POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /37 -


ハコニワノベル

 意識が遠のく気がする。何かに引っ張られるように、自分が後ろ向きに倒れていくような感覚。いや、感覚ではなく本当に倒れてしまっているらしい。身体に力が入らない。あぁ、このまま倒れるんだなと確信しするのと同時に、背中を受け止められていた。「お昼寝タイム?」という爽太の声で我に帰った。
 反動を付けて支えている爽太を跳ね除けながら、なんとか自分の足だけで立つ。頭を振ってから両手で軽く頬を叩く。こんなことで打ちのめされている場合じゃない。見えていた未来がどういうものだったかを思い出せ。思い出せ。思い出せ。念じるように自問自答しながら思い出していく。

 ――繋がれた手、抱き合うように近い距離、片方には腕時計がなく、もう一方には腕時計、957、黒煙。二人の顔、御影龍彦と金原麻衣子。

 まだ御影龍彦の時計は958と表示されている。このまま二分以上が経過すればあの未来にはならないはずだ。それから、金原麻衣子をこの部屋の中に入れないようにすればいい。なんだ簡単じゃないか。まだ未来に抗う術は残されている。一度息を吐き出してから、金原麻衣子の方へ振り返った。怯えるような顔をした金原麻衣子が見える。その他に何か白いものが視界の奥に見えた気がして、ピントを視界の奥に合わせたが、無機質に廊下が続いているだけだった。

「御影君!」

 遠くを見ている間に駆け込もうとした金原麻衣子を「ちょい待ちぃ!」と無理やり引き止めた。

「何するのよ! 御影君が、御影君が!」
「あかん。絶対にこの部屋には入らせへん。知らんやろうけど、腕時計が外れても命の危険からは逃れられへんねん。だからあんたも危ないんや」
「なんでそんなこと分かるのよ! 私は腕時計外れてるから大丈夫に決まってる。離してよ、このままじゃ御影君が!」

 暴れた金原麻衣子に引きずられる形になった。引っ張っている腕を力任せに振り回されて、今にも腕を離してしまいそうになる。このままじゃ、部屋に飛び込まれてしまう。そうだ爽太にも手を貸してもらおう。それを伝えようとすると「手を貸すよ」と、どこからか聞こえた。その声に「おおきに、助かるわ」と返事をしてほっとした途端だった。視界の先で、金原麻衣子が半回転して私の腕から逃れて部屋に飛び込んでいった。
 脇目もふらず御影龍彦に抱きつく金原麻衣子が見える。御影龍彦の腕時計の表示が957に切り替わると、突如二人から黒煙が立ち上る。

「……」
「……」

 何も言えないまま御影龍彦を見ていると、向こうも何も言わずに視線だけ投げかけてきていた。そしてそのまま目を閉じて、開けたままだった部屋の扉をゆっくりと閉めた。閉じていく扉の隙間に二人の姿が飲み込まれていく。

 そして、扉が閉じるのと同時に爆発音。

 瞬きすら忘れていた。それなのに気づいたときには目の前に爽太がいて、辺りは扉の残骸が飛び散っている。少しだけ首を動かして爽太の向こう側を確認すると、吹き飛んだ扉の向こうで、下半身だけになった二人が寄り添っているのが見えた。
 後頭部の髪の毛が逆立っているんじゃないかと思うほど、ざわざわと自分の中に何かが渦巻いていく。爽太の腕に捕まって立ち上がってから、それを手にとった。

「お前、何者や?」

 出来るだけ感情を抑えて問いかける。質問に対する返答は得られなかった。今にも爆発してしまいそうな感情を無理やり抑えつけながら、再度問いかけた。

「お前、何者やねん」

 また返答はなかった。問いかけるのを辞めて、振り向きざまに矢を放った。自分の後ろ側、窓の近くに背中をもたれかけている、白いパーカーを着た何者かに向けて。
 矢は一直線に飛んだ。こんな心境の中でも狙い通りに。矢は白いパーカーを着た何者かがかざした右手に突き刺さった。いや、突き刺さったはずだった。視線の先で小さな黒煙が立ち上ると、矢は燃え尽きてから床へと落ちた。
 三本目の矢をセットして、白いパーカーを着た何者かに向ける。三度問いかけた。

