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| POSITISM | - 前向き親バカおとーさんの素敵な妄想エッセイ集。 - |
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「まぁ、着いて来いよぉ」
ビランチャさんはそう言うとスタスタと歩き始めた。風は更に強さを増していて歩き辛い。
「んー、お年寄りに前を譲る精神は嫌いじゃないが、そんなに後ろを歩かれると話がし辛い。もう少し近付けよぉ」
「あ、いや、すいません。す、すぐ行きます」
ビランチャさんの歩く速度に合わせようと必死に歩いた。いや軽く走っているのに近い。
「お前さんのロケット、ツギハギだらけだな」
「2年かけて部品を集めて、コツコツ作りましたから」
「ヒヒヒ、ロックだねぇ」
「ロック? ロックって、ジミヘンとかのことですよね?」
「お前さん、ウチュージンのくせに渋いこと知っとるね」
「僕にロケットの作り方を教えてくれた、カプリコルさんが教えてくれたんです」
「そいつ、いい趣味してるよぉ」
ニタリと嬉しそうに笑いながら、ビランチャさんは歩いていく。湿った風は強くなり、海は今まで見てきた中で一番波が激しい。ずっと海岸沿いをついて歩いていくと、今まで岩続きだったのに急に砂地になった。これが余計に歩きにくい。自分のペースで歩こうとすると置いていかれそうになるので、走りながら進んでいく。ここら辺りまでは来た事が無かった。砂地の続く先に迫り出した岩場があり、そこを迂回すると驚いた。見上げるほどの鉄塔に、オイルの臭いが充満している。「こっちだよぉ」と言いながらビランチャさんが招き入れてくれたのは、岩場に空いた穴の中だった。ビニールシートを潜り抜けて中に進んでいく。オイルの臭いが更に強くなった。そこら中にロケットと思わしきパーツが散乱している。
「これって、ロケットの部品ですか?」
「そうよ」
「大きいなぁ、フィオーレで見かけるロケットより何倍も大きい」
「お前さん、チキューの外からやって来たんじゃろ?」
「そうですけど……」
「多分、お前さんのロケットは宇宙空間で発射されとるな」
「そうですね、フィオーレの外からカタパルトで発射しましたから」
「やはりそうか。しかしな、あのロケットを直したところで、チキューからは出られんぞ」
「そうなんですか?」
「チキューの重力を振り切るためには、強力な推進力を維持し続けなければならんわけよ。つまり秒速11.2キロメートルで飛ぶ必要があるわけよ」
「びょ、秒速11.2キロ……」
僕の乗ってきたロケットはそんな速度で飛ぶ事が出来るだろうか。そもそもどうやってそんな速度が出せるのだろうか。話を聞きながら頭の中でフィオーレが遠のいていくような気がした。
「その強力な推進力を生み出すために必要な燃料を搭載するとなると、少なくともこれぐらいの大きさにはなるわなぁ」
「はぁ……、凄いなぁ。この大きさで飛ぶんだ。でも、これだけ大きくなると推進力の維持が難しくないですか?」
「燃料を使い切った部分から切り離して、重量を軽くしながら第二、第三ロケットを噴射させて推進力を維持していくのよ」
「なるほど切り離して……、良く考えられてるなぁ」
その後もチキューのロケット技術について話し込んだ。突然、外からザーッという音が響いた。ビニールシートを捲ってみると水が空から落ちてきている。
「降り出したねぇ」
「これが、アメですか?」
「久しぶりに降ったが、こりゃしばらく止まんぞ」
「これが、アメがフルってことなのか」
ビランチャさんは「やれやれ」と言いながら腰を下ろすと、古びたカップにコーヒーを注いで飲みだした。
「あの、それで、なんで僕とロケットを?」
「んー、そりゃお前さんが飛ぼうとしとるからよ。今チキューに住んでるやつでよぉ、チキューの外へ飛び出そうなんて考えてるやつはいないわけよ」
