POSITISM

適度に適当に。

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第09回ハコニワノベルのキーワード募集!


ハコニワノベル

 宇宙を作り上げることはできないけれど、
 部品があればロケットだって作れる気がする。
 だからそれを確かめてみようと思うんだ。


という目標と目的があり、今回で第09回目の開催となりました。
またみなさんの【キーワード】という部品を下さいませ。



ハコニワノベルとは?(概略)


この記事のコメントに
物語の【キーワード】を、読者である皆さんに書いてもらい
その【キーワード】を元にしのめんが物語を綴るという仕組みです。

例)
 第08回のキーワード募集記事(コメントが【キーワード】です。)

 出来上がった物語


 【キーワード】を書き込んで頂く場合の注意点は以下。


※注意事項
・【キーワード】をコメントで書き込んでください。
 (あらすじのようなものはスルーします。)
・お一人様につき、【キーワード】の投稿は1つまで。
・コメントしてくれた方を無断で物語中に登場させる恐れがあります。
 (それは困る!って方はコメントにでも書いておいてください。)
・何かしらの展開は無いとは思いますが
 出来上がった物語の権利はすべてしのめんにあります。
・書き込まれた【キーワード】をしのめんが曲解して扱う場合があります。
実在する人物、団体名はお控え下さい。



 ※重要!【キーワード】の募集締め切りは 2008/09/02 23:59 まで。
 2008/09/02 23:59で募集を締め切りました。



■個人的な意識表明!

 08回が不甲斐ない結果になってしまったことが
 個人的にどうしても許せない!
 忙しいとか、時間がないとか言ってられない。
 誕生月でもあるこの九月の物語、ちょっと魂込めて書きます!

 キーワード、ばっちこーい!




気軽な【キーワード】投稿をお待ちしております!
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FARFALLA - 表紙 -


ハコニワノベル



■ もくじ ■

01(第一話)
02(第二話)
03(第三話)
04(第四話)
05(第五話)
06(第六話)
07(第七話)
08(第八話)
09(第九話)
10(第十話)
11(第十一話)
12(第十二話)
13(第十三話)
14(第十四話)
15(第十五話)
16(第十六話)
17(第十七話)
18(第十八話)
19(第十九話)
20(第二十話)
21(第二十一話)
22(第二十二話)
23(第二十三話)
24(第二十四話)
25(第二十五話)
26(第二十六話)
27(第二十七話)
28(第二十八話)
29(第二十九話)
30(第三十話)
31(第三十一話)
32(第三十二話)
33(第三十三話)
34(第三十四話)
35(第三十五話)
fine(最終話)


FARFALLAの感想フォームはこちらハコニワノベルとは?


■ 頂いたキーワード ■

・誕生日おめでとうw(るどさん)
・蝉時雨(☆まりモさん)
・胡麻麦茶(黒さん)
・ベランダ(春野ひなたさん)
・未必の故意(じゅじゅさん)
・ヨーヨー(ミッチーさん)
・学園祭の女王(RUTYさん)
・しっぽの長い黒猫(なつめさん)
・金色の目(蓮火さん)
・ほっかむり(neco*さん)
・リンドウ(樹さん)
・アキアカネ(志津さん)
・秋桜(Rocheさん)
・ケイトウ(來弥さん)
・ストラトキャスター(ともさん)


※前回、キーワードを使うことが出来なかったため
 今回の物語に前回のキーワードも全て盛り込みました。
 (以下、前回のキーワード)


・忘れ水(☆まりモさん)
・メダル(なつめさん)
・幕末(黒さん)
・入道雲(志津さん)
・満天の星空(ミッチーさん)
・黒猫(るどさん)
・ユーフォニアム(奏湖さん)
・永遠の友情(あやさん)
・みちくさ(じゅじゅさん)
・はちまき(タイキ≒蓮火さん)
・初恋(春野ひなたさん)
・本当のこと(ともさん)


※この物語は若干ノンフィクションです。
実在する人物、団体、その他とは一切関係ないこともありません。

FARFALLA - 01 -


ハコニワノベル

 僕たち人類は、星を二つ滅ぼした。

 一つ目は青い星。

 二つ目は黄色い星。

 三つ目はこの星になるのだろうか。



 退屈な授業がやっと終わり、僕は一目散に教室から抜け出した。廊下へ飛び出した瞬間に身体が少しだけ浮かぶ。これは乗った人を自動的に運んでくれるエレベーションと呼ばれるもので、沢山の人が使う建物内では設置が義務付けられている装置だ。だけどエレベーションは急いでいるときには煩わしいものに他ならない。ゆっくり歩くよりも少し早いぐらいの速度で勝手に進んでいく。別に早くなるわけでもないのに空中で足踏みをしてしまう。廊下を進んで階段を下りて、また廊下を進んでいく。途中で他の人を入れるために何度か止まる事だってある。やきもきしながらやっとの思いで校門に到着すると僕の両足は久しぶりに地面を踏みしめた。

「おやおや? なんだかゴミ臭くないか?」
「ほんとですねぇ…、あぁ解りましたよ、カンクロさん。ほら、あそこにミツルがいます」
「んー? あぁ、ほんとだ。どおりでゴミ臭いわけだな、ペーシ」
「ほんとほんと、臭い臭い」
「おいミツル。お前またゴミあさりに行くのか?だったらこれやるよ、受け取れ…よっと!」

 何かが飛んで来て、僕の顔面にぶつかった。驚いて尻餅を付く。どうやら太っちょのカンクロが振りかぶってペットボトルを投げ付けてきたみたいだ。

「おいおーい、大切なゴミだろ? ちゃんと受け止めろよ」
「いやいや、カンクロさん。ちゃんと顔面で受け止めたんですよ」
「そうか、そうかもな。はっはっは!」

 この二人は学校内でも有名ないじめっ子で、カンクロは力も強くボスを気取ってる。一方のペーシはチビで力もないくせに、カンクロの背中に隠れながら弱いものいじめをするやつだ。僕は転がったペットボトルを拾い上げてから走り出す。