「あんた、何者や?」

 フードを被っているため、顔がはっきり見えない。うっすらと見えるその口元が不気味に笑っているようにも見える。

「えーと、今はなんだっけ? あぁ! 思い出した。尻紙一族のトップってやつだ」
「……お前か」

 弦を引く右手に力を込める。そう言われればあの映像の中に出てきた白いパーカーを着た人物に見えなくもない。ただ、そんな憶測よりも確実に、目の前の奴が尻紙一族のトップであるという確信があった。こうして矢を向けられているというのに軽々しく答えたこと。一矢目を燃やして防いだこと。そしてなによりも、さっき金原麻衣子を私の腕から離して部屋に押し込んだのが、コイツだからだ。
 こちらの行為を意に介さないかのように、窓際からまるで知り合いに出会ったかのように、そいつは近付いてきた。

「それにしてもさっきのは良かったね。せっかく忠告してくれている人がいるのに、自分たちの欲望だけで動いちゃってさ。挙句の果てにボン! だもんね。アハハ! 傑作だよ」
「なんやて?」

 さっきよりも距離が短い。腕で防ぐことの出来ない速度で、今度は射ぬいてやる。そう決めて矢を放つ間際に、目の前の何者かはこう言った。

「それよりもさー。ねぇねぇ七ノ宮ちゃん。なんで腕時計が外れても命の危険が続くってこと知ってるの?」
「は? あ? え?」
「あれ? こっちではまだ自己紹介してなかったっけ?」

 そう言いながら目の前で、何者かはフードを下ろした。その素顔を見て目眩がした。若草色のドレス、二人の下半身……、あれはなんだったんだ。寒気を感じるように身体が震えている気がする。もう、弓矢を構えることすら出来なくなった。かろうじて口を開いて小さく叫んだ。

「なんで生きてるんや、島崎先輩……」

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スラッシュ\パーティ - /36 -


ハコニワノベル

 一階へ降りると、二階と同じように等間隔に扉が並んでいるのが見える。一階も二階も、構造は同じなのだろう。浅く深呼吸をしてから、まずはあの二人を探し出そう。既にあの二人はどこかの個室に入ってしまっているのだろうか。それとも、まだどこかを移動しているのだろうか。その肝心な部分が見えていないことに苛立っていると、ごく近くから声が聞こえた。

「立ち入り禁止、だったはずだ」

 その声の聞こえた方向を確認すると、ストライプのスーツに真っ赤なハンカチを胸ポケットに入れ、メガネをかけた男が見えた。手前から三つ目の扉がいつの間にか開いていて、その扉からこちらを覗き込むように、その男はこちらを伺っているように見ている。

「なぜ、ここにいる?」
「いろいろあったからや。あんたは確か、えーと、せや! 割紙譲」
「正解、だな」
「そう言えばあんた、パーティ開始前はここまで入らせてくれへんかったな」
「そういう、決まりだった」
「決まりねぇ」
「今は、それどころじゃない」
「それどころじゃない?」
「早く、逃げなければ」
「逃げる? どこに? 誰から?」
「尻紙の、トップからだ」
「なんやて? うちらも尻紙のトップを探してんねん。槍紙と守紙のトップも探してんねんけど、あの二人より早く見付けたかったところや。で、そいつどこにおるん?」
「攻守、二枚か」
「攻守二枚とか、役割の序列とかいうんはどうでもええ、尻紙のトップはどこやねん!」
「時間が、ない」

 そう言った途端、視界から男の姿が消える。扉は音もなく閉じられていた。

「この中か? とりあえず尻紙のトップはどこにおるんよ? それだけ教えてくれへん? おーい」
「静香」
「なんや」
「さっきの人ならそこにいないでしょ」
「は?」
「こっちの廊下からどこかに行っちゃったみたいだね」
「いやいやいや、さっきこの扉の内側におったやん」
「うん」
「いや、うん。ちゃうやろ。そしたらこの中におるん違う?」
「違う」
「なんでそんなん分かんねん」
「だって、そこの扉から出てきてさ、人の顔じろじろ見てから向こうに行っちゃったでしょ」
「見えたんか?」
「そりゃ見えてたよ」
「……」