「何か物理的に問題があるんですか? 燃料が無いとか、部品が足りないからとか……」
「あぁ? そんなもん、ロックンロールが足りないだけよ」
カップをテーブルに置き、「ヒヒヒ」と笑いながらビランチャさんは続けて言った。
「でもよぉ、お前さんのその軟弱な身体じゃよ、ロケット作るのも、乗るのも無理だわな」
「え、そうなんですか?」
「お前さん、明日から今日通ってきた砂浜を十往復ランニングしろよぉ」
「十往復、ですか。わ、解りました」
「それが終わったら、ワシの朝飯作れ。そしたらロケット作って、昼時に昼飯作れ。そっからまたロケット作ってよぉ、日が暮れたら晩飯作れ。それが終わったら筋トレして、ほんで寝る毎日よぉ」
「え、なんかそれ、おかしくないですか?」
「いいから、やれよぉ!」
「は、いや、え、えっと……」
「返事はちゃんとしろぉ」
「は、はい」
「おい見ろよ、またノロマなミツルが来たぞ」
「本当だ。おーいミツル、ノロノロ歩くなー」
「うるさいぞ、お前ら」
「悔しかったら捕まえてみろよ、このウチュージン!」
「バカにしやがって……、待てぇ!」
「よし、逃げるぞー」
地面を蹴る。フィオーレでカンクロに追いかけられた時と同じように走っているつもりだけれど、チキューでの僕は目の前を走る子供達にだって追いつけない。フィオーレと比べて十二倍の重力。それは思った以上に僕の身体を動けなくしている。最初の一週間ほどは食事すらまともに出来なかった。
「おいおいミツル、本気で走ってるか?」
「あぁ、全力疾走してるよ!」
「はぁ、お前本当にノロマだなぁ。そんなんじゃいつまでたってもチキュー最速の俺様、このコメタ様には追いつけないぜ」
「いつか絶対に追いついてやるからな、コメタ!」
「何万光年かけても無理そうだけどな、じゃぁ、そろそろ飽きたし俺達帰るわ」
「くっそー! 絶対いつか捕まえてやるぞー!」
コメタは集落に住む子供達のリーダーのような存在で一番生意気な奴だ。調子に乗ってるけれど、集落に住む人の誰よりも足が速い。今日も結局追いつくことも出来ずに逃げられてしまった。チキューに辿り着いてから一ヶ月が過ぎた。自分なりにチキューのことを調べる毎日。その大きさ、強さ、豊かさに驚かされるばかりで、途方に暮れることが多い。深呼吸するように大きく息を吐き出してから座り込んだ。呼吸を整えながら空を見上げると、いつも白いはずの雲が灰色になって広がっていく。
「雨が降るね」
「え?」
見上げるとクローチェがいた。彼女は集落にある飲食店で働いている。どうやら今日の仕事は終わったらしい。
「アメ?」
「うん。さっきラジオで気圧が下がってるって言ってたし、きっと降るよ」
「フル?」
「うん。あ、いけない。洗濯物干したままにしてたんだった。ミツル、ごめん私先に帰るね」
「え、あぁ、うん。解った」
クローチェはそう言うと慌てて走って行った。アメがフルらしい。いや、何のことかは解らないけれどそうらしい。僕は立ち上がって伸びをしてから、海岸へと向かった。僕は毎日少しずつ乗ってきた宇宙船を地面へと上げる作業をしている。フィオーレで僕を待ってるテラを迎えに行くためには、またアイツを直して飛ぶしかない。ただ、チキューにはロケットの部品になるようなものがそこら中に落ちていない。ロケットは直せるのだろうか。
海岸まで出ると、いつもより湿った風が強く吹いている。風に押し戻されそうになりながら宇宙船へと進んでいく。すると普段誰も近寄らないこの場所に見慣れない人影があった。どうやら僕の宇宙船を見ているようだ。
「あの……?」
「んー? おお、お前さんが噂のウチュージンかね?」
「いや、お爺さん誰ですか?」
「ワシか? ワシはビランチャじーさんじゃ!」
「えっと、はぁ。僕はミツルっていいます。えっと、何されてるんですか?」
「コイツはお前さんのロケットか?」
「そうです」
「お前さんが自分で組み上げたのか?」
「一応そうですけど……」
「……」