「大事そうに持って行きますよ、カンクロさん」
「おい、ミツル! 大切にするんだぜ!」
「ははははは…」

 二人のバカにした笑い声を背中に聞きながら走る。角を曲がって階段を駆け上り、橋を渡った先にあるゴミ箱にペットボトルを投げ込んだ。

「僕はゴミあさりなんかしてない!」

 誰もいない場所で反論しても無意味だ。叫んだあとで空しくなる。一度深呼吸をしてからまた走り出す。僕はこんなことで落ち込んでいる場合じゃない。僕の未来、いや人類の未来は僕にかかっているかもしれないのだから。
 僕たちが生活をしているこの巨大人工衛星フィオーレには四千万人ほどの人が暮らしている。そしてその数は人類の総数でもある。人類の歴史の中で一番繁栄していた時代には七十、八十億という人がいたという記録がある。その頃の人類は青い星い住んでいたのだけれど、環境破壊による温暖化で星中の氷が溶け、人々が暮らしていたほとんどの大地が水没し、更に続く温暖化の影響で星全体で水の気化による急激な寒冷化で、人類はおろか他の生物もそのほとんどが生きていけない星になった。人は最悪の事態を免れるために黄色い星への移住を進めていくことになるけれど、移住できたのはほんの数億人だけだった。やっとの思いで黄色い星へ移り住んだ人類が平穏に暮らした時期は短い。
 新たにスタートした人類の生活の中で、我先にと権力を欲する者たちが現れる。やがてそれは争いになり、争いは次第に他者を巻き込む戦争へと姿を変えていく。激化する戦争の影響で黄色い星は簡単に崩れ始めていて、人類がそれに気が付いた頃には、既に黄色い星の崩壊は誰にも止められないものになっていた。崩れた黄色い星のコアを使って、新たに人類が生活する環境を構築するハコブネプロジェクト、通称ノア計画が急ピッチで進められ、なんとか逃げ延びたのが僕たちの何世代か前の人たちになる。とにかく人類はそうやって簡単に星を滅ぼしてきた。
 このフィオーレを統括し管理しているのはリベルラ社という一企業だ。ノア計画の中心出資企業でもあったらしい。リベルラ社はフィオーレにおける人の生活を、争いが起きないことを最優先にしている。だからフィオーレには人類が長く使ってきたお金という概念がまったくない。過去の人類の過ちはお金による優劣から発生する小さな争いが、すべての火種になっていることが多いらしい。リベルラ社が管理を行うようになったのはほんの数百年前かららしいけれど、それ以降フィオーレで争いらしい争いが起きた記録はどこにもないところを見ると、リベルラ社の管理が人類にとって間違っているものではないのだと思う。
 沢山の倉庫が立ち並ぶエリアを駆け抜ける。三つ目の倉庫を右に曲がって更に四つ。今度は左に曲がる。そこに積み上げられているコンテナによじ登ると見えてくる僕の秘密の場所。尻尾の長い黒猫のマークが付いているのが目印の、今は誰にも使われていない倉庫だ。コンテナの反対側に下りて一番はじっこの、ところどころがボロボロになったその倉庫へ向かう。いつ割れたのか解らない窓から中へ入ると、居住区では行き届いている空調が、ここらにはないため妙に埃っぽい。鞄を投げるように置いて奥へ向かう。ガタガタと立て付けの悪くなったロッカーから、スペースジャケットを引っ張り出して身に付ける。ロッカーの横に置いたエアタンクの残量を確認してから装着した。更に倉庫の奥にある妙に分厚い扉を三度越えた先にある部屋へと進む。既に身体がふわふわと浮かんでくる。エレベーションのように一定の高さで安定はしないため、歩くのもなかなか難しい。部屋の奥にある扉に取り付けられたキーロックを慎重に解除する。

 ――ガタン、シュウィン! ウィン! ウィン!

 三重に閉じられたその扉が開くと目の前数千、数万、いや数億の星が輝いている。ここはフィオーレの居住スペースの外だ。こうやって勝手に外に出ることは禁止されている。だけど僕には人類の未来を救う使命がある。

「この中の一つぐらい、人類が住める星があるはずなんだ」

 僕は人類の四つ目の星を見つけようと思っている。誰もがもう人類は自ら滅ぶようなことはしないと信じているけれど、きっと人類は同じ過ちを繰り返してしまうはずだ。惑星ヴェーネレ、惑星マルテを人が住める星にしようとテラフォーミングを進めているらしいけれど、仮にそれが成功したとしても、人が住めるようになるまでにはあと数百年ほど時間がかかってしまうらしい。もしかしたら僕が生きているうちにフィオーレが滅びるようなことがあるかもしれない。だから僕は、僕自身の力で四つ目の星を見つけるんだ。
 飛び跳ねるようにしながら、いつもパーツを探しているポイントに移動すると先客がいた。

「カプリコルさん!」
「おー、ミツル!」

 スペースジャケットの通信機能で会話をする。この人は僕に夢の叶え方を教えてくれた人だ。




02へ≫

FARFALLA - 02 -


ハコニワノベル

「どうだミツル、お前のロックンロールの進み具合は?」
「あとは太陽電池パネルとアブレータがあれば、痺れる音になるよ」
「んー、太陽電池パネルなら、さっき向こうで見たなぁ」
「ほんと? 僕ちょっと取ってくる」

 三年前、僕は行き場を無くして倉庫エリアをうろついていた。学校に行けばカンクロとペーシに狙われるし、それでなくても授業は退屈で仕方がなかったからだ。毎日倉庫エリアをうろついていると、自然とお気に入りの場所が出来る。それは真っ青なコンテナに四方を囲まれている場所で、そこで見上げる天井はいつもより清々しく見えていた。
 ある日、いつもと同じようにその場所へ行くと見知らぬ爺さんが眠っていた。あまり清潔とは言えない身なりで耳には大きなヘッドフォン、そこからこぼれ出しているボリュームの大きな音、音、音。しばらくして目を覚ました爺さんは僕に気が付くと抜けた前歯をむき出しにしながら、ニカニカと笑った。
 爺さんはカプリコルと名乗り、普段はこの辺りで寝泊りしていると言う。ヘッドフォンに付いて聞くと「聴いてみるか?」とヘッドフォンを僕の耳にかぶせた。最初爆発が起きたのかと思うほど、そのヘッドフォンから流れてくる音はボリュームが大きかった。それに加えて流れてくるのはどれも激しくて鋭い音の塊だった。