 この扉から割紙譲が出てきたか? 出てきただけじゃなく爽太の顔をじろじろ見た? そして爽太の後ろへ続いている廊下の先へ行った? 見えていない。何も見えなかったはずだ。

「嘘やろ? なぁ、そんなデタラメ……」
「おい、七ノ宮」
「は?」

 振り向くと無駄に腕を組んで偉そうに仁王立ちしている男がいる。

「お前こんなところで何してるんだ? そうか、お前も泉さんのカードキーを探しているんだな」
「御影龍彦! 良かった、うちあんたを探してたんや。金原麻衣子はどこや? 一緒におるんやろ?」
「七ノ宮……、お前喋り方が変だぞ」
「うっさい、そんなことは今どうでもええやろ! 金原麻衣子はどこやねん」
「あ、あ、あのぅ……」
「なんや、後ろにおったんかい。良かった。とりあえずあんたらの時計見せてくれへんか?」
「時計? 金原はちょっと前に外れたんだ。俺のは今、1032だな」
「よし、間に合った。あんたもう下手に動いたらあかんで」
「はっ、なに言ってんだよ? 泉さんの時計を外すまで俺はカードキーを探すぞ」

 御影龍彦はそう言うと目の前の扉に飛び込んだ。「ちょっ!」と声をあげたもののどうしようもなかった。しかし、しばらくすると御影龍彦は平然と個室から出てきた。その腕に取り付けられている時計を無理やり確認する。

「なんだよ?」
「991……、まだセーフや。ほんまにもうあかん、絶対移動コストを使ったらあかんで?」
「だからなんでお前に指図されなきゃいけないんだよ。俺は泉さんを救うためならなんでもやるさ。お前びびってるんだろ? 移動コストなんてせいぜい20から30ぐらいだぜ? まだまだ余裕なんだよ。まぁ、流石にこの数字が600を切ったらやめるけどな」
「そうちゃう、お願いやからもうやめて。じゃないと、じゃないとあんたら二人とも死んでまう」
「ふーん。やっぱりお前びびってんじゃねーか。別に俺は考えなしに行動してるわけじゃないし、残り寿命もまだまだ余裕。ほら見てみろよ、ここの部屋の扉は移動コスト30だぜ? 往復で60減るだけだ、小学生でも分かる計算だろ」
「あかん言うたら、あかん! とにかくあかん! あんた紫ノ宮泉助けたいんやろ? これ以上無造作に動けばそれもできへんねんで?」

 気が付いたら襟首を掴んでいた。「な、なんなんだよ」と言われるほどに、襟首を掴む手に力が入っていく。それを御影龍彦は欝陶しそうに振り払って怪訝な顔で言った。

「なんでそんなことが分かるんだよ。一秒先に何が起こるかなんて、行動を起こした奴にしか見えないんだよ。それともあれか? 七ノ宮には未来でも見えてるとかか?」
「……」
「冗談。まぁ見てろよ、こんなのまだまだ余裕だってーの」

 こちらの制止も聞かず、御影龍彦が移動コスト30と表示された目の前の扉を開けて中へ入った。その腕時計には959と表示されている。

「な? まだ余裕なんだよ。びびってたら泉さんは救えないからな」

 扉を閉めようとしたのを無理やり止めた。

「なんなんだよ、ほんとに」
「ここは開けといてくれるか」
「お前ってさ、面倒なやつだよな。おい金原」
「……は、はい!」
「この扉開けといてくれ。ちょっと中でカードキー探してくる」
「う、うん」

 部屋の中を片っ端から、それでいてテキパキとカードキーを探している御影龍彦が見える。そのまま三分が過ぎてくれと強く願っていた。957を過ぎてしまえば、あのとき見えた未来は起こらないはずだ。

「ふん。この部屋もなさそうだな」
「も、もっと奥の方とか探した方がええんとちゃうか?」
「だからお前は何がしたいんだよ。探すなと言ったと思ったら今度は探せか? はっ、カードキーはそんなに複雑な場所に隠されていないんだよ。今まで見付けた傾向で考えれば、それなりに見つけやすい場所にしか隠されていない。よし、次の部屋だな」

