POSITISM

適度に適当に。

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世界の終わりを変えるモノ - 第二十四話 -


ハコニワノベル

 王の間に静寂が訪れていた。
 ソルは私が言ったことを理解できないでいるように見えた。ブラムは様々な書物を広げて云々と予言の紐解きに集中していて、カオスが襲ってきたことも、今のやり取りにも気付いていないようだった。タンクルと目が合うと、そっと右手の親指をグッとあげて微笑んでいた。
 そっとタンクルに近付いて小声で聞いてみる。

「も、もしかして……、朋章さん?」

「正解。なんだか本の世界に入っちゃったみたいだね。日向ちゃんはどうやら入っていないみたいだから、本を全部読んでないと入れないのかも知れない」

「うん、そうみたい。……って、朋章さん、声! !」

「シーっ、どうやらこの世界では声が出せるみたい。変な感覚だよ、声出すの五年ぶりだから」

 見た目は大人しそうな少女で、その声もその見た目と同じように女の子の声だったけれど、朋章さんは声が出せることに少し困ったような顔をした。それから朋章さんは「あの指輪取ってくる」とタンクルの部屋へと出て行った。視線をソルへ向けると、まだ困惑しているような表情をしていた。

「あ、愛している……だと? この私を? き、貴様、バカにしてるのか! シュバルツァ!」

「君を愛することが、君をバカにすることになるのか?」

「なっ……」

「俺は、君のことを愛している。ただそれだけだ」

 朋章さんも本の世界に入ってきていることを知って気が大きくなったのか、私は大胆な台詞を言えるようになっていた。更に困惑するソルは益々ひなちゃんとそっくりで、それがまた可笑しく思えた。

「く、くだらん。そのような戯言で、我を欺こうとしているのだな!」

「いいや、違う。俺は、あのとき妖精の国で君と出会ったときから、ずっと心のどこかで君を想っていた。君のことを想うことは罪になるのか? 君を愛していることは罪なのか?」

「な、何度も何度も、あ、あぁ……、愛しているなどと……」

「あはは……」

 指輪を持って戻ってきた朋章さんがそのやり取りをみて笑った。

「な、何が可笑しいのだタンクル!」

「いや……、お姉様も実は、シュバルツァ様のことがお好きなんじゃないかなぁと思って」

「そ、そんなことは無い! 断じてない!」

「おぉ……、そうかそうか……」

 そうブラムが言うと「なんだ? どうした? 何か解ったか?」とやたらと大げさにソルはブラムの近くへと移動した。それを見て「やっぱりソルはひなちゃんそっくり」と小声で話して、朋章さんと笑い合ってから、私達もブラムのいる方へと近付いた。