「ロックじゃ。ロックンロール」

 カプリコルさんはそう誇らしげに言った。旧時代の人たちが聴いていた音を保存しているCDというものから、この刺々しい音は再生されていた。最初はうるさいだけだったのに、いつしか毎日聞くようになって、今では聴いていると心が穏やかになることさえある。
 そうやって僕はカプリコルさんと仲良くなっていった。仲良くなるとカプリコルさんは外のことを教えてくれるようになり、最終的には僕を外へ連れて出てくれるまでになった。そして宇宙のスゴさ、可能性。これからの人類のことなど、学校では誰も教えてくれないことを沢山教わった。次第に僕は夢を思い描くようになる。

「人類が次に住む星を見つけたいんだ」
「そいつはいい、ロックじゃのぅ!」
「当たり前だろ、ジミヘンぐらいに掻き鳴らしてみせるんだ」
「よっしゃ、ならミツルにとっておきを譲ってやる」
「とっておきって何?」
「いいから付いて来い」

 そう言われて付いていった場所は倉庫エリアの隅っこにある、長い尻尾の黒猫が描かれた倉庫だった。そこに招かれた僕が見たものは、二メートルはある丸い球体と、同じ大きさぐらいの釣鐘のようなもの、それからそれらよりもう少しだけ大きな円柱の三つだった。

「これが何か解るか?」
「もしかして、これって…」
「ジミヘンを目指すならストラトキャスターぐらい持ってないとな」
「これ、ストラトキャスターって言うの?」
「あーん? ストラトキャスターってのはギターだギター!こいつはなロケットだ、ロケット」
「ロケット? これが?」
「そうだ、所々は破損してるけどな、これだけ状態がいいものは今じゃなかなか手に入らん」
「これ…飛べるの?」
「まだまだパーツは足りんし、そもそも燃料もない…が、それらが揃えば飛べなくはない」
「ほんとに! ?」
「ジミヘンぐらいに掻き鳴らすなら、ミツルにもミツルのギターがいるだろう?」
「カプリコルさん、僕、こいつ組み上げてみたい」
「ロックじゃのぅ!」
「こいつの名前、何って言うの?」
「船体に書かれてる文字からすると、こいつの名前は…ソユーズ!」
「ソユーズか。僕、こいつで絶対四つ目の星、見つけるよ!」

 随分前に落ちた人工衛星の残骸から、太陽電池パネルを引きずり出す。耐熱用に必須なアブレータはここらにはないみたいだ。それでも太陽電池パネルが見つかったのは大きい。しっかりと両手で持ってカプリコルさんの場所まで戻る。

「あっただろ?」
「あったよ、あった! これでアブレータが揃えばほとんど出来上がる」
「……ミツル、楽しそうだなぁ」
「楽しいよ。まぁ、学校のみんなはコスモヨーヨーとか言う子供だましのおもちゃが楽しいらしいけどね」
「ミツルも十分子供なのにのぉ? ふぁっふぁっふぁ!」
「子供な僕に、こんな楽しいこと教えたのカプリコルさんのくせに」
「違いない、違いない。ふぁっふぁっふぁ……んー? ありゃりゃ、面倒なのが来るなぁ」
「何? 監視衛星?」
「いいや、リベルラのやつらだな。今日はさっさと引き上げた方がよさそうだな」
「太陽電池パネルも手に入ったことだし、今日はもう十分だよ」
「そうと決まればさっさと帰ろう。笑いすぎてエアタンクの残量もギリギリじゃわい」
「それは本当に急がなきゃ」

 慌てて僕たちは中へと戻った。




≪01へ
03へ≫

FARFALLA - 03 -


ハコニワノベル

「カプリコルさん、僕、こいつを取り付けてから帰るよ」
「あんまり遅くまでやって捕まるなよー」
「はーい」

 スペースジャケットを脱ぎながら、僕は太陽電池パネルをどう取り付けるかばかりを考えていた。カプリコルさんはエアタンクに圧縮酸素を補給しに行ってしまったようだ。スペースジャケットを乱暴にロッカーに放り込んで、太陽電池パネルを手にして走る。
 外へと繋がる扉とは反対側に位置する場所に、縦長の物体が深い緑色のシートに包まれている。それを慎重に外すと、中からロケットが顔を出した。ソユーズ、僕のストラトキャスター。細かいパーツも含めると何千、何万というパーツを探しては取り付けるを繰り返して、ここまで組み上げるのに二年かかった。外でしか手に入らないパーツもあれば、中でしか手に入らないパーツもある。そのパーツを探してうろうろしているときにカンクロとペーシに見つかって、それ以来僕は「ゴミあさり」をしているとバカにされている。
 本体の一番下になる円柱の部分のサイドからパネル板を引き伸ばす。そこに手に入れた太陽電池パネルを一つずつ丁寧に溶接していく。バーナーの熱で倉庫は蒸し暑いし、溶解する金属と薬品の化学反応でなんとも言えない臭いが充満していく。太陽電池パネルを全部取り付け終わったのは、それから二時間半が経過していた。

「あとはアブレータ…それから燃料だな」

 耐熱版であるアブレータはどうにかなるとは思うけれど、問題は燃料だ。必要なのは別の星に到着してから帰ってくるための燃料。ここから打ち上げる時は燃料を使うのではなく、カタパルトによる衛星外への射出を考えている。そうでもしないと、とてもじゃないがロケットを打ち上げて衛星上の重力を振り切っていくだけの燃料を、リベルラなどに見つからないようにこっそり集めるのは不可能だ。そんな燃料事情を考えながら倉庫を後にした。
 フィオーレでは昼や夜という自然的な時間の区切りがない。それはこのフィオーレが常に太陽の方向を向くようになっていて、居住区は太陽とは反対側に存在しているのが大きな要因である。一応、ある規定時刻になると居住区の照明が徐々に落とされて、やがて薄暗くなっていく。それを夜だと呼んでいる。今がまさにその夜だ。
 夜になると自分の家以外の建物には基本的に入れなくなる。フィオーレに住む人たち全員は、左手の甲に薄いメダルが埋め込まれている。それぞれの管理IDや今までの生活上の記録などがこと細かく記憶されている。それが建物に入る場合のキーとなっている。普通の人は。
 僕の左手の甲に埋め込まれているメダルは、カプリコルさんが妙な装置でいじくってしまってから、なんだかおかしい。「発信機にな、イタズラしてやったんじゃよ」とか言っていて、しばらく意味が解らなかった。僕やカプリコルさん以外で外へ出た人が監視衛星に見つかって、逃走を試みるも簡単にリベルラに掴まり、未開拓地区の開拓作業という名の重労働ボランティアにされた話を聞いて、発信機という言葉の意味が解った。
 リベルラは人知れず僕たちを監視下に置いている。いつ、誰が、どこで、なぜ、何を、どのように、といったことはきっと簡単に解るのだろう。それに気が付いてからは、リベルラという組織自体がどうにも胡散臭く感じてしまっている。それに怪しいのは、特に外へ出た人を執拗に排除したがっているように感じる。常に太陽の方向を向いているのも不思議で、そのことをリベルラの人に聞いてみたことがある。