 御影龍彦の時計は958と表示されている。あの未来は個室の中で起こるはずだ。だったら今外に出ればあの未来は起こらないはず。それなら出てきたらこの廊下で時間を潰させればいい。そう思い付いて御影龍彦を見ると、扉の前で立ち止まっている。立ち止まっているだけじゃなく、ぼんやり上を見上げている。

「なにしてんねん、はよ出ぇや」
「……無理だ」
「なに言うてんねん。とにかく時間がないねんで?」
「七ノ宮、お前の言う通りだったみたいだ」
「なにがやねん」
「この扉、外から中へは移動コスト30だったけど、中から外は……、1080だってよ」

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スラッシュ\パーティ - /35 -


ハコニワノベル

「なんでもっと具体的に説明しーひんかってん!」
「え?」
「え? ちゃうわ!」
「説明って何の?」
「そんなもん決まってるやろ、1080分も移動コストがかかることや」
「あー、あれか。もう過ぎたことだし、気にしないことだね」
「気にするわ! 1080分って十八時間やぞ? こんなことなら普通に移動コスト消費してれば良かったやん」
「静香」
「なんや?」
「切り替えて行こう!」
「……」

 小さくガッツポーズをして見せた爽太の後頭部を叩いておいた。こいつといると調子が狂うだけじゃなくて、状況も悪くなっていく気がする。軽く息を吐き出してから、気持ちを入れ替えた。
 槍紙舞子が開けた壁の穴から出て、館の奥へ向かいながら前に見えたものを一つずつ思い出してみる。

 ――繋がれた手、抱き合うように近い距離、片方には腕時計がなく、もう一方には腕時計、957、黒煙。

 自分の腕時計を確認すると2846と表示されている。あの二人のうちどちらか一方は、かなり移動コストを消費しているはずだ。現時点で私よりも移動コストを消費しているとなると、かなりのリスクを負って移動しているに違いない。そうまでして移動する目的が何かしらあるのだろう。それと、あの場所は狭かったように見えた。個室なのかもしれない。確か個室は一階の奥だったはず。それからあのとき見えたのは、視界がゆっくりと塞がれていくような、閉じられていくようなそういう映像だ。

「あ!」
「なんやねん、急にでかい声出すなや!」
「見て見て静香! ほら、あれミウ★マヤだよ」

 そう言ったかと思った矢先、爽太は走り出していた。確かに直角に折れ曲がった廊下の先に、等間隔で並んでいる複数の扉、その扉の一つの前で会話をしている男一人と女二人が見える。
 ――ピッ、ピッ、ピッ。
 突然自分の腕時計が鳴り出す。慌てて確認すると、2843、2842、2841と数字が減っていく。

「あんのどアホ!」

 スキップしながら、嬉しそうに視線の先を走っていく爽太を全速力で追いかけた。

「だから、これは十枚の演出でしょ。我々はさ、何も心配せずにここら辺の一室を借りて、次の出番を待てばいいんだよ」
「だけどマネージャー! ほら、この腕時計の表示がずっと減っていくんですよ?」
「マヤもこれ、演出とかじゃないと思うんですけど」
「これだから新人ってのは面倒なんだよ。いいか、この世界はなしょせん作られた筋書き通りに演じられてるだけなんだ。ぽっと出の君たちには、まだ理解出来ないかもしれないけど、これが現実」
「だけど……ねぇ、マヤ」
「うん。そうだよねミウ。あの、マネージャー。やっぱり不安なんですけど」
「大丈夫だって。それよりもさ、あの十枚とこうしてコネが出来たってことはかなりのアドバンテージだよ。同世代のライバルたちには完璧に差を付けたな。君たちのマネージャーに配属されて最先いいね。ふふふ」
「……」
「……」
「あのー、ミウ★マヤさん! 一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「え?」
「え?」
「はぁ?」
「あ、すいません。これでちょっと写真撮ってもらえます?」
「へ? あ、あっと! ファンの方ですか? 写真? んー、全然オーケーですよ。あ、でも勝手にネット上とかにばらまかないで下さいね。さっ、ほらほら二人とも! 写真撮りますよ。スマイル、スマーイル」
「あ、はい」
「わ、分かりました」