「まだ全てを紐解いたわけではございませぬが、この始まりの予言と呼ばれていたものを、未来に起こることだとして考えますと……」


  暗き淵より新たな太陽が昇る
  世界樹はその種子を撒き
  そこに新たな世界が芽吹く
  そして世界の始まり。


「世界樹が種子を撒くことで、新たな世界が芽吹くとあります。これは世界樹が世界を救うことを指し示しているように思います」

「世界樹? そのようなものがどこかにあると言うのか? ブラム」

「はい、ございます」

「どこにある?」

「妖精族よりも更に高度な文明を持っていたものの、太古に滅んだとされる人間の国に、世界樹と呼ばれる木がございます」

「人間の国……、世界の中心の大地のことか?」

「さようにございます。世界の中心の大地、その更に中心に、世界樹と呼ばれる木がございます」

「その世界樹が世界を救う手助けとなるのだな? よし……」

 ソルは朋章さんを見て、ほんのちょっとだけ私を見てから「行くぞ」と言った。私は小さく頷き、朋章さんは少し恥ずかしそうに「はい、お姉様」と言った。

「ブラム、城の地下室に結界を張って、予言の解読を続けてくれ。そして予言の正しい解釈を書物に記し、後世に残すのだ。私達は世界樹に赴き、世界を救う」

「……か、かしこまりました。その大役、このブラムが勤めさせて頂きます!」

 三人で城壁へ出向く。視界に膨大な数のカオスが入り込んできた。まるで津波のようだ。私は朋章さんに近付いて小声で話す。

「私ね、ずっとタンクルのその弓で、考えてたことがあって……」

「あ、僕も考えてた。これでしょ?」

 朋章さんは右手の親指、中指、小指の全てを差し出して見せた。

「そうそう、それそれ。もし、このまま上手く進めたら、世界を救えるのかな?」

「解らない。けど、やっぱりあの終わり方は変だと思ったんだ。やれることはやってみようよ」

「うん」

「何をごちゃごちゃ話している! このカオスの群れを蹴散らして、世界の中心の大地まで行かねばならぬのだぞ! ……シュバルツァ、もしかしたらこの先言えぬかも知れんから、先に言っておく。私もそなたを……いや、なんでもな……」

「……お姉様! きちんと言って下さい!」

「なっ、タンクル! べ、別にこれは言わなくても……」

「言えなくなったとき、どうするんですか! やっぱり言っておけば良かったと、おっしゃるつもりですか! ほら! 早く! あとで気付いたって遅いんですからっ!」

 物凄い剣幕で朋章さんがソルに詰め寄った。きっと由香里さんのことを思い出したのだろう。少し複雑な気持ちになった。どんな気持ちで、今の台詞を言っているんだろうか──。

「ここまで来て、想いを伝えることも出来ないほど、お姉様は意気地なしなのですか! ?」

「そ、そんなことは断じてない! ! シュバルツァ! 私も、そなた……を……愛して、いる」

「あぁ、俺もソルを愛しているよ」

「なら、死ぬなよ……シュバルツァ!」

 ソルがカオスの群れへと駆け出した。慌てて私もそれに続く。慣れない剣を振り回しながら、ソルと一緒にカオスの群れを切り裂いて、先へと進む。しかし、強引な中央突破は上手く行かず、あっという間に周りを囲まれてしまった。

「く、なんて数だ。いくら蹴散らしても増えていく!」

「ソル、とにかく目的地に行くのが最優先だ。あまり倒すことを考えない方がいい」

「言われなくとも、そうしたい! だがこれは、あまりにも数が多すぎる」

 周りをぐるりと取り囲まれ、ほぼ身動きが取れなくなった。
 ──犇めき合うカオスが一斉に襲い掛かろうとしていた。

「輝き射れ! 白き光の矢! リュミエールヴァイス!」

 城壁の上から親指、中指、小指の全ての指輪に力を込めて放たれた矢は、一瞬で視界に入るすべてのカオスを無に帰した。しかし、それでも地平線の先からじわじわとカオスが溢れてくるのが見えている。

「流石ね、タンクル! そのヴァルキューレで戦ってくれるなら、きっと世界を救えるはず! さぁ、今のうちに世界樹へ突き進むぞ!」

 矢を放った朋章さんと合流して、「詠唱は考えてたの?」と聞くと、「いや、勝手に口が動いてた」と困惑と興奮を込めて言われた。それならと、私は自分の影を動かすことを強くイメージしてみた。すると影が私を包み込んでいき、私は黒い獣の姿に変わった。ソルと朋章さんを背中に乗せて走り出す。まるで自分が風になったような感覚に陥った。
 駆ける私達を追いかけて来るカオスを、ソルの槍と朋章さんの弓で防ぎながら、ソルの指差す方向へただひたすらに走った。そして到着した草木の無い荒れ狂う大地の中心に目をやると、ガロムガンドよりも巨大と思われる木が姿を現していた。
 その木が見えるようになってから、カオス達の追いかけてくる気配が無くなった。というより、追いかけられなくなったように感じる。きっと世界樹はカオスにとって近付き難い何かを発しているのだろう。
 その巨大な木に近付くと、どこかしら声が聞こえてくる。

「ついに、この時が、きたか」




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