 ・太陽からのエネルギーを効率よく得ることで、無駄のないエネルギー資源を確保しています。
 ・太陽の光は強すぎるため、直視してしまう危険を排除しています。
 ・外に出ると太陽の光を直接受けてしまう可能性があるため、大変危険です。

 という、まるで誰かにこう言っておけとでも言われたかのような返答が返ってきている。益々、怪しい。どういう訳か太陽を隠したがっているように感じてしまう。隠されるとよけいに見たくなるもので、今ロケットを組み上げているのは、そういった秘密を暴いてやろうという思いもあるからだ。フィオーレには、いや、今の人類にはなんだか隠された部分が多い気がする。
 それはともかく燃料を――と考えを切り替えようとすると、自分の家の前まで帰ってきていた。中途半端な階段を上ってから、入り口で左手の甲をかざして中に入りエントランスを横切る。エレベーションで自室の前までは勝手に移動するのだけれど、どうにもこの安定した浮遊感が気持ち悪い。

 ――XB03026。僕の部屋番号であり、僕の管理IDでもある。エレベーションから開放されて中に入る。親はいない。いや、厳密に言えばこのフィオーレの中のどこかにはいる。でも誰が親なのか解らない。もちろん向こうも誰が自分の子なのかも解らない。人工授精による完全体外受精で現在の人類は繁栄を繰り返している。「血は争いの原因になりやすいため…」というリベルラの方針だ。実に計画的に人口は増加を続けている。
 部屋の中は必要最低限のものは揃っている。何か必要なものがあれば建物の管轄をしているリベルラの社員に伝えれば、遅くとも二時間後には大抵のものは手に入る。ただし、それが必要なものであった場合だけだ。確固たる基準があり、その基準から外れるものは手に入れられない。それで不自由だと思ったことはないけれど。
 手と顔を洗ってからモニタを付ける。管轄のリベルラ社員への通信を選択。

「すいませーん」
「はい、こちらリベルラ社XB地区管轄担当局です」
「あの、晩御飯をお願いしたいんですけど」
「かしこまりました。メニューはいかがなさいますか?」
「あっさりしたパスタでお願いします」
「あら、野菜はしっかり食べないとダメよ? ミツル君」
「あー、今日はヴェルネさんが担当の日か」
「なに? 私が担当だと不都合なのかしら?」
「いやそういうわけじゃ…」
「まぁいいけど、ベーシックパスタとスターサラダにしとくわね」
「また勝手にサラダとか付ける…」
「ちゃんとバランスよく食べないとダメなのよ」
「はいはーい」
「残してたら、解ってるわよね?」
「…は、はい」
「そ。解ってもらえてお姉さん嬉しいわぁ。それじゃぁね」

 どっと疲れた。ヴェルネさんはこの地区を管轄しているリベルラの社員。リベルラの人は皆機械的に仕事をこなしているのだけれど、ヴェルネさんだけは違う。真面目に仕事しているようには感じないけれど、悪い気分はしない。実際に何度か会って話したこともある。仕事は緩く、自分のポリシーには厳しくて、最近彼氏が出来ないことを嘆いている大人な女性だ。本当はダメなのだけれど、多少の我侭は許してもらっているありがたい存在だ。知り合いの家を管轄しているリベルラ社員は厳しすぎて、通信をするのにやたらと緊張するという。それを考えれば恵まれている。

 入り口のドア横にある受信ボックスのランプが赤く点滅した。

 中を開けるとベーシックパスタとスターサラダが届いていた。送信者のメッセージに「きちんと食べるように」と書かれていて笑った。そそくさとそれらを口に運んでいく。




≪02へ
04へ≫

FARFALLA - 04 -


ハコニワノベル

 朝。居住区の照明が明るくなる時間。残していたプチトマトはこっそりダストボックスへ放り込んでから、昨日の晩御飯のトレイを送信ボックスへ入れる。
 今日も学校へ行き授業を受けて、カンクロとペーシにいじめられながら放課後になったら外へ出る。そんないつもと変わらない一日になる。そう思うと妙にやる気が出なくなった。このまま朝から外へ出たらどうなるだろう。そう思ったけれど実行に移せない理由が一つある。それはカプリコルさんに「朝は外に出ちゃならねぇ、危ねぇからな」と言われていて、今まで一度も朝の間に外へ出たことがないからだ。何がどうして危ないのかは解らないけれど、カプリコルさんがわざわざ嘘を付くわけもない。本当に危険なのだろう。それに学校を勝手に休むと強制的に学内でのボランティア活動をさせられてしまう。今時オートクリーン機能をあえて取り付けていないトイレを、洗いたくもないのに洗わされるのは苦痛だ。
 朝食は食べる気にならなかったので、そそくさと着替えを済ませて家を出た。今日もいつもと変わらない一日になると思っていた。未だに慣れることのないエレベーションから開放されるまでは。

「やぁ、ミツル君。おはよう」

 ペーシだ。朝から気色の悪い笑顔で挨拶をしてきた。軽く辺りを見回してみるけれどカンクロの姿は見えない。

「おい、ミツル! このペーシ様が挨拶してやってんだ、挨拶ぐらいしたらどうなんだよ!」
「ペーシ…さま、ねぇ? まぁいいや、おはよう」
「何か言ったように聞こえたけど、それはまぁいいや。一緒に学校まで行こうぜ」

 カンクロがいない時、ペーシはなぜか偉そうになる。そしてペーシが気色悪い笑顔をする時は、大概よからぬことを考えている時だ。

「なぁ、ミツル。お前、俺の子分になれよ」
「嫌だ」
「なんだと! ? お前、せっかくこのペーシ様が誘ってやってるのに、なんで断るんだよ!」
「嫌なものは嫌だ」
「ふーん、お前いいのか? この誘いを断ったこと、カンクロさんに言いつけてやるぞ?」
「あのさ、そうやってカンクロの名前使うなよ。それ、別にお前が偉いわけじゃないだろ?」
「はぁ? 別にカンクロなんて関係ない! 俺がこの辺りで一番偉いんだ! カンクロなんてただ力が強いだけ。実は裏でカンクロに命令してるのは俺なんだぞ」