 視線の先で爽太が女二人に挟まれてヘラヘラしている。腕時計からはやっと音が鳴り止んだものの、数値は2823まで減ってしまっていた。もう歩いても大丈夫だけど、歩く気にはなれない。そのまま逆に加速していく。

「こちらの携帯で? かしこまりました。ではいきますよー、はいチー……」
「お前は、ええかげんにせぇっ! !」

 ――ピロリロリーン。
 間の抜けた携帯の撮影音が、廊下に響く。それからゴンという鈍い音。

「え?」
「え?」
「あ、え?」

 廊下の壁に激突した爽太と、激突させた私の間で男一人と女二人は視線を何度も往復させた。

「勝手に動くな言うてたやろ」
「あー、そうだったっけ」
「あんたわざとやってへんか?」
「うーん、どうなんだろうね?」
「うちが聞いとんねん」
「あ、すいません。写真どうなりました?」
「はっ、え? あ、はい。いやー、これはちょっと、そのー」
「いい写真撮れました? ほぅ……、これはまた綺麗なドロップキックの写真ですね」
「……で、ですね。あの、顔、大丈夫ですか」
「愛のムチですから」
「は、はぁ」

 爽太の耳をちぎれるほど引っ張ってから視線を戻す。男はスーツを着ていて、大きめの手帳を持っている。聞こえていた会話からするに、ミウ★マヤのマネージャーなのだろう。女二人はパーティ開演時に歌を歌っていたミウ★マヤの二人だ。

「お、岡崎さん。とにかくこの後私たちはどうすれば?」
「だから、この辺の部屋を一室借りて控え室として使えばいいでしょ。ほら、ここなんて別に鍵もかかっていないし」
「だけど勝手に入るのは良くないと思います」
「いいって、何か言われてもすいませんでしたで済む話なんだから。んー、ここはちょっと狭いか……。こっちは?」

 岡崎と呼ばれたマネージャーらしき人は、並んでいる扉を片っ端から開けて中に入っては出るを繰り返している。その姿を不安そうにミウ★マヤの二人が眺めている。

「不安に思って正解や。だから下手に行動しないことやで」
「へ? あ、ありがとう。あなたは?」
「そこにいるどアホのパートナーや」
「それより、今言った下手に行動しないってどういう意味?」
「あんたらのマネージャーみたいなことしないほうがいいってこと」
「何か知ってるの? この余興のこと」
「最悪の事態だってことは知ってるで」
「……じょ、冗談だよね?」
「あんたら知ってるんか? かなりの数の人が死んでんねんで」
「嘘! ?」
「余興の説明は聞こえてたし、腕時計も十枚のスタッフさんに付けられたけど……」
「そう言えば私たちが歌ったあとに、変な爆発音が何度もしてた」
「もしかしてあのとき?」
「そうや」
「……」
「……」

 無駄に不安をあおってしまったかもしれない。それからミウ★マヤの二人は口を開かずに、お互いに見つめ合って固まっている。

「とにかく、考えなしに動くと悲惨なことになるで。あ、それと……」
「ま、まだ何かあるの?」
「何?」
「あんたらの歌、うち好きやで」
「へ?」
「ほ?」
「これからも頑張ってな」
『あ、ありがとう!』

 無理やり自分撮りで写真撮影に勤しんでいた爽太を引きずりながら、反対側の角まで移動すると、一階へ降りる階段を発見した。



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スラッシュ\パーティ - /34 -


ハコニワノベル

 槍紙舞子がすぐ側の壁に対してまっすぐ向かって立った。その横顔からは、今までのチャラチャラした雰囲気はまったく感じられず、どことなくヒリヒリとした冷たい空気を感じる。静かに呼吸を整えているその姿と一緒に、頭の中に映像が流れこんでくる。

「あ、あかん! バンチョ、小早川さん伏せて! 早う!」
「えー? しーちゃんどういうこと?」
「……バンチョ、いいから伏せよう」
「千紗までどうしたのよー」
「いいから、いいから。ね?」