ビランチャと名乗ったお爺さんはジロジロと僕の顔や手足を眺めてからこう言った。
「ワシと一緒にロケットを作らんか?」
「え?」
衝撃を感じ、轟音を耳にして、空気にぶつかっているのに気が付いた。この青い星には空気がある。それも信じられないほど大量に。着陸用のパラシュートは不完全に開いてしまったものの、信じられない量の水の上に落ちたため、何とかなった。
この星が青く見えるのは、この水のせいだと思ったけれど、大量の水の上に浮かぶロケットの中から見上げた、確かテラが空と呼んでいた天井も青色が広がっていた。
「凄いな、チキュー。いや、ここがチキューかどうか解らないけど」
興奮冷めやらぬままに、外へ飛び出そうと思ったものの、押しても蹴ってもハッチは開かない。始めは水へぶつかった衝撃でハッチが開かなくなっているのかと思ったけれど、そうではなかった。何度も何度もハッチを押し上げて、なんとか外へ這い出た時に、ハッチの故障ではないことが解った。センサーで調べてみると、十二倍だった。チキューだと思われるこの星は、フィオーレの重力の十二倍。ただ単純にハッチが重たくなってしまっていて、開く事が出来なくなっていた。
ハッチはなんとか開いたものの、水分摂取をしようと大量にある水を飲んでみたけれど、塩っ辛くて飲めたものじゃなかった。特に食料があるわけでもないので、そのままロケットの中で眠った。
――ガクン。何かに乗り上げるような衝撃で目が覚める。また何度も苦労してハッチをこじ開けると、水ではない何かにロケットが引っかかっている。ロケットから降りてみると立てる。どうやら地面のようだった。何日かそこを基点に調査を続けていたものの、空腹と喉の渇きで気を失った。
どれほどの時間が過ぎたのかは定かではなかったものの、今自分が横になっている場所がベッドの上だということは解った。
「良かった、気が付いて」
ほっかむりを被った女の子が安心したように顔を覗き込んでくる。
「え? ここ、どこ?」
「ここ? ここは私の家だけど?」
「いや、そうじゃなくて……ここってフィオーレ?」
「フィオーレ? うーん、ここはチキューだよ?」
「チキュー! ? ほんとにほんと? ここがチキューで間違いない?」
「え、う、うん。間違いないよ?」
「よっしゃー! 良かった! やったー! チキュー! 凄いな、チキュー!」
「も、もしかして、あなたって宇宙人なの?」
「え? 僕の名前はミツル。フィオーレから来たんだ」
いまいち納得はしてくれなかったけれど、彼女――クローチェは僕をしばらく家に置いてくれた。海岸で倒れている僕を発見して、家まで連れ帰ってくれたらしい。ロケットが引っかかった場所からほど近い場所に彼女の家はあり、またそこからすぐ近くには集落と呼ばれる人々が生活をしている場所があった。
「バカな、辿り着けるはずがない。あんな燃料すら積んでいないガラクタでは……」
「まぁね。でも辿り着いてしまったんだから仕方がないよね」
「くっ……」
「あ、あんたね、どこ行ってたのよ!」
「え? あぁ、そりゃもちろんチキューだよ。すごいな、チキュー!」
「だったらなんですぐに戻ってこないのよ! 私がどれだけ心配したと……」
「ごめんごめん、向こうでも一から宇宙船作ってたら二年経ってたんだよ」
「バカ! ほんと、もうバカ! バーカ! バカ……」
「久しぶりなのにバカしか言われてないな……。まぁ話したい事は沢山あるけど、その前にやっておきたいことがあるんだよね」
そう言いながらミツルは右腕をグルグルと回している。
「あんた何する気?」
「ん? ラリアット」
「バカ! あんたほんとにバカなの? あいつに私のラリアットが効かなかったの忘れたの?」
「ラリアット!」
「だから、無理だって……」
瞬間、ミツルの姿が目の前から消えた。そして私の目に映ったのは――。
――二年前。