 ペーシの訳の分らない熱弁を聞き流しながら学校へ向かう。早足で歩いても、少し走っても、それでもペーシは着いてくる。学校まであと少しという所でペーシが急に僕のシャツを引っ張った。

「何?」
「さっきまでの話、全部忘れろ。いいな」
「何が?」
「とにかく、忘れろよ! ちくしょう、今日は休むって言ってたくせに…」
「はぁ?」

 視線を前に戻してその意味を理解した。威風堂々と仁王立ちをして行く手を阻む人影。その姿には同い年とは思えない貫禄さえ感じる。――カンクロだ。

「やぁ、諸君。おはよう」
「おはようございます、カンクロさん」
「…」
「ミツル君、君は挨拶ってものを知らないのか?」
「そうなんですよ、こいつさっきも私に挨拶しませんでした」
「ふーん。でもなんでペーシがミツルと一緒に学校に行くんだ?」
「いや、それは、その……」
「ペーシが僕を……」

 言いかけるとペーシが僕の口を押さえた。

「なんだって?」
「いや、なんでもないですよ、カンクロさん」
「怪しい。怪しいなぁ、二人とも」
「そ、そそ、そんなこと、ないですよ…な? ミツル君」

 こちらを見やるペーシの顔が物凄く必死に何かを訴えかけてきている。これ以上の面倒に巻き込まれたくなかったので、一度ため息をこぼしてから答えた。

「偶然途中でペーシに会ったんだよ」
「そ、そう!そうなんですよ、カンクロさん」
「本当かぁ? なんかうそ臭いぞ」
「それはそうとカンクロさん、今日学校は休むんじゃ…?」
「そのつもりだったけどな、俺がいないとお前ら寂しいだろ?」
「トイレ掃除が怖いんだろ」
「んー? おいペーシ、今ミツル何か言ったよな?」
「言いました! 絶対言いました!」
「よーし、俺に対する口の聞き方ってやつを教えてやる。ペーシ! ミツルを捕まえとけ!」

 歯をギチギチと食いしばりながら、怒りと笑顔の中間という気味の悪い表情でカンクロが近付いてくる。後ろからペーシが羽交い絞めにしてきた。

「ペーシ、今離さなかったら、さっき言ってたことをカンクロに言うぞ」
「そ、そんなこと出来るかよ」
「ふーん、じゃぁ言ってもいいんだな? おい、カンクロ。さっきペーシが…」
「わ! わ! わ!」

 いきなり羽交い絞めを解かれてバランスを崩した。もう目の前にはカンクロが迫っている。慌ててるペーシをカンクロの方へ押しやって、今来た道を戻るように駆け出した。

「待ぁてっ!」
「カ、カンクロさん! ミツルのやつ、さっきカンクロさんは力が強いだけの単細胞! って言ってました!」
「ミーツールー! !」

 ペーシの余計な一言で更に真っ赤になりながらカンクロが追いかけてくる。角を曲がってとにかく走る。後ろから物凄い足音と怒声が聞こえる。気になって少しだけ振り向くと、驚くほど近くまでカンクロが迫ってきていた。慌てて前に向き直る。息を吸い込んでから歯を食いしばる。呼吸を止めて腕を振った。次の路地を左に、それから階段、公園を抜けて、それからそれから、――あの細い通路を通ろう!あそこならカンクロはなかなか進めない。逃走ルートが決まった。路地を左に駆け抜ける。階段を駆け上って息を吐き出した。後ろからカンクロの「待ちやがれ!」の声に振り向きもせず、また息を吸って呼吸を止める。とにかく逃げるしかない。公園を真横に突っ切ってビルの裏側にあるビルとビルの間に出来たほんの数十センチ幅の通路へ駆け込む。身体を横にして息を吐き出しながら後ろを振り返ると、入って来たのはいいものの、お腹がつっかえるのか思うように進めなくなったカンクロが見えた。

「くそ、待て! 待てよ! ミツル!」

 言葉だけは偉そうだけど、その姿はどうにも笑えてしまう。思わず噴出しそうになった。――ガシャン。身体が何かにぶつかった。「え?」驚いて前を見るとそこにはフェンス。この前ここを通った時は開いていたはずのフェンスが目の前に閉じられている。ゆっくりと後ろを振り返ると、つっかえながらも徐々に近付いてくるカンクロが見える。何度かフェンスを揺らしてみるけれど開く素振りは感じられない。後ろから笑い声。

「ははは! 上手く逃げたと思ったか? 待ってろよ、もうすぐ追いつくからなっ!」

 走ってきたから汗が出てきているのか、これから起こることを想像して出てきている冷や汗なのか分らないほどに汗が噴出している。後ろからはズリズリと音を立てながらカンクロが近付いて来ている。「もうダメだ」そう思って視線を上へ投げかけた、その、ほんの数メートルほど先に、フェンスの切れ目。もう一度視線を戻すと既に目の前にカンクロがやって来ていた。

「捕まえたぞ! ミツル!」

 カンクロの腕が伸びてくる。行けるかどうか分らない。だけどここでやらなきゃカンクロに何をされるか分らない。カンクロに背を向けてフェンスに飛びついた。

「あ、この野郎! 待ちやがれ!」

 指にフェンスがめり込んで痛い。痛いけれどそんなことに構っている時間はない。つま先をっフェンスの隙間へめり込ませながら上へ、上へ。――突然、右足を引っ張られた。完全に追いついてきたカンクロが僕の足を捕らえている。

「逃がすかよ!」

 乱暴に引っ張られれば引っ張られるほど、手にフェンスがグイグイとめり込んでいく。それでも逃げたい一心で足をバタつかせせると、突然の浮遊感。いや、カンクロが僕の靴と一緒に尻餅を付いた。今度は右足にもフェンスがめり込んでくる。それでも上へ。やっとの思いで左手がフェンスの一番上を捉えた。一気に身体を引き寄せて靴の無い右足を反対側へ回す。そこでようやく下を見下ろすと、カンクロがフェンスへ体当たりをしようとしている瞬間だった。――ガッシャーン。フェンスが大きく揺れる。その振動でフェンスの向こう側へ落ちた。