 二人は渋々とその場に伏せる。私も爽太からスルスルと崩れるように床に伏せた。「ん? どうしたの静香」と疑問を投げかけてくる爽太のことは軽く無視しておいた。

「……一蹴必貫」

 まるでダンスのターンのように、槍紙舞子がその場で軽やかに回ったかと思うと、その回転に合わせるように鋭い蹴りを壁に向かって放った。

 ――コツ。

 何事もなかったように、蹴り出した足を元に戻すと「出来たしー」とさっきまでの調子で話しかけてきた。それから数秒後、蹴られた壁から裂けるような音、そしてすぐにその音が砕けるような音に変わったかと思えば、一瞬で消し飛んだ。その衝撃が遅れて周りにある機材や、椅子や机などをそこら中に撒き散らした。
 これをやってのけた張本人の周りには、一切衝撃が来ていないところを見ると、これは無理やり力づくで行ったことではないらしい。守紙真には吹き飛ばされた長机がぶつかっていたが、まるで意に介していない。私とバンチョ、小早川さんは伏せていたおかげで特に目立った被害はなかった。何も知らずに立っていた目の前の爽太には、かなりの被害があるかもしれない。後ろ姿しか見えないが、さっきから微動だにしていない。軽い気持ちで盾にでもなってくれればと思っていたけど、すこし行き過ぎだったか。

「おー、凄い凄い」

 目の前の爽太は、ただ素直にそう言った。

「なにこいつ、マジキモイんですけどー。これだけ機材が飛び散ったってのに、もしかして、無傷ー?」
「ん? なんで機材が飛び散ったの?」
「アタイが今、目の前で壁に蹴り入れたからだしー。さっきの今で覚えてないとか、ウケルー」
「あ、静香見て! 壁にでかい穴開いてるよ。ここから出れば移動キャスト減らないんじゃない?」
「移動コストやろ……」
「アタイらは尻紙を見つけ次第始末することにしたから。そのついでに、あんたらもここから出ていいしー」
「よし……行くか、槍紙舞子」
「当たり前でしょ。十枚の秩序を脅かしたことの罪はー、しっかり償ってもらわないとだしー。それに、新入りに舐められっぱなしじゃ、攻守二枚としてのプライドズタズタ」
「そうだな。例え尻紙一族のトップだとしても、攻守二枚で排除できない道理はない」
「じゃ、アタイらは行くしー。ここは勝手に通ればいいけど、あの尻紙一族のことだから、下手に首突っ込めば命は無いと思うけどね。あはは!」
「一つ忠告しておく。我々の邪魔だけはするな。とばっちりで殺されたいなら別だがな」
「うちらは尻紙のトップ捕まえて、この余興を終わらせるのが目的やねんから、そっちこそ邪魔せんといてや」
「まー、早い者勝ちってやつ? だしー」
「そういうことだな」

 お互いに、壁に空いた直径数メートルはある穴の前で睨み合った。こいつらより先に尻紙一族のトップを探し出して余興を終わらせなければならない。余興を完全に終わらせることが出来なかったら、あの二人があのとき見えた未来のように犠牲になってしまう。未来は変わらないものかもしれない。だけど、確定した未来だと決めつけずに、自分に出来ることを出来る限りでやってみるべきだ。そう強く思った。なんだろう、なんとなく爽太と出会ってから未来に対する諦めが少なくなってきた気がする。そういえば爽太の姿が見えない。

「あー、こいつはやられたなー」

 壁に開いた穴の奥から声が聞こえる。睨み合っていた三人同時にそちらを確認すると、穴の向こう側に爽太が腕組みをしているのが見える。

「またこっちに気付かれずに動いてるしー。ねぇねぇマコちゃん、あいつさー割ちゃんみたいじゃない?」
「確かに。あいつも割紙もどっちも薄気味悪くて嫌なところも似てるな」
「マコちゃん、相変わらず毒舌だしー」
「爽太! 勝手に動くなって何度も言うたやろ!」
「ストップ!」