振動、衝撃。激しく揺れた後に、浮遊感。カタパルトから無理やり飛び出した僕のストラトキャスターは、不安定な軌道のままフィオーレの裏側へと飛び出ていた。大量の太陽パネルが敷き詰められたその裏側を見ながら、制御することの出来ない宇宙船は漂っていく。
激しい光源を確認した。太陽だ。その間に見えるのはテラがフィオーレにやってきた日に見た白い星が見える。そしてその先に青い星。
「綺麗だな」
カプリコルさんによってロケット内の圧縮酸素は十分にある。しかしロケットには燃料がないため、飛び出したままの推進力で進んでいくことになる。そしていきなり大ピンチであることに気が付いた。どうやらあの白い星の引力に掴まってしまったらしい。このままだと、あの白い星に到着してしまう。燃料がないため、到着してしまった星に燃料がなければ、再び宇宙へと飛び上がることが出来なくなる。見たところ、あの白い星には燃料などはなさそうだ。
「まずいな、さっきテラがしたみたいに、圧縮酸素をロケットの外で破裂させて進路を変えるしかないか」
なんとか打開案を思いついたものの、自作のロケットにそんな設備がないことぐらい知っている。それでも無理やりそれを実行しようと右往左往していると、船体が大きく傾きだしたことに気が付いた。白い星とは別の方向へと引っ張られている。その方向の先へ視線を伸ばしていくと、フィオーレから見たときよりもずっと大きく、美しく見える青い星があった。
三つ目の倉庫を右に曲がって更に四つ。今度は左に曲がる。そこに積み上げられているコンテナによじ登ると見える、随分と錆びて見え辛くなった尻尾の長い黒猫のマークが付いている倉庫。辿り着くまでに四、五人のリベルラ社員がスペースヨーヨーでぐるぐる巻きにされたけれど。
補修されてから随分と時間が経っている窓から中へ入り奥へ向かう。妙に分厚い扉をひとつ越えた先でトーチョーキではなく、直接ウラーノの声が聞こえた。
「君は今、完全に包囲されている! 大人しく出て来なさい」
声の聞こえる方へと慎重に進むと、古いコンテナが並ぶ倉庫内の一角を、リベルラ社員が包囲しているのが見えた。取り囲んでいるリベルラ社員の手にはラッジョ銃、恐らく侵入者がこちらの要求に応じようとしない場合は、ここで始末するつもりなんだろう。
「部隊長、もうやってしまいなさい」
「し、しかし」
「これもフィオーレの治安維持のためです」
「了解しました。総員、一斉射撃準備! ……アタック!」
躊躇無く引き金を引かれたラッジョ銃から数多の光線が乱れ飛ぶ。何者かが潜んでいるのであろうコンテナが音も無く蜂の巣にされていく。次第にその形を形成出来なくなったコンテナが崩れていく。
「相変わらず、おっかない治安維持だね」
確かにそう聞こえた。瓦礫の山と貸したコンテナの上に人影が辛うじて見える。リベルラ社員達はその人影に銃口を向けた。
「まだ、慣れなくてさ」
「おい、止まれ! 止まれと言っている!」
「だってさ、十二分の一なんだよ?」
「何を言っている? 我々の言葉が理解出来るのであれば、動くな!」
「いや、だからさ、十二分の一なんだって」
「と、とにかく止まれ! さもなくば撃つぞ!」
「これ、ほんとに難しいな……」
「部隊長、構いません。処分してしまいなさい」
「はっ! 総員、一斉射撃準備! ……アタッ……! ?」
そこにいた全員の視界から人影が音も無く消える。取り囲んでいたリベルラ社員の一番後ろにいたウラーノの前に、その人影は現れた。
「ほんと、手加減の仕方が解らないや。ね、ウラーノさん」
「お前は……」
リベルラ社員に見つかってしまうことも関係無しに飛び出した。
「おいおい、ウソだろー? 普通生きてると思うか? な、ペーシ」
「ですよね、まさか生きてるなんて、誰も思いませんよね、カンクロさん」
「んー? おー! みんな久しぶり!」
「……」
「あれ? なんで黙ってんの?」
「うるさいわね、この……、この、バカミツルー! !」
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