど、誰もがミツルのことを話さなくなって、このまま消えていってしまいそうで……、心配、心配だよ! ねぇ、ミツルは無事? ちゃんとチキューに辿り着いた? 約束、絶対守ってくれる?」
「大丈夫。あいつはちゃんとチキューに辿り着いてるさ。カタパルトの角度を設定したワシが言うんじゃ、間違いない。……大丈夫、大丈夫」
「……うん」

 ミツルが飛び出してから一年が経っても、毎日は何も変わらずに過ぎていく。歯を食いしばって、諦めてしまいそうな自分を振り払う。それでも徐々に、心に出来た隙間から何かが入り込んでしまったように、ずっと信じようと決めていたことが揺らぎだしていた。




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