 しばいてやろうと穴の中へ進もうとすると、向こう側で爽太が両手を前に出して制止してきた。

「なんや? 命乞いでもするんか?」
「違うよ。だけど、こっちには来ちゃ駄目」
「ならあんたがこっちに来たらええ。な? ちょっとしばかれとこか?」
「うーん。それもお断りだね」
「なんやねんそれ。まぁええわ、今からそっちに行くから逃げんなや」
「だから来ちゃ駄目だって」
「やかましいわ。ほな、どないせい言うねん」
「夫婦漫才見てる暇ないしー。アタイらはもう行くからー」
「あぁ、あなた達も辞めた方がいいですよ」
「指図されるの嫌いだしー」

 爽太が制止するのを無視して、槍紙舞子と守紙真は穴の向こうへと行ってしまった。あの二人が先に尻紙一族のトップを片付けてしまえば、安全にこの余興を終わらせることが出来なくなってしまう。これ以上の遅れは致命的だ。壁の穴に飛び込むようにして、私は穴の向こう側へと出た。

「あちゃー。なんで来ちゃったの、静香」
「あほか、これ以上遅れられんやろ……って、なんでやねん」
「やられたしー。なかなかやるじゃん、新しい尻紙のトップ。益々お仕置きしないとだしー」

 穴を抜けた先の廊下側から穴の上を確認する。ため息のような、こらえきれなくなった吐息が漏れた。

「しーちゃん? 私達もそっち行っていい?」
「あかん! 絶対にあかん! 二人は中で待っとって!」
「どういうこと?」
「携帯でまた連絡するから。絶対、この穴は通ったらあかんで! いい? 悪いけど中で待っとってな」
「う、うん。分かった」

 薄目にして、まるで祈るように自分の腕時計を確認した。そこには2853という数字が無機質に表示されているだけだった。もう一度視線を穴の上に戻していく。出来れば嘘であってほしいと祈りながら。しかしそこには、デジタル時計のようなもので1080という数字が表示されていた。



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スラッシュ\パーティ - /33 -


ハコニワノベル

 ――ガッシャーン!
 何かが破裂するような騒音が収まると、さっきまで爽太が立っていた目の前に守紙真がいた。突き出した肩が積み上げられた機材を粉々に粉砕していて、あたり一面は機材の破片と埃が巻き上がっている。

「いきなり全開すぎだしー。これじゃもう粉々でご臨終ー」
「仕方ないだろう。これが我々攻守二枚の仕事だ」
「……」
「あぁー、アタイは別にさー、こういうことがしたくてあんたを呼んだわけじゃないから。不可抗力ってやつー? ま、そもそもあんたが、マコちゃんに素直に話さないからこういうことになるしー」
「これで邪魔者はいなくなったな。おいお前、これが最後だ。この状況は尻紙が意図的に作っているのか?」
「……」
「答えもせず黙るか。ならばもう一度……」
「あのー? さっきも言ったんですけど、僕の静香をいじめないでもらえませんか?」
「なにぃ?」

 守紙真の後ろにいる槍紙舞子、更にその後ろに爽太がいた。槍紙舞子は「いつの間にだしー」とか言っている。
 私はさっき首を掴まれていた影響で酸欠状態なのか、どうしても立っていられなくなってその場に座り込んでしまった。

「避けただと?」
「ん?」
「この俺の攻撃を避けたのかと聞いている」
「んー? それが何の話か知りませんけど、静香をいじめちゃだめです」
「なにこれー、マコちゃん完全に手玉に取られてるしー。マジウケルー」
「あ、そうだお姉さん。これ返します」
「はぁー?」

 そう言いながら爽太が差し出したのは、槍紙舞子が着ていたはずの布切れだった。よく見ると槍紙舞子はなぜか下着姿になっている。「ちょ、なっ! ?」とか言葉にならない声をあげてから、槍紙舞子はその布切れを乱雑に奪って慌てて身につけた。