「くそ、痛ぇ! そこで待っとけよ、ミツル!」

 偉そうな物言いのままカンクロはフェンスを登ろうとしているものの、その体重が仇になっているのか、二、三度登ろうとしては手に息を吹きかけている。その手は既に真っ赤になっていた。カンクロも少し涙目になっている。僕はそのまま何も言わず、右足は靴下のままその場を去った。

「ちくしょう! ミツル! お前、絶対に許さないからな!」

 何度もフェンスを揺らす音と一緒に、カンクロの声がビルの合間から響いていた。




≪03へ
05へ≫

FARFALLA - 05 -


ハコニワノベル

 固い。フィオーレ居住区の地面は固い。靴を履いていない右足を、地面にぺたりと付ける度にその固さを実感する。他に言いようのないほど平らな地面に、僕の右足は吸い付くようにくっついて離れることを繰り返している。当ても無く歩いてしばらくしてから、学校をサボっていることに気が付いた。これはトイレ掃除は免れないだろうな。
 そのまま歩いていると、いつの間にか倉庫エリアに来ていた。ふと、カプリコルさんの言葉が頭に過ぎる。

「朝は外に出ちゃならねぇ、危ねぇからな」

 カプリコルさんがわざわざ嘘を付くはずはない。ないのだけれど、してはいけないと言われるとしてみたくなる衝動に駆られる。いや、ダメだ。だけど…と何度も自分の中で葛藤を繰り返しているうちに、長い尻尾の黒猫が描かれた自分だけの倉庫に辿り着いてしまった。エアタンクの圧縮酸素の残量が半分以下なら辞めよう。だから圧縮酸素の残量を確認するだけ。そう自分に言い訳をしてから、いつもの窓から中へ入った。
 ストラトキャスター――僕のロケット。少しだけ深い緑色のシートを捲って中を確認する。残りのパーツはアブレータだ。もしかしたらこの時間帯に外に出たら、普段とは違う物が見つかりやすいのかも知れない。シートを元に戻してから、立て付けの悪いロッカーへ移動して、その横に置いてあるエアタンクの残量を確認した。――満タンだ。昨日外から戻って来たときに、カプリコルさんが圧縮酸素を補給してくれたんだったっけ。

「これは、行くしかないよな」

 急に神妙な顔をして、そんなことを呟いた自分が可笑しくなって笑った。笑い声が倉庫の中に響く。一頻り笑ってからスペースジャケットに袖を通し、満タンにまで補給されたエアタンクを背負った。分厚い扉を三度越えた先にある部屋へと進み、キーロックを慎重に解除する。

 ――ガタン、シュウィン! ウィン! ウィン!

 目の前数千、数万、いや数億の星が輝いている。それはいつも外に出ているときと同じ光景だった。だけど、普段目にしている外の様子とはまるで違っている。――フィオーレ自体が大きく動いているからだ。何度も旋回し角度を変えるので、フィオーレの外に放置されているロケットの残骸や、開拓地に残されていた作業マシンなどがゴロゴロと転がっている。きっとこれが、カプリコルさんが言っていた「危ない」という意味だろう。
 どこからかアブレータが転がり出てこないかと、あちこちに目配せしていると目の前が急に明るくなった。その光の方へ視線を向ける。かなり遠くにあるはずなのに、その光はスペースジャケットを着ていても暖かいと感じた。カプリコルさんの話に聞いていた太陽かもしれない。
 その光る赤い星をしばらく眺めていた。すると、フィオーレの角度が赤い星目掛けて変わろうとしていく。その瞬間、目の前に丸く穴の空いた白い星が現れた。更にその空いた丸い穴の中に、今まで見たこともない青い星が見えた。フィオーレは瞬く間に角度を変えると、今までの動きが嘘だったかのように静まり返った。それと同時に、さっき一瞬だけ見えた白い星とその先の青い星は見えなくなっていた。
 もし、さっきの光る赤い星が太陽ならば、リベルラの言っていることの意味が益々怪しくなる。確かに物凄いエネルギーではあるけれど、スペースジャケットのゴーグル越しに直視しても問題なさそうだし、言うほどの危険はなさそうだ。太陽電池パネルで覆われているフィオーレの裏側を、常に太陽の方向へ向けているのは本当だとは思う。でもさっき見えたのは何だったんだろうか。太陽というよりは、あの白い星と青い星に裏側を向けているように感じた。
 今まで外に出ていたときは、外と中とを繋ぐ出入り口付近から遠く離れたことはなかった。けれど今は違う。さっき見えた白い星、それから青い星をもう一度見てみたい。そんな衝動に駆られた。そもそも朝に外へ出ることを随分葛藤しながら迷ったのに、今は葛藤すらせぬまま駆け出していた。フィオーレの端まで行けば、裏側に隠されているモノが全て見えるかもしれない。まだ誰も知らない本当のことを知れるかもしれない。そう思うと自然と踏み込む足に力が入った。スペースジャケットの中から踏みつける外の感触は、あまり良く分らないけれど、少なくとも中の平らとしか言いようの無い地面よりは、確実に踏み応えがある。不安定な浮遊を何度も繰り返しながら、未だかつて行ったことのないフィオーレの端を目指す。
 どれぐらい進んだのか正確には分らないけれど、およそ出入り口とフィオーレの端との中間まで進んで来た。圧縮酸素の残量を確認するとまだ三分の二ほど残っている。戻ってくる分を考えると、半分無くなった時点で引き返さなければならない。足りるだろうか。少し不安になって、それまでよりも強く地面を蹴って行く。フィオーレの端とエアタンクとを交互に見ながら進んでいく。まだ先へ、もっと先、あの先端部分まで。
 しかし、そこからしばらく進んだ先でエアタンクが圧縮酸素の残量が半分になったことを知らせた。端までまだ距離がある。ここで無理に進んで本当のことを知ったとしても、無事に戻れないならば誰にそれを話せるだろうか。それまでの衝動に駆られていた自分とは別人のように、冷静に現状を判断して、今まで真っ直ぐに進んで来た道を戻ろうと振り返えろうとした、その瞬間。青白く輝くものが視界の中に飛び込んできた。まるでそれはこちらに近付いて来ているように見える。

「流れ星か…」

 その流れ星は視界の中でフィオーレに衝突した。突然の衝撃にバランスを崩しながらも、その衝突箇所へと走った。エアタンクは圧縮酸素の残量が三分の一になったことを告げている。だけどそんなことよりも、僕の目の前で起こっていることの方が重大だ。今目の前でフィオーレに衝突したのは流れ星じゃない。もちろん役目を終えた衛星でもない。これは紛れもなくロケットだ。それもただのロケットじゃない。だってカプセル状のそのロケットの中に女の子が乗っているのだから。




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FARFALLA - 06 -


ハコニワノベル

 分厚い扉を越えて中へと戻って程なく、僕のエアタンクの圧縮残量はゼロになった。カプセル状のロケットに乗っている女の子には悪いけれど、僕はそれをゴロゴロと転がしてここまで運んだ。倉庫の中でまじまじとカプセルの中を覗き込む。どうやらカプセルの中は液体がびっしりと入っていて、その中に女の子は浸かっている。眠っているようにも見えた。
 倉庫にあった古い台車にカプセルを乗せて、僕は家へと向かった。そのカプセルが何なのか調べたかったのと、中に入っている彼女が、もしかしたら宇宙人かも知れないという好奇心から、このカプセルを開けてみたくなったからだ。

「不用意に開けてしまって、それが原因で人類が滅亡しちゃったりして……」

 などと考えもしたが、すぐにそんなマイナスな考えはどこかに消えた。中にいる彼女が宇宙人だとしたら、少なくとも容姿は僕たちとそんなに変わらない彼女の星は、人類も住める星かも知れない。僕はそれを、このカプセルの中にいる彼女に聞いてみたくなったからだ。古びた台車は反重力システムを取り入れていないので、押して歩くのも中々に大変だ。ギィギィと変な音を押すたびに奏でている。
 出来るだけ階段を使わないルートを選んでいたので、随分遠回りになったけれど、家の前まで帰ってきた。残念ながら家の前には中途半端な階段が待ち構えている。いつもはそんなに気にも留めていないこの一、二、――五段の階段を、こんなに恨めしいと思うなんて考えもしなかった。台車の前輪を三段目に乗せ、息を止めてから後輪を持ち上げる。幅の広い階段で良かった。これが足がなんとか乗る程度の幅だったら、僕はここで家に帰るのを諦めたかもしれない。
 なんとか階段を登りきり、左手の甲をかざしてエントランスを抜ける。いつもは気持ち悪いエレベーションも、今回ばかりはありがたいと感じた。ふわふわと僕と台車とカプセルを浮かせて、なんの苦労も無く部屋へと辿り着いた。カプセルを部屋に入れる時に、台車の角とカプセルで廊下の壁を派手にガリガリと削ってしまったけれど、無事に部屋の中へ運び込むことに成功した。休む間もなく、僕はモニタをつける。
 ロケット関連の資料を検索していくと、目の前にあるカプセルは随分と昔に作られた一人乗り用のロケットであることが分った。残念ながら人類が作り出したものだ。本来ならば衛星軌道上を遊泳して帰還するロケットなので、保有出来る酸素量はそんなに多くない。緊急時に液体酸素で乗船者を沈めて仮死状態にする措置が取られるらしい。液体? じゃあ、この目の前のカプセルは……。
 更に調べると、液体酸素で仮死状態になってから一週間で酸素は枯渇してしまうらしい。その残量を確認すると、もうまさに酸素が枯渇しようとしていた。焦りながらカプセルを開く方法を探す。

「扉の両脇にあるレバーを引き、それを下側に捻る」

 説明を読み上げながら、実際に扉を開いていく。左側のレバーが固くて時間がかかったものの、何とか下側に捻るところまで進んだ。

「それから? え? このまま引っ張るの? それだけ?」

 宇宙遊泳するロケットのわりに簡単な開き方だなと思いながら、両手に握り締めたレバーを強く引いた。扉はびくともしなかった。もう一度説明に目を通すものの、特にその他には書いてない。一度息を吐き出してから、全体重をかけるようにレバーを引いた。ガコっと言う鈍い音と共に大量の液体が零れだす。あっという間に部屋中がずぶ濡れになっていく。その液体と同時に、中に入っていた女の子も流れ出て来た。
 僕は固まった。中から出てきた女の子は、多分僕と同じぐらいの年代――いや、そんなことよりも、女の子が、その、なんと言うか、つまり、服を着ていない。それに驚いた。フィオーレでは男女間の恋愛に厳しい制限がある。人類繁栄のため、勝手に人口を増やす行為――つまり、その、そう言った行為は禁止されているため、異性の裸と言うものを見ることは出来ない。いや、正確には授業でそう言ったことを習うタイミングで、資料としては目にすることになるのだけれど。とにかく、そんな授業でしか見ることのないものが、目の前に出てきてしまったのだから、固まるのも仕方がない。いや、さっきから僕は何を言い訳してるのだろうか。

「……お、溺れる!」

 突然、女の子が顔を上げた。




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FARFALLA - 07 -


ハコニワノベル

「ここ、どこ?」

 女の子はそう言ってキョロキョロと辺りを見回す。そして僕を見つけると飛び起きた。本当に言葉通り、軽く数メートルほど飛んで起き上がった。

「わわっ、難しいな」

 そう言いながら、女の子は僕の目の前に立つと目を大きくさせながら聞いてきた。

「ねぇ、ここはファルファッラ?」
「え?」
「だから、ここはファルファッラなの?」
「いや、その、何の話?」
「この星は、ファルファッラなのかって聞いてるの!」
「え、ここは、その、フィオーレって言う……」
「ちょっと! 何、顔を背けてるのよ!」
「いや、だって、その……」

 何度怒られたって、直視出来ないものは仕方がない。とは言いつつなぜかチラチラ視線を向けてしまう。柔らかそうだな、と思った。

「いつまで顔を逸らしてるわけ?」
「あのね、その、君がどこの誰だか分らないけど、服、着なくて大丈夫?」
「えー? ……あら? 私、服着てないや」

 ガサゴソとカプセルの中を探り出すものの、「無いや」とだけ女の子は呟いただけで、特に隠すでも隠れるでもなく、「無いなら無いで仕方がない」と開き直ってしまった。

「だけど、液体酸素でベタベタなのは嫌だなぁ。ねぇねぇ、シャワーとかある?」
「あるけど」
「どこ?」
「廊下に出て右の扉を入ったとこだけど?」
「ちょっと借りるね」

 僕の返答を待たずに、女の子はシャワーに行ってしまった。同じ言語を話しているところを見ると、人類であるのはほぼ間違いない。それでももしかしたら、高度な文明を持つ宇宙人である可能性もなくはない。廊下の先でシャワーの音が聞こえる。それとほぼ同時に、モニタが受信を知らせる音を鳴らした。ヴェルネさんだ。

「ミツル君、学校サボって何やってるのかな?」
「え、えーと、ちょっとお腹の調子が……」
「ふーん? そんなお腹の調子が悪いミツル君が、朝家を出てから昼過ぎまでどこに行ってたのかな?」
「いや、それはその……」
「君のメダル、ちょっと調子悪いのかなぁ? たまーに位置確認で探知出来ないのよね」
「そんなことってあるんですか?」
「……まぁいいわ。今日は調子が悪かったってことにしといてあげる」
「いいんですか?」
「あら、それならトイレ掃除でもするの?」
「いや、それはちょっと……」
「ふふふ。学校、明日はちゃんと行きなさいね」
「はーい」
「あ、そうそう、ミツル君」
「はい?」
「シャワーが出しっぱなしになってないかしら?」
「え? あ! み、見てみます! それじゃ!」

 半ば強引に通信を切断した。幸か不幸かトイレ掃除は免除されるらしい。それより、あの女の子が裸の状態で、僕に詰め寄っているときに通信が始まらなくて良かった。モニタを立ち上げているといきなり通信が入ってくる。僕はモニタを静かに落としてから、あの女の子が着れそうな服を適当に脱衣所に置いておいた。

「あーサッパリした。服、ありがとう」

 女の子は僕の置いておいた服を着て出てきてくれた。そこでやっとまともに女の子の顔を見た。髪の毛と目の色が透き通るような金色で、肌はシャワーの後なので少しだけ赤みを帯びているけれど、色白で綺麗だ。見とれてしまう。

「なに? 何か顔に付いてる?」
「いや、付いてない。付いてない」
「それならいいけどさ」
「あの……」
「ん?」
「名前、僕の名前、ミツル」
「あ、そう言えばまだ自己紹介もしてなかったね。私はテラ。はじめまして、ミツル」

 テラと名乗った女の子は、にっこりと微笑んだ。それから二人でびしょびしょになった部屋を拭いた。




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FARFALLA - 08 -


ハコニワノベル

「やっと拭き終わったー」
「終わったね」
「ありがとう、ミツル」
「え?」
「いや、ほらミツルが助けてくれなかったらさ、私きっとあのまま死んじゃってるよね」
「あ、えっと、うーんと……」

 上手く言葉が見つからなかった。確かにあのままの状態であれば、カプセル内の酸素は無くなって、テラは死んでいたのかも知れない。ただ僕はテラを助けたかったのではなく、人類が住める新しい星に繋がる情報を望んでいただけだ。それを思うと、素直に感謝される気になれなくなった。

 グゥ。

「あ、そう言えばお腹空いちゃった!」

 両手でお腹を押さえながらテラが笑った。つられて僕も笑った。二人でしばらく笑いあってから、僕はテラを廊下へと押しやった。「ちょっと待ってて」そう言いながら再びモニタをつけた。管轄のリベルラ社員への通信を選択しする。

「すいませーん」
「はい、こちらリベルラ社……って、ミツル君じゃない。どうしたの?」
「晩御飯をお願いしたいんですけど」
「へぇ、お腹の調子が悪いのに?」
「いや、めちゃくちゃ良くなりました!も うね、二人前ぐらい食べれちゃうぐらい!」
「はいはい。で、メニューはどうするの?」
「ベーシックパスタを二人前で」
「あはは。本当に二人前頼まなくていいわよ?」
「いや、本当に二人前で。なんだか今日はとてもお腹が空いてしまって」
「本当に食べれるの?」
「食べれますよ。あ、でもサラダは一人前にしてください」
「サラダも食べるわけ?」
「もちろん! だってバランスよく食べないとね」
「いいけど、残したりしないでよ?」
「分ってまーす」
「本当にオーダーしちゃったから、ちゃんと食べなさいね」

 通信を終えると廊下から「今の何? 何?」と興味深そうにテラが聞いてきた。説明を始めたものの上手く伝わらない。どうしようかなぁ、と思っていると受信ボックスのランプが赤く点滅して、中にはベーシックパスタが二人前と、スターサラダが入っていた。

「さっきのは注文してたってことなんだ。すごい、あっという間に出来ちゃうんだね」
「基本的に何でも頼めばすぐに届くよ」
「え、本当?」
「うん」
「じゃあさ、服とかも届くの?」
「もちろん」
「だったら、私、服欲しいからさ、頼んでもいい?」
「僕が頼むよ。テラはメダル、付いてないみたいだし」
「メダル?」
「これのこと」

 言いながら左手の甲を見せる。自分の左手の甲と僕の左手の甲を見比べながら「へぇ」とテラは呟いた。それから二人でパスタとサラダを平らげてから、テラの欲しいと言うものをリストアップしていく。リストアップするのだけれど、それが何なのかいまいち良く分らないものまであった。特に気にも留めず、テラには廊下で待ってもらっておいて、モニタから管轄のリベルラ社員への通信を選択した。

「すいませーん」
「はい、こちらリベルラ社XB地区管轄担当局」

 ヴェルネさんではなく、男のリベルラ社員が出てきた。基本的にヴェルネさん以外のリベルラ社員は無愛想で事務的で、機械的な対応しかしてくれない。けれどただ服を頼むだけだから、特に問題はないだろう。

「服をお願いしたいんです」
「かしこまりました。ご入用の服の種類、カラー、サイズ等をお教え下さい」
「えーと、ロングTシャツとタンクトップ、ロングTシャツはボーダーで緑、サイズはS」
「はい……?」
「それからショートのデニムパンツ、これもサイズはSで、スニーカーは23センチ」
「は、はい……」
「それから、えーと、ブラジャー? これは出来たらノンフレーム? で、えー、サイズはC65っていうやつあります?」
「えぇ……、ございます」
「じゃぁ、それで。あとショーツ。これのサイズはS。えーと、うん。以上でお願いします」
「か、かしこまりました」

 なぜかリベルラの社員が困惑していた。なぜ困惑していたのかはすぐに分った。女性ものの下着まで注文してしまっていたことを、テラが受信ボックスからそれを嬉しそうに取り出してきて、更に見せびらかされて理解した。僕はまるっきり変態じゃないか。やるせなく後悔している僕をよそに、テラは届いた服などを身に付けた。悔しいけれど、とても似合っている。




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