「お前マジ何者ー?」
「だから何度も言ってますけど、静香と一生一緒にいる男です」
「ほんとこいつ意味不明なんですけどー」

 視線だけで槍紙舞子がこちらに疑問を投げかけてくる。

「アホか。うちにも意味不明やわ」
「あはは! なんかもうバカバカしいしー。やっぱりマコちゃんじゃ、話になんないじゃん。ここからはアタイが話すしー」
「……すまんな」
「えっとー、一応謝っておくけどさー、マコちゃんは気が短いから、聞かれたことはさっさと答えた方がいいよー」
「さいですか」
「でさー、さっきあんたが言ってたこと。つまりはー、腕時計を外しても余興は終わらない。爆発するのは腕時計じゃなくてー、最初の紅茶に入っていた何かってことは、間違いないの?」
「……間違いない」
「それは何を根拠に言っている?」
「もー、マコちゃんは黙ってなよ。話がややこしくなるしー」
「……すまん」
「もう一度聞くけどさー、あの映像で尻紙が説明していたことは嘘でー、腕時計を外しても命の危険は変わらないってことは、間違いない?」
「正確に言うなら、そうじゃない」
「どう言うことだ!」
「マーコーちゃーん?」
「……わ、悪かった」

 さっきからなんなんだろう、この守紙真という男。あれだけ傍若無人で圧倒的な力を持っているというのに、まるで槍紙舞子の言いなりだ。あんなチャラチャラした女一人を捻り潰すことなんて、さっきの一撃からしても容易いだろうに。何か弱みでも握られているのだろうか。

「でー? なにがそうじゃないのー?」
「あの映像で説明された余興のルールは、嘘じゃなくて本当や」
「あれー? それならキーを見付けるだけで、参加者の半分は助かるしー」
「時計を取り外すことが出来れば、この余興をクリアすることができる。あの映像で言われたのは余興のクリアだけや。それに、キーを見付けても二人に一人は助からない。二人に一人は助かるとも言ってへん。その証拠に、外れた時計はずっと動き続けてる」
「つまりどういうことー?」
「この余興を仕掛けてきた奴は、うちらに助かる道なんて残してないんや」
「……ふーん。じゃ、あんたはそんな助かる道のない状況で、何をしようとしてたわけー? 移動コストだっけ? そのペナルティなしで、ここから出てどうする訳?」
「そんなん決まってるやろ。この余興を仕掛けてきたやつを捕まえて、この余興を終わらすねん」
「……なーるほどねー」

 槍紙舞子はうんうんと頷いてから「だってさー、どうするマコちゃん?」と、黙り続けている守紙真に尋ねた。守紙真は「なるほどな」と言うだけで、それ以上は何も言わなかった。そのまま二人は小声で何やら会話を始めてしまった。

「静香、大丈夫?」
「ぼちぼちやな。ちょっとだけお花畑見えたけど」
「しーちゃん、ほんとに大丈夫?」
「ごめんね、私たちじゃ助けることも出来なくて……。どうなることかと思っちゃったよ」
「そんなに心配しなくても大丈夫やって、意識はあるし、どこも怪我とかしてへんから」

 と言って立ち上がろうとすると、ふらついて立つどころじゃなかった。気付いたときには既に爽太に支えられて、かろうじて立っている状態になっていた。「お昼寝タイム?」とか聞いてくる爽太に支えられているのを、なんとか拒否したいところだけど、残念ながら今は自力で立つことはできそうにない。さっき守紙真は自分の握力が二百を超えてるとか言っていたっけ。そんな握力で首を握られていたと思うと寒気がする。それからもう一つ気になること、確か我々攻守二枚とかなんとか言っていた。これは塗紙一が言っていた役割の序列のことかもしれない。あと、わざわざ我々と言っていたのだから、守紙真と槍紙舞子がその攻守二枚ということだろう。

「じゃ、それで決まりだしー」

 小声で会話をしていた槍紙舞子が、コツコツコツという足音を立てながら近付いてくる。

「アタイら、あんたに乗っかるしー」
「は?」
「あんたの話の信憑性はいまいちだけど、現時点での状況から判断すれば辻褄はあいそうだしー。それに、アタイらに対して挑戦的な十枚の新入りには、きっちりお仕置きしないとだしー」
「あんたらの都合なんかどうでもええけど、とにかくここから出られんの? あんたらだけの出入口とかあるんか?」
「今はないしー」
「それやったらどうすんねん……って、今は?」
「そ。その出入口は今から作るしー